コンテンツが売れない時代に何を売るべきか
音楽CDを筆頭に、アニメのDVDなどの映像作品、はたまたマジコンなどのゲーム他、その手の「作品」がネットを介して流出し、結果として商品が売れなくなるという話を聞くようになって久しい感があります。
もちろん、現状禁止されている事である以上、それらの違法アップロードを利用すべきではない、とは最初に宣言する必要がありますが。
しかし世の趨勢がこうなってしまったのは、必然といえば必然でもあり。
そもそも、人がお金を払うのは、それだけの価値を感じるからです。
かつては「作品」をパッケージング化し、それを日本中に行きわたらせユーザーに届けるというのは、個人では難しい行程でした。難しいからこそ、価値があったわけで。
しかしネットを介してのデータのやり取りがこれだけ普及した現在、作品データを個人が発信し、それを求めるユーザーに届ける事は、多少の知識があれば誰にでもできる、簡単な事になりました。
簡単な事には、大した価値がつきません。ユーザーが現在の小売を介した作品流通にお金を払うのを渋り出したのも、故ない話ではないと言う次第。
さて。では、コンテンツビジネスは今後成り立たないのでしょうか。今まで販売されていた様々な「作品」たちは、価値を失ってしまったのでしょうか。
そうでもないのではないか、と最近考えています。
確かに、出来あがった作品を届けるという工程は、デジタルデータの形式のものであれば誰でも気軽に出来るようになってしまいました。
しかし、作品を作る工程はどうでしょう? 独特の才能を持った作家が作品を書く事は、あるいは優れた技術を持ったアニメスタジオがアニメを作る工程は、センスを磨いたアーティストが楽曲を作る段階は、容易にマネのできるものではありません。
簡単に出来ない事には、価値がつきます。
なら、価値の発生している場所で、ビジネスをすれば良いのでは?
ニコニコ動画に、わりと最近できた機能で「ニコニ広告」というのがあります。
お金を払って得た「ニコニコポイント」を使い、特定の動画作品を目立つ場所に宣伝する事ができるのです。それで特にマージンが入ったりするわけではなく、単にその動画作品が多くの人に見られる、ニコニコ流に言うなら「評価される」可能性が高まるだけです。
現在、そういう形で「宣伝」されている動画数はかなりの数にのぼり、少なくないユーザーが、この機能のためにお金を払ってニコニコポイントを購入している事が推察されます。
普通、お金を払うのは、何かしらの商品やサービスを買う、その代金としてです。
ところが、「ニコニ広告」にお金を払っても、そのユーザー自身は何も手に入るわけではありません。ただ、自分の好きな作品が評価される、というだけで。
そんなところにお金を払う、という消費の形が成立しているというのは、何だか変なことのようにも思うのです。
しかし同時に、作品の「パッケージ化」にも、その「流通」にも価値が見出しにくくなってきた時代に、あり得べきビジネスの形として、意外に示唆的なのではないかとも思うのです。
作品が生み出される現場、そして作品そのものには、未だ価値はあるのだとすれば。
たとえば、そこに関わる形でならお金を払っても良いというユーザーは少なくないのではないかという事です。
たとえばですが……人気作品のスピンアウトとして、作中キャラのうちの一人を主人公に外伝作品を作ります、どのキャラの外伝が読みたいかの投票を行います、という形にして、その投票権を販売する――というようなビジネスは、成り立たないでしょうか?
まぁ、これだとあまりに明け透けで嫌悪感を持つ方もいらっしゃるでしょうが。
たとえば複数の漫画作品の新刊を同時リリースして、一番売れたものがアニメ化されます……とか。
人気作家の次回作について、そのテーマや展開や、ジャンルなんかも含めて、読者が見たいものを作家に(ある程度)要望できる、となった時に、そこにならお金を出しても良いという人たちもいるんじゃないか。
そこを、嫌味でなく、また創作のダイナミズムを殺さない工夫をしながら、ビジネスにしていくっていう道はないのかな、と。
要するに、作品生成にじかに影響を及ぼせる場を作るのです。そして、そこに参加するための代価を取る……と。
漠然としたアイディアではありますが、少なくともコピーコントロールとかで、既に価値のなくなった事象に「金払え」と言い続けるような方法よりは、先があるんじゃないかなと。
同時にこれは、作り手に対する「パトロン制度」に近い側面もあります。
私はあまり詳しくないのですが、AKB総選挙とかいう企画があって、そこでメンバーのうちの特定の一人を支援するために、写真集を大量購入した熱心なファンがいたそうで。
写真自体はデータとしてネットに流すのは簡単ですが、購入を通して好きなAKBメンバーを支援する、という「参加」の形はネットでコピーするわけにはいきませんし、そこに需要があるのだとしたら、もっと分かりやすいビジネスモデルが提示できるなら、先はあるんじゃないでしょうか。
アイドルだけでなく、他のコンテンツ産業においても。
……まぁ、エンタテインメントに関わる事ですから、あまり野暮に金もうけが透けて見えると、ユーザーにはそっぽを向かれるだろうとは思います。
なので、あくまでも楽しみながら、好きな作品が生成される場に参加する、という「価値」をビジネスにしていく道がないか、という事。そして大事な事は、結果的に創作による産業、コンテンツ産業が良い作品をたくさん輩出して、盛り上がること。
そんな風になればな、という事で、覚書として記しておきます。