原宿を発して海へ出づ

 自慢じゃないですが、原宿へ行った回数より巣鴨へ行った回数の方が多いです(ぉ
 そもそも野暮が服着て歩いているような私にとって、原宿なんて最も縁が遠い街のひとつ。
 ……であればこそ、行ってみる価値があるんじゃないかなと思って、今回原宿を出発点に選んでみました。



 そういうわけで、午前11時過ぎ、原宿駅着。やっぱ若い人多いですね。なぜか若干気遅れを感じますが、ときどき人の群れに交じっているおじさんおばさんに心励まされるようにして歩き出します。人の流れに乗って、メインの通りへ。


 間もなく、私好みの字面を見つけて脇道に逸れました。
「浮世絵太田記念美術館
http://www.ukiyoe-ota-muse.jp/


 せっかくなので中に入ってみたんですが、いや、これがなかなか楽しめまして。
 私が行った時の展示は月岡芳年の「風俗三十二相」と「月百姿」。芳年は明治時代に活躍した浮世絵師ということですが、この展示作品はバラエティに富んでてすごく良かった。
「風俗三十二相」は、「さむそう」「いたそう」などという状態を表す言葉に託して様々な身分・姿・シチュエーションの女性を描いた図。無論、「さむそう」などのタイトル末尾の「そう」は、元々仏教起源の言葉である「三十二相」の「相」とかけてるわけですが。
 浮世絵の美人画というと、構図はいろいろあっても、基本的に表情にあまり変化はないような印象がありましたが、この連作はそうではなく。猫に覆いかぶさるように抱きついて遊んでる娘とか、お灸の熱さに耐えてる良家の奥さんとか、とにかく表情も構図も色々で、見ていて飽きない内容。「けむたそう」といったタイトルの絵では、浮世絵の技術で煙をちゃんと臨場感込めて描いてて、そのテクニックも面白かったですよ。


「月百姿」は、古今東西の「月のある情景」をテーマにした連作。これがまた、題材が中国の神話から故事から歴史から、日本神話から平家物語、和歌、中世の合戦から狂言からごく近年の風俗まで、とにかくやたら幅広く。題材に合わせて絵柄も変わるし、緊迫感のある情景から哀愁漂うものから滑稽なものまでと、こちらもすごいひきだしの多さで魅せてくれました。いや、本当に、浮世絵ナメてたね。すごい。
 同時に思うのが、これは見る側も相当に教養があったんだなという事です。私は、絵の隣に情景の出典や説明が詳しく載ってましたからそれを読む事でかろうじて「何を描いた絵か」分かりましたけれども。これを買ってた明治の人たちは、そんな解説なしに、絵とタイトルだけ、せいぜい描かれた人物だけで、何のどの場面か分かったんだろうなと思うと、それはけっこう基礎教養高いよなぁと思ったり。
 江戸時代の町人とかって、けっこうレベル高かったのかね。


 他にもいろいろと作品がありましたが、本当にこれは、単に歴史的価値とか芸術的価値とかいう難しいこと一切なしで、単に絵として凄いですよ。牛若丸と悪漢が戦ってる絵とかありましたが、あのままpixivに投稿されればデイリーで1位取れるよ多分。それくらい。


 とにかく堪能しました。これ見ただけで帰っても、出かけた甲斐があったなという。
 しかし無論、まだまだ行くよ。



 その後、元の道に戻って、表参道の通りを歩きました。
 私がここを歩くのは二度目かな。一回目は大学時代、たしか私が唯一女子とデート的な事をした日だったなぁ(遠い目
 やっぱりこの道は、何度歩いても気持ちいいですね。道の両側で青々と枝を広げてる並木のお陰で、すごく雰囲気が良い。



 ありきたりな構図だけど思わず撮ってしまった。この両側の並木がすごく気持ちいい。


 なんだろう、街の単位で「オシャレ」なのって私の知る範囲ではここだけなんですよねぇ。東京の中では珍しく、カラーを統一する事に成功してる場所って言う感じがあります。
 いや、偉そうに言うほど歩き回ってるわけじゃないけどさ。


 こういう道なら、女性が思いっきり「オシャレ」な格好して歩いても様になると思う。無遠慮な広告とかパチンコ屋とかマツモトキヨシとか(笑)、そういうのがある道じゃあ、ファッション雑誌に載ってるようなオシャレな気分で歩けないもんね。
 道の両側にある小物屋とかをひやかしながら歩くだけで、すごく楽しいわけですよ。
 路地裏に入っても、さほど「ハリボテの裏側」を感じさせないという意味でも。街づくりの面で成功してる場所だなぁと思う。



