不定期開催 MS学基礎講座 第六回 グフ


セ「皆さんこんばんは。講師のセリーヌです」


ル「助手のルークです」


セ「今回は、ジオン公国の白兵戦用MS、グフとその系譜について取り上げたいと思います」


ル「ジオンの数あるMSの中でも、なんかこう、“漢の機体”って感じですよね」


セ「確かに、グフのパイロットとして名前があがるのは、主に男性、
  それも歴戦のエース、熟練パイロットが多いですしね。
  ファンの多い機体かと思いますので、大事に語っていきたいと思います」

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セ「さて、一年戦争の開戦にあたりMSを切り札として投入したジオン公国軍ですが、
  当初の思惑からはずれ、地球への降下、占領を余儀なくされました。
  地上、重力下での戦線維持は長期にわたることになります。
  それまで宇宙での短期決戦のために開発されたザクII を地上用に改修した機体、
  すなわちザクII J型などを主に運用していたのですが……
  そのような間に合わせではなく、地上用に一から設計した機体の必要性を
  軍上層部も考えざるを得なくなってきていました」


ル「応急的なやり方だけじゃ足りなくなってきたと」


セ「そうですね……ザクは地上においても十分、戦果は挙げていましたし、
  特に重力下で運用する上で致命的な欠陥があったわけではありません。
  ただ、この時期、戦線は膠着状態に陥っていました。
  そして国力に乏しいジオンにとって、地上の広大な占領地、膨大な戦線を維持し続けること
  それ自体が大きな負担だったのです。
  早急に連邦を打ち破り勝利する必要がありました。
  そのために、地上戦において状況を打開できる新設計機が望まれた、といったところですね」


ル「なるほど。一年戦争後半、ジオンがやたらMS作ってたのも、
  そんな感じで切羽詰ってたっていうのもあるわけですね」


セ「ええ、同様の焦りがあった事は考慮に入れておいていいと思います。
  どうあれ、そのような形で“地上用に新設計されたMS”という必要に迫られ、
  その中から生まれたのがMS−07、すなわちグフです」


ル「“ザクとは違うのだよ!”」


セ「ふふ、そう、後にホワイトベース隊と交戦した青い巨星ランバ・ラルが、
  グフに搭乗した際に言ったセリフですね。
  そして確かに、このグフというMSを語る上では、“ザクとは違う”部分が重要です。
  先ほども言ったように、ザクII J型も別に使えない機体ではありませんでした。
  ですから、グフに求められたのは飽くまで“ザクとは違うこと”だったと考えられます。
  それは何でしょう?」


ル「何、というと……うーん。とりあえずグフの特徴といえば、ヒートロッドですよね。
  それにヒートサーベル。全体的に格闘戦に特化した機体、っていう印象がありますけど」


セ「そうですね。悪くない答えです。
  陸戦用に新設計された機体で、なおかつ格闘戦に特化した機体。
  グフの大きな特徴はこの二つです。
  そしてこの二つは、無関係ではありません。
  一年戦争開戦当初、MSを宇宙で運用している段階では、
  格闘戦に特化した機体などというのは考えられなかったでしょう」


ル「え、そうですか? でも、ギャンとか……」


セ「それはフライングです、ギャンの頃とは状況がまた違っていましたからね。
  良いですか、仮想敵が連邦の戦艦であった場合、格闘戦での攻撃がメインでは役に立ちません。
  宇宙空間は地上と違い、地面のように基準になる面もなく、
  また空気抵抗もないので加速すればしただけ速くなります。
  航宙機が母艦に着艦する際でも、互いの軸合わせと相対速度の調整を厳密に行わなければ
  事故になってしまうのです。
  MSが艦船に格闘を仕掛ける場合でも同じで、相対速度を合わせなければ激突してしまいます。
  かといって、悠長に速度合わせなどしていれば、対空砲火で撃墜されてしまうでしょう?」


