殺す・集める・読む――推理小説特殊講義

 

殺す・集める・読む―推理小説特殊講義 (創元ライブラリ)

殺す・集める・読む―推理小説特殊講義 (創元ライブラリ)

 

 

 ホームズシリーズ読破の記念に。

 高山宏先生の著作となれば、これはもう私にとってはご馳走みたいなもので、博覧強記とそれに裏付けられた豊富な洞察に浸るだけでもう幸せなのだった。

 本書もドイル、チェスタトン、クイーン、クリスティ、乱歩に小栗虫太郎などなどのミステリ作品をわりとマイナーなタイトルまで押さえた上に、同時代の文学、風俗習慣や事件、さらに16世紀に急激に深まった暗号学の系譜とかケインズ経済学までも援用して、推理小説というこのヘンテコな文学形式の成立や展開を縦横に論じるという、とんでもない充実度の一冊なのでありました。

 あまりにも手広いので知らない作品や出来事への言及も多く、そのたびに「ああ、これも読んでおきたいな」などと焦燥感にかられるわけですが、正にその焦燥感こそが私の読書のモチベーションの一つなのであります。たまにこういう本を読むことで、私のそっち方面へのやる気がどんどん充填されていくわけだった。

 

 とりあえず本書に触発されて、この後にチェスタトン作品を読み始めたりするわけですけど。ブラウン神父のシリーズは知ってましたが、チェスタトンが逆説、つまりパラドックスの大家としてどんな小さな文学事典にも載っている名前だ、などと言われて、知らなかったので仰天したりするわけであります。うーむ。世の中知らない事がまだまだ多い。

 とりあえずそんなわけで、推理小説というこの特殊な作品形式をテーマにこんな多様で豊穣で深いアプローチができるという事にただただ瞠目した読書でありました。興味のある方には是非お勧めしたい。