 とはいっても、忽然とこんな石灯籠が現れたりするのは謎なんですがw


 さて、そんな表参道のオシャレな道もやがて尽きます。ちょうど尽きるあたりに、秋葉神社という小さな神社があったので参拝。
 とはいっても、どう見ても参拝客のいなさそうな神社でしたが。手水に水がないどころか、ゴム手袋が干してあったり(笑)。



 鼻の欠けた狛犬さん。どーせ俺らぁオシャレじゃねぇよ。


 さて。当初は原宿周辺を散策するつもりだったので、この辺でUターンして引き返すつもりだったのですが、何となくそのタイミングを逸してだらだらと歩いていってしまう私。そのまま青山周辺へ。
 青山墓地の脇を通り過ぎて、気づいたら六本木方面へ足を進めていました。



 プーチンですね、分かります。



 ちょうどこの辺りでお昼でして、空腹を感じてきたのですが。
 いや参りました。私みたいな野暮天一人が気楽にふらふら入っていけるような店が全然ない(笑)。そもそも食事に千円以上かけるという発想がない男なので余計です。
 朝食を自宅で軽くカップ麺で済ましてきたのも仇になりまして。昼もラーメンという気にどうしてもなれず。昼食をとるあてがないままさ迷い歩きました。


 そうこうするうちに、なんとなくランドマークにしていた六本木ヒルズに到着。
 けどまぁ、こういうところに入ってるお店も当然お値段は高めなので断念。ついでに言えば、この手の施設が、ネットジャンキーの独り身の男が楽しめるような設計をされていない事も周知なわけであり。長居せずに出てしまいました。


 結局、その近くのスターバックスでドーナツと飲み物を注文し、オープンカフェ的な外のテーブルについて空腹を鎮める事に。
 ……しかし、思うんですけど、東京の街中で、オープンカフェにされても何て言うか、ズレてる感がどうしてもあるんですよねぇ。ヨーロッパのさぁ、パリとかでオープンカフェになってるのと、同じにはならないだろうという気がどうしてもしてしまうわけで。
 だって、私の席から見えてた情景って、↓こんな感じだったわけですよ。


 確かに、犬を連れた上品なご婦人が歩いてたりして、比較的それっぽくはあるんですけど。それにしても、目の前に並ぶのは鈴なりに駐輪された自転車。これを眺めながらコーヒー飲んでも、ねぇ? という感じが若干します。
 いやまあ、別にいいんですけど。


 ……などと思いつつ、食べてたら私のテーブルに突然雀が一羽、強襲をかけてきました。手が届くくらいの距離、すぐ近くで、私の動向を慎重にうかがいつつ、一瞬の早業で皿の上のパン屑を奪取して見事逃げおおせました。かわいかった(笑)。写真に撮れなかったのが残念だったなぁ。


 食後、近くの案内版でどちらへ行こうか思案。と、若干歩けば東京タワーがあるらしいので、何となくそちらへ。
 麻布十番の町中を通りながら、のんびりと赤羽駅方面へ歩きました。
 この辺の町並みは、先日の国分寺ともさっき通った青山ともまた違って、ちょっと庶民的でちょっと懐かしい雰囲気でした。15〜20年前くらいをふと思い出させるようなものが街角にさりげなくあったり。
 そういえば、店の外にアイスやかき氷の入ったケース置いてる店って、最近近所ではまったく見なくなったんですが、この麻布あたりで見かけました。写真撮ればよかったな。



 大通りをなお赤羽駅方面へ。
 歩いていると、駐車場でちょうど建物が途切れた間から東京タワーの全景が見えました。思わず撮影。



 しかし、東京タワーなんか撮ってると、まるで私がお上りさんみたいじゃないですか(笑)。
 まあ書斎派の出不精なんて、お上りさんと大差ありませんけど。



 そこからさらにしばらく歩いて、いよいよ東京タワーへ近付いて行きます。修学旅行生か何かなのか、学生さんが大挙して私の前を歩いて行きました。
 やがて到着。あれだけの高さのものを支えてるにしては、その足の部分は細く感じたりしつつ。


 本当は、ここで展望台から写真撮って、それでこの日は終わりにしようと思ってたわけです。
 ところが、入場料がけっこう高いのね。いや観光地だから当然っちゃあ当然なんですが。おまけに人も多くて、ちょっと迷った末にやめてしまいました。ま、東京タワーには子供のころに一回のぼってるし。幼稚園くらいのころ、蝋人形館で恐怖して泣きわめき周囲の大人に迷惑をかけたもんさ。


