機動戦士ガンダムAGE 第19話「アセムの旅立ち」

     ▼あらすじ


 高校を卒業したアセムは、連邦軍への入隊を果たした。父フリットのような軍人になろうと決意するアセムは、ミレース艦長率いるディーヴァに配属され、かつての白い狼、ウルフ・エニアクルのMS隊へと編入される。
 一方、潜入作戦を終えたゼハートは、地球制圧軍の司令官へと抜擢されていた。ガンダムを搭載していると見られるディーヴァに対し、ゼハートはMS小隊へ威力偵察を命じる。が、変形機構を備えた新しいガンダム、AGE2の活躍により、撃退されるのだった。



      ▼見どころ


    ▽ディーヴァへの配属



 連邦軍へ入隊したアセム
 少年時代のフリットが、身分が明確でないままディーヴァに乗り込み、ガンダムを動かしていたのに比べて、きちんと入隊の手続きを取り軍に編入(後に、伍長であると判明します)されているという対比にとりあえず注意しましょう。これも、アニメとして軍組織をきちんと意識して作られたガンダムシリーズのリアリズムに、より近づいた演出がアセム編でされている事を示すのだろうと思います。


 連邦政府の首相であるオルフェノアさんが地味に出て来ていたり、バルガスの服装がツッコミ所だったりしますが(笑)、全部に触れていると長くなるので割愛します。
 ここでアセムがディーヴァに配属されるのは、AGEシステムの運用にディーヴァが必要だからなのでしょう、必ずしも運命の悪戯的な何かではないように思えます。まぁ、後に出てくる白い狼さんについては、偶然もあるのかもしれませんが。


 そして、アセム世代のディーヴァクルーは、なかなか面白い顔ぶれになっています。



 艦長はミレース・アロイ。アンバット戦役時代にはオペレーターをしていた人ですね。
 ここで、女性が艦長になっている、というのは非常に面白いところです。
 ガンダムの歴史をまた紐解いてみますと、初代ガンダムに女性の艦長というのは存在しません。恐らく、ガンダム史上最初の女性艦長は、ZZの補給艦ラビアンローズの艦長であるエマリー・オンスではないかと思います(ハマーンのグワダンやグワンバンは、確か艦長を別に立ててたと記憶しているので)。そして、主人公の乗艦の艦長が女性となると、これはF91のスペース・アーク艦長レアリー・エドベリでしょうか。ただしレアリーさんは艦長代行、それも練習艦のそれに過ぎません。
 はっきりと、主人公の乗艦の艦長が女性という設定がスタンダードになるのは『ガンダムSEED』からだと思います。これは00になっても引き継がれた傾向です。
 そして、例によって、上記の歴代ガンダムの動向を、AGEは丁寧になぞっている気がするのですよね。キオ編でのディーヴァの艦長も女性なので。


 されに言えば、これは現代史の動向とも関連しているように思えます。
 再三になりますが、私はアセム編は『Zガンダム』(’85)から『ガンダムX』(’96)〜『∀ガンダム』(’99)くらいまでの歴史をなぞっているだろうという仮説を立てています。
 そして。現実の日本で、男女雇用機会均等法が成立したのが1986年なのですウィキペディアさんによると、1972年に成立した「勤労婦人福祉法」が改正される形で成立)。
 現実に、女性の上司というのが珍しくなくなる時期が、ちょうど90年代くらいなのではないかな、と思います。具体的なデータを持ち合わせていませんが、まぁ脱線的に一つ付け加えておくと、映画「007」シリーズで、ジェームズ・ボンドの謎の上司「M」を初めて女性であると設定した『007 ゴールデンアイ』の公開が1995年です。


 ガンダムAGEの物語進行に、現代史の動向を透かし見るのがどれくらい有効かは、私自身も計りかねている部分はあります。が、物語を眺める視点の一つとしては、わりと面白いのではないかと。



 さて、それ以外のディーヴァクルーもざっと見ていきましょう。



 索敵オペレーターに、なぜかロマリー・ストーン。
 彼女が軍を志願した理由についてはアセムも明確には把握しておらず、ブリッジ内でも詮索されたりしています。ぼんやり見ていると、アセムを追ってきたように見えるのですが……まぁこれについては、次の次の話をお楽しみに(ぇ



 メカニックにディケ・ガンヘイル。
 見違えるように立派になりました。



 そして、MS部隊の隊長にウルフ・エニアクル。
 戦闘中に「イヤッホゥー!」とか言っちゃう辺りはフリット編の頃から変わりないようで、何よりです(笑)。
 また、アセムに昔のフリットについて聞かれ「まぁ面白いガキだった」と答えてもくれました。多分、今やこう言えるのはウルフ隊長くらいだろうと思われ、そういう意味でも(父親を完璧に見てしまいがちな)アセムにとって重要な人物であるように見えます。


 そして、乱暴で適当なように見えて、かつてのフリット少年を戦闘時によくフォローしていたように、今でも小隊員に気を配る良い隊長であるようです。彼を知るというアセムたちの同僚、オブライト・ローレインは、早くも「最高の隊長」だとウルフを評するのでした。