ル「あー、なるほど。そんな危険な攻撃法をメインに据えた機体なんてお話にならない、と」


セ「これがMS同士の戦闘になれば、また違ってくるんですけどね。
  ともあれ、そういうわけですから、ザクの開発時点では格闘武器というのはオマケのようなものでした。
  対して重力下、地上での運用となれば別です。
  元々AMBACのためだったMSの手足を、地上戦で有効に利用しようとすれば、
  格闘戦も当然視野に入ってきたわけです」


ル「まあ、旧世紀に生身の人間が、地上で散々やってきた戦い方だし、って事ですか」


セ「そうですねぇ……ガンダムの時にも言いましたが、手足を持っているなら、
  チャンバラの一つもさせたくなるのが人情ですしね。
  それに、重力下においては、原始的な方法ですが破壊力は期待できます。
  MSサイズの重機械であれば、その腕にあたる部分だけでも相当な重さになりますから、
  単純にそれを振り下ろしただけでも、かなりの衝撃を相手に与えられることになるのは
  想像に難くないでしょう? これを利用しない手はありません」


ル「ああ、なるほど。単純な分安上がりで、こうかはばつぐんだ、と」


セ「……的確なツッコミを思いつかないのでスルーします。
  ともあれ、そういうわけで、グフの基本的なコンセプトが決定しました。
  地上戦用に新設計した機体で、、なおかつ格闘戦・白兵戦に特化した機体です。
  そしてこの格闘戦のために考え出された成果が、既に名前の挙がったヒートロッドですね」


ル「ムチ」


セ「はい、ムチですね。ヒートロッドは文字通り、電磁ムチとでも言うべき特殊な武装です。
  グフの右腕に内蔵されていて、必要に応じて伸縮し敵に打ち付けたり、絡み付けたりすることができます。
  ヒートロッド自体を打ち付ける物理的なダメージに、このヒートロッドの持つ熱によるダメージ、
  さらにこれと接触していた場合に、電流を流して相手機体の電気系統や、パイロットにも
  ダメージを与えることができます」


ル「アムロ・レイの乗ったガンダムを散々苦しめた武器ですね」


セ「ええ、ザクマシンガンの直撃にも耐えるガンダムの装甲でしたが、
  ヒートロッドによる電撃は通してしまいますからね。
  取り扱いの難しい武器ですが、状況次第では非常に強力です。
  またこの他に、グフにはヒートサーベルという近接武装もあります。
  ヒートホークと同じ原理の武器ですが、対MS戦を意識してリーチを長くとった形状になっていますね。
  もう一つ、グフの固定武装として、左腕に仕込まれた機関砲があります。
  指にあたる部分に直接仕込まれているという珍しい武器です。
  特に携行武器を持たなかった場合、この機関砲が唯一のグフの射撃武装となります」


ル「んー、何なんでしょうね。指って、だって色々モノを持ったりする部分ですよね?
  そんなところに機関砲埋め込むって、どういうコンセプトだったんでしょう?」


セ「良い質問です。
  そもそも指といえば腕の一番先端部です。そんなところに武装を仕込めば、
  腕の各関節へかかる負荷も余計にかかってしまいます。
  それに、指先がそのまま砲身となれば、指はモノを持ったりするために曲げたりもしますから、
  これでは命中精度もあまり期待できませんね。
  なぜ、こんな武装が選択されたんでしょう?
  ……答えは、苦肉の策、というのが一番近いように思います」


ル「……まあ、なんというか、どことなくそんな雰囲気のある武器ですよね。苦肉〜、っていう」


セ「ふふ。ある意味、そういう感じがジオンの機体っぽくもあるんですが。なんて言ったら叱られちゃいますかね。
  ともあれ、理由ですが。これは、格闘戦を行うために射撃能力を犠牲にした結果だと思います。
  格闘戦に特化しようと思うなら、その他にマシンガンなどを携行するのは邪魔になります。
  格闘に使う以外のものは手に持たないのが理想です。
  また、固定武装として仕込むにしても、素早く柔軟な動きを妨げるような場所、
  たとえば関節の近くなどは避ける必要があります。
  胴体につけるという手もありますが、とっさの牽制などに使うには、少々不便です
  むしろ牽制を主に考えるなら、威力も命中精度もほどほどで良い。
  そんなコンセプトだったのではないかと思います。
  あと、右腕にヒートロッドが仕込まれていますから、左右のバランスをとる意味もあったでしょうね」


