機動戦士ガンダムAGE 第9話「秘密のモビルスーツ」
▼あらすじ
ウルフに連れられて、マッドーナ工房へやって来たフリットたち。そこで見せられたのは、かつてノーラで戦ったUEのモビルスーツだった。不審を募らせるフリットたちの前でUEの機体が始動、とっさに工房にあった民間モビルスーツ・シャルドールで応戦するも歯が立たないウルフたち。ようやくディーヴァからガンダムタイタスが送られて来るが、敵MSの素早い動きに追随する事ができない。
しかし優勢であったはずのUEは何故か撤退していき、どうにか事なきを得たのだった。
▼見どころ
前回、タイタスの活躍にGエグゼスの大立ち回りと、アクション中心にシンプルな活劇回でした。また6話から設定を色々積み重ねた部分も一気に消化して、珍しく単純に爽快感のある話でした。
一方、この第9話は、元に戻って伏線ばら撒き回となります。
▽連邦の管理体制
Gエグゼスを入手してご機嫌のウルフに連れられ、マッドーナ工房にやってくるフリットたち。工房の大規模設備に一行は感動するのですが、一方でフリットは疑問も感じます。で、ウルフに尋ねるわけですが……
「でも、軍用モビルスーツは、連邦の許可を受けた施設以外でカスタマイズするのは、違法ですよね?」
それに対するウルフの答えがこうです。
「ああ。だがな、それでも俺みたいな奴からの注文が後を絶たないのは、ここのおやっさんの腕が良いからだ!」
あのー、ウルフさん。それ全然答えになってないんですけど。
要するにマッドーナのやってる事は違法行為なのでした。しかしそれにも関わらず、工房のハンガーには民間のモビルスーツに混じって、ジェノアスがずらっと並んでいます。
そもそも、第6話でイワークさんが銀の杯条約について話してくれましたが、あれが本当なら兵器は全廃されているはずです。連邦軍の軍事力は別勘定としても、ザラムとエウバの小競り合いをミレースたちは知っているようでしたし(第6話)、GエグゼスもUEを撃破するだけの威力を持っているのですから条約に照らせばアウトなはずです。
要するに。この世界において、少なくとも治安維持のための法令はかなり有名無実化している事が見て取れるのでした。
これはもちろん、UEの被害に対して連邦側がほとんど有効な手を打てていない(ように見える)事とも関連しているように思えます。その一方で、ディーヴァの艦長に不正になりすましたグルーデックへの追及だけは迅速に行われています。これを矛盾とみるか、そうでないと見るかは人それぞれかと思います。
個人的には、むしろ一種のリアリズムとして描写されているように感じます。対外的な脅威に対応できないまま、身内に対する綱紀粛正だけがエスカレートしていくというのは、組織の末期症状として割と見られるように思うので。
こういうところで、地味に世知辛いリアリズムを潜ませているのも、AGEという作品の奇妙な特徴です。
▽UEの「モビルスーツ」?
