禁断の科学

禁断の科学

禁断の科学


 人文系の知識は、まあ人並みにはあるものの、自然科学系はどうも手薄だなぁと思って、今の自分の関心と微妙に引っかかる辺りからちょっとアプローチしてみようと思い手に取ったのがこの一冊。
 特に、核兵器の話をはじめとして、戦争と科学について多く筆が割かれているので、その辺をとっかかりに色々考えてみようかな、と思ったり。


 とはいえ、読んでいてだいぶ退屈だったというか、鼻についたというのが正直な感想。
 なんだろうな、科学の健全な発展によって明るい未来が実現可能、というスタンスで書かれているのが既にして同調できないと言いますか。その健全な発展を、「モラル」によって促進しようっていう考えも私にとってはアクチュアルじゃないし。
 戦争=悪、っていう単純な図式でとにかく戦争に積極参加した科学者を否定的に語ったり、そもそも愛国か平和かっていう二項対立の図式自体が的を外してる気がするし。
 確かに科学に関する造詣は深いのでしょうが、その辺の政治的・社会的・思想的な部分があまりにも薄っぺら過ぎて、とても頷いて読める気分ではありませんでした。
 まあ、今後池内了を読む必要がない、と分かったという意味では有意義でしたけど。


 まあそれはそれとして、科学者の書いた本なんだなぁ、という実感を持たせてくれたのは、「研究結果などの情報をすべて公開してこそ健全な発展がある」というのを至上の事として提示している辺りでした。
 で、その文脈でいくと、企業の利潤や、軍事研究であるためなどの理由で情報が外に出ない事が由々しき事である、という事になっていくわけですけれども。
 なんだろうな、私自身にもそういう風に思いたい部分があるからあまり大っぴらに言えるわけじゃないのですが、科学的探究というような学者の持つ目標が、世俗の利益追求や戦争目的とは一線を画する、イノセントなモノだというような捉え方が、妙に鼻についたりして。
 その辺が、昔の自分と比べてどういう心境の変化なのかな、というような事を漠然と考えたりしました。


 その辺を差っぴいて読む限りでは、色々と参考になるし面白い本ではあると思います。
 まあでも、私は勧めないな、という感じでした。