 東京タワーを離れて、浜松町方面へ。
 と、まだタワーの根元と言えるくらいのところに公園がありまして。ふらふらと迷い込む。



 そしてこんな情景が撮れてしまう。これ、写真だけ見せて、東京のど真ん中で撮ったんだよと言ったとしてどれくらいの人が信じてくれるかしらん。



 上の写真を撮った地点から道を挟んだ向かい側に、増上寺があります。
 浄土宗の大本山で、徳川家の菩提寺と。その肩書は伊達ではなく、境内がやたら広いです。
 さらに、本堂を臨むとちょうど背景の良い位置に東京タワーがあって、なんとまぁ、華やかな(笑)。写真を撮ろうかと思ったけど、すぐ近くでどこかのおっちゃんが同じ構図で撮ってたんでやめました。他の誰かが撮ったような写真は撮らん! と、そんな天の邪鬼。まあきっと、増上寺でぐーぐる画像検索すれば、誰かが撮ってネットにあげてますよ(ぇ


 本堂の中に入る事ができました。椅子がしつらえてあったので、暗い中に浮かび上がる御本尊を眺めながら15分くらいぼーっとしてたかなぁ。無論休憩の意味もあったんですが、やっぱり仏教のああいう空間に浸るっていうのは、また独特の感慨があってなかなか。
 惜しむらくは、隣の建物を改修工事中だったため、重機の音がしてた事でした。それがなければ、本当に静かな場所だったんだろうなぁ。


 増上寺を出て、浜松町駅へ。
 何となく、近くの旧芝離宮恩賜庭園へ。先日の国分寺での庭園がなかなか良かったので、150円払って入ってみました。


 ……。
 いやまぁ、悪くはなかったですよ?
 しかし中央に池を配した、頭上に開けた庭園なので、どうしても背景がビルになってしまうため、ありがたみはイマイチという感じ。



ご覧の有様だよ!!!



 一周して、外に出ました。
 本当を言えば、ここで帰路につくのが賢明というものです。小生勤務地が新宿ですから、浜松町から山手線で新宿、そこから定期で帰るのが一番なわけですが。
 先の庭園で、明治天皇が御幸された際、一番高い丘に登ってそこから漁師たちの働きなどをご観覧されたそうで。またかつて海水を引き入れていた水門なんかもありまして。
 つまり海が近いわけですよ。
 そうとなれば、海を一目見てから帰りたい! と思いまして。
 午後4時半過ぎ、海を目指して再び歩きはじめました。


 実際、それから15分弱くらいで、海を見るという目的は叶いました。



 竹芝桟橋から撮影。海だよ! 船だよ!(落ちつけ
 遠くにはお台場のフジテレビ本社屋も見えました。実に東京湾でございます。


 さて、目的も果たし、あとは先ほどの浜松町まで戻って帰路につけば……と思いつつ、何故か足は別な方角へ。
 ……いや、私、水辺をなんとなく歩くのが好きなんです(ぉ
 この竹芝桟橋からじゃまだ水面まで遠くて。もうちょっと近づけないかなーと思いつつ、またしてもふらふらと歩き始めてしまったのでした。
 お台場は何度か歩いた事があるので、何となく気分的に逆側へ。


 もうこの時点で、自分がどこへ向かってるのか分からない状態。でもそれが楽しいという困った性格なのが私であります。
 浜離宮恩賜庭園の前を通り過ぎるも、すでに閉園時間なので入れず。そのままさらに進んでいきますと、



 築地市場に出てしまいました。
 おー、こんなところにあるのかーと感心したりなんだり。もちろんこんな時間では閉まってるわけですが、ちゃんと魚のにおいしたよ!
 思わず周囲を歩き回ったり、波除稲荷神社をちょっと覗いたりしました。
 夕飯前の空腹に、立ち並ぶ鮨屋の看板が実に苦しかったですが(笑)、そんなお金はございませんので無視しました。
 というわけで、この辺でタイムオーバー、帰宅とは相成りました。


 帰りは築地市場駅から大江戸線で新宿へ出たわけですが、これに乗ってみると、この日歩いたルートはそのまま大江戸線沿線だったんですね。ちょっと悔しい(笑)。
 まあ、遠くからでも目につくランドマークをたどって歩いてたわけですから、こう言う事もありますか。
 電車の路線沿線だったなら電車で回れば楽なものを、という話ですが、それじゃつまらないというのがこの企画でありまして。あくまでもあまり目的を定めず、足の向くまま気の向くままというのがコンセプトなのであります。
 写真もできるだけ、自分の足で歩いたからこそ見つけられた景色を撮るようにしてますし。それに目的地だけ定めていたら、増上寺に寄る事もしなかったかもしれないし。まあ下調べしてないんで見逃すものも多かったりするんですけどね。
 ま、これが私流ということで。



 結局、うちのじぃさまの見立てでは、私がこの日歩いた距離は大体12〜3キロくらいではないかとのこと。案外、数字にしてみると大したことないですね。
 まあしかし、心行くまで歩き回れたし、収穫も多かったので楽しい一日でした。
 さて次はどこに行ってやろうかしらん。