 オブライトさん。
その特徴的な髪型は、どこかZガンダムシロッコやエマさんなどの、髪型芸を彷彿とさs……おや、誰か来たようだ……。



 そしてアセムの同僚・戦友となるアデルのパイロット、アリーサ・ガンヘイル。
 ディケの娘さん。非常に気さくな性格で、人懐こくアセムに接するキャラです。


 と、こんな感じのメンバーになっています。
 前世代の主要登場人物が、大人として新しい主人公の周りに配される構成もまた、「3世代の物語」であるAGEという作品の性質をよく伝えると共に、やはり『Zガンダム』に近いテイストを出す事にも寄与していると言えます。ただし、前シリーズ主人公の立ち位置だけは、大きく違いますが。


 そして一方、ヴェイガン側にも大きな変化がありました。



    ▽地球制圧軍司令ゼハート・ガレット



 トルディアへの潜入作戦から戻ったゼハートは、ヴェイガンの首領イゼルカントと通信を行います。



 まだ顔が全部見えないイゼルカント様。


 そしてここで、なんとゼハートは地球制圧軍司令を拝命する事になるのでした。
 これにはゼハート本人も戸惑ったようで、横に控えるメデル・ザントに「私があなたの上官とは……」と漏らします。


 イゼルカントがここで、ゼハートを大抜擢した理由は明らかではありません。ガンダム奪取のために潜入を行い、対象の確保に失敗し、ヴェイガン側に少なくない損耗を与えた事は確かですし、また実地に潜入工作員として派遣されていた人物が、いきなり軍のトップになるというのは性急すぎて違和感が感じられます。
 ……そうなのですが、この不自然さにも既視感を感じるところではありまして。初陣を飾ったばかりの頼りない新兵が、あれよあれよと言う間に、不自然なまま一組織のトップにのし上がってしまった例が、過去のガンダムにもありました。



 ガンダムZZの、この人です。
 AGE脚本がこういうのを意識的にやってるのかどうか分かりませんが、どうも記憶を探った時に思い当たるものが何かしら出てくるもので、なかなか面白いものです。


 とはいえ、現場の人間としては、まだティーンズの若造が軍のトップという事に不満もあるらしく、一般兵たちの露骨な不満にさらされる事になります。



「おいおい冗談だろ……」「あの若いのが司令官か?」「あんなヤツに命を預けろって言うのかよ」「勘弁だぜ……」


 ゼハート自身もこうした不満は当然と見ているようで



「突然この若造を上官だと言われて、受け入れられないのも無理はない」
 と述懐するのでした。


 後に、キオ編になってから詳しく述べますが、ここで連邦とヴェイガンの人材登用の対比を見ておくのは面白いと思います。
 連邦側は、若者はアセムのように能力があっても新兵として扱い、上官は年齢で上にあたるミレースやウルフです。ガンダムを与えられるという意味ではフリットの存在も影響していますが、しかし年功序列を逸脱した登用というのは基本的に行われていません。
 それに比べて、ヴェイガン側が、年功序列よりも能力主義的に人を登用してるらしく見える事には、この時点から注意しておいて良いでしょう。理由はいろいろ考えられますが、根本的に、マーズレイによって短命を宿命づけられたヴェイガン側には、年功序列という仕組みが成り立ちにくいのかも知れません。


 ともあれ、重責を負ったゼハートは、いよいよ具体的に兵を動かす事になります。ガンダム、AGEシステムを擁していると思われるディーヴァに対する、MS小隊による威力偵察です。
 同時にこれが、ガンダムAGE2の初陣となりました。


 戦闘シーンについては、純粋に気持ちの良い演出になっていて、特に難しい事を考えずに楽しんで見るのが良いと思います。ウルフさんが戦場全体に目を配り、部下をよくフォローしているところが印象に残る部分でしょうか。



 味方に密着した敵機を精密に狙撃。良い腕してます。



 またそれに先立って、敵機が接近してくると報告するオペレーターのセリフにも注目しておきましょう。このように言っています。



「照合終了、ヴェイガンのモビルスーツ、ドラドです!」


 オペレーターのこの報告から、敵がすでに「UE(アンノウンエネミー)」ではないという事が改めて実感されます。敵機のタイプを照合することが出来、その名前も既に知れているという事です。



 そして最後、ディーヴァに接近する敵に対し、アセムはウルフやミレースの命令を聞かずに追いすがり、これを撃破。
 しかし上官の命令無視という事で、



 ミレースより自室謹慎を命じられるのでした。


 かつてフリットが乗った頃のディーヴァは、民間人を格納庫に引き入れてMSを奪われようが、ブリッジに報告せずにガンダムを持ち出そうが、特に軍規による処罰がされたらしい様子はありませんでしたが。アセムの代の連邦軍は、その辺りも機能しているようです。


 これは作中内の視点で見れば、フリット・アスノによる軍の組織改革の賜物という事になりますでしょうし、以前から当ブログでやっているメタな見方で言えば、ガンダム以前の作中リアリズムで進行していたフリット編に比べ、よりガンダムらしいリアリズムが適用されている結果だと、言う事もできるのかなと。


 まぁもっとも、ミレースより謹慎を言い渡されたアセムはといえば、



 MSデッキでガンダムを見上げてたりするんですけど。ちゃんと謹慎してなさい(笑)。


 ……というようなわけで。
 アセムがディーヴァに乗り込み、AGE2が登場して、アセム編の展開が大きくなってきました。
 そして次回、アセムとゼハートが正面から激突する事になります。と同時に、ガンダム名物「赤いモビルスーツ」も登場するのでした(笑)。
 そんなわけで、また次回。



※この記事は、MAZ@BLOGさんの「機動戦士ガンダムAGE台詞集」を使用しています。


『機動戦士ガンダムAGE』各話解説目次