ル「あー。なるほど」


セ「一応、ザクマシンガンなどを使用することも出来ますが、そうした使い方をするには
  グフの設計は少々特異すぎます。そういう意味で、MSの強みである汎用性が狭められてしまう、
  という面はあったと言えるでしょうね。指先に仕込まれた機関砲はその最たる部分です」


ル「格闘に使う、って以外の使い方があんまりできないと」


セ「ええ、そこが正に、グフという機体のアキレス腱という事になります。
  いくらミノフスキー粒子の効果でレーダーの使用が制限されているとはいえ、
  地上において全長18メートルの機械がそうそう発見されずに敵に近づけるものではありません。
  発見されれば、グフは自分の得意な格闘戦の距離に間合いを詰めるまで、良い的になってしまいます」


ル「まあ、そうなりますか」


セ「従って、グフの運用にあたっては、ザク2機と小隊を組むという形が多く取られました。
  ザクの援護射撃によって敵を分散させ、そこにグフが切り込んでいくという戦法ですね。
  こうした別機体での援護をセットにして運用するか、
  もしくは地形・天候などを利用した奇襲戦法で一気に敵を仕留めるか。
  グフとは基本的に、そのように使う機体でした」


ル「む、けっこう面倒な機体だった、と?」


セ「無論、一度格闘戦の間合いに入ってしまえば、かなり強力な機体であった事は確かです。
  とはいえ、グフ単独で考えた場合には、やはり使用法に難のある機体と言わざるを得ない面があります。
  せめて、敵の射撃にさらされるリスクを軽減しつつ、グフの得意な格闘戦の間合いに入る手立てがあれば」


ル「あ。なるほど、それで」


セ「ルーク君は気付いたようですね。
  この時期、ジオンが地上侵攻のため開発した兵器群の中に、とある爆撃機がありました。
  当初の予定よりも、ペイロード……つまり運搬可能な重さに余裕ができたことから、
  この爆撃機に、大胆にもMSを乗せて運用が出来ないかとジオンの技術者たちは考えます。
  機体の名前はドダイYS……のちに、グフと組み合わせての運用が多く行われた機体です。
  このドダイは、戦後のいわゆるサブ・フライト・システム、略称SFSの原型としても非常に大きな意味を持っています。
  そしてグフは、先ほどの条件を満たすべくこのドダイYSとの連携を想定して開発されていました。
  ドダイで上空から接近し、こちらの得意な接近戦の間合いへいきなり降下して攻撃を加える。
  ドダイYSとの組み合わせによって、グフはこうした戦法を取ることができるようになるわけです。
  この発想法は、ジオンが地球降下作戦で取った戦略と、同じである事も興味深いと思います」


ル「3次元的な発想、ってところですか。フラットランダーとフローランダー、でしたっけ?」


セ「ふふ。そんな言葉を漏らしたグフ乗りもいましたね。
  ともあれ、これはグフの問題点をカバーする方法でした。
  元々はグフ自体を飛行させ、上空から接近し格闘戦に持ち込むという方向で研究がなされていたようで、
  グフ飛行試験型、グフフライトタイプなど、グフのバリエーション機に飛行を指向したものが多いのは
  こうしたコンセプトのためと考えられます。
  もっとも、MSそのものを飛行させるというプランは、あまり芳しい成果を残せなかったようですが」


ル「まあ、そうなんでしょうねぇ。MSが単体で飛ぶのって、もっと後の時代ですよね」


セ「そうですね。ただし、このグフ飛行試験型は、ホバー移動はできたそうですよ?」


ル「……え、それって」


セ「ふふ。そういうわけで、本日の講義はこれまでです」

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セ「さて、また前回からずいぶんと時間が空いてしまいました。“不定期開催”というキャプションの面目躍如です。
  今後も多分、これくらいのスローペースでのんびり続いていくかと思いますので、どうかよろしくお願いします。
  次