この第9話において、目論まれている事は非常にシンプルです。これまでも断片的に描かれてきた事、つまり「UEというのは、実は人が乗っているマシンなんじゃないか?」という疑問が徐々に形を成していく移行期としての話という事です。
そもそも、AGEの序盤において、敵勢力であるUEはあたかもそれ自体が巨大な生命体であるかのような表現をされており、また作中キャラクターたちもそのように敵を扱ってきました。
ディーヴァクルーたちはUEの機体を「UEのモビルスーツ型」と呼んでおり、直に「モビルスーツ」とは呼びません。
またグルーデックは、UEが拠点にしている連邦軍の廃棄要塞を、「UEの巣」と表現します。あたかも、それが生物の棲み家であるかのように。
ところが、作中で実際に起こる出来事は、そうした動向とは反対にUEに人が乗っている事を暗示していきます。特にこの回、その事が鮮明になります。
ここで、他のMSと同じようにただ直立して並べられてみると、UEはまぎれもなく、人が乗り込んではじめて動き出すであろう「モビルスーツ」である事を強烈に暗示させられることになります。
おまけに、このUEは武器商人のヤーク・ドレが運び込んだものだと言われるのでした。
ところが、フリットたちが到着したと同時にこのUEが暴れ出し、事はうやむやになってしまいます。
このUEをなんとか撃退した後、ムクレド・マッドーナのセリフでさらに、この疑問は鮮明になる形になるのですが……
「遠隔操作か、オートパイロットか、またはパイロットが潜伏していたとも考えられる」
このセリフは、UEが人の乗る兵器であることを前提にした発言です。
おおよそこのようにして、UEがモンスターではない事が徐々に視聴者に知らされていくわけなのですが……。
ネタバレにはなりますが、この辺りで結論を先に言ってしまうと、UEには人が乗っています。ここまで匂わされれば、あまり驚く方はいないかも知れませんが。
実際、リアルタイムに放送を視聴した方でも、勘の良い方は第1話の時点でこの事に気づいた方も居たようです。フリットが初めてUEを撃破した直後、このようなカットが入るからです。
短いカットですが、これによってUEがただ本能まかせに人を襲っているモンスターではなく、知性と、さらには指揮系統もあるらしい事まで察せられます。この時点で既に、そのような伏線も張られていたわけです。
しかし、このような展開を経ても、作中人物たちはUEに人が乗っているという結論になかなか至ろうとしません。その事を認めたくない、認めない姿勢が、後に手痛いしっぺ返しとしてフリットたちに降りかかってくるのですが……それはまた、先の話になります。
その一方で。
上記のように、フリット編全体の進行に位置付けてみた限りでは、かなり念入りな伏線として機能していると言えるわけなのですが。しかしでは、ミクロなエピソードとして見た時にはどうかというと、いまいち釈然としない回でもあります。
なぜUEの機体をわざわざ工房などに預けて晒すような真似をするのか。またなぜフリット達がUEを確認したあのタイミングで動き出したのか。特に後者は、見ようによってはご都合主義とも思えます。UE側の事情を邪推する事も不可能ではありませんが、物語上できっちりと材料を提示して視聴者の推理を誘っている形では全然ありません。
またフリットたちもほとんど一方的に攻められているだけで、宇宙空間でのフリットのMS乗換以外に見せ場らしい見せ場もありません。単純にロボットアクションものとしてのカタルシスは、この回にはほとんど存在していないと言ってしまって良いでしょう。援護のUE機を2機くらい出して、タイタスに撃破させるだけでも違うはずです。
そういう意味で、結果的にガンダムAGEという作品のシナリオ上のウィークポイントが露呈されてしまっている回でもあると言えます。
特に低年齢向けのエンタテインメント作品であろうとするなら、純粋にカッコよく活躍するガンダムの姿を高頻度で入れるべきでしょうし、伏線を毎回張りつつも、気持ちよく感情が走るようなカタルシスを何らかの形で差し挟む配慮が必要なハズなのですが、むしろそうしたミクロな活躍描写が一番シナリオの犠牲にされがちなのが、このAGEという作品なのでした。
正直、特にフリット編でそうした純粋な活劇の面白さに目配りをしておけば、もう少し反響も違ってきていたでしょう。
特にこの第9話を見ると、その辺が惜しく感じられるのでした。
なお、この回における数少ないフリットの見せ場は、工房のMSシャルドールからガンダムへの乗り換えシーンです。生身で宇宙空間に飛び出すわけですが、このシーンはおそらく『逆襲のシャア』でクェス・パラヤがヤクト・ドーガからサザビーへ乗り移るシーンを下敷きにしているものと思われます。
上:クェス 下:フリット
相変わらず、過去のガンダム作品からの引用は多彩なところです。
逆シャアついでにいえば、エンディングテーマで流れる映像中、エミリーが作業中のフリットの後ろで、膝を抱えて浮いているシーン、これも逆襲のシャアのチェーン・アギが元ネタです。
こういう引用は、恐らく私が気づかずに見逃したものも含めて、かなり大量にあるのかなという気がします。
その他、ヤーク・ドレについてや、ついにグルーデックがディーヴァクルーに今後の行動について話した事など、今後の展開のための段取りがいろいろあるのですが、それらについてはまた、後々の話と合わせて拾っていきたいと思います。
次回、いよいよファーデーン編に決着がつきます。引き続きのんびり解説していきますので、気長にお付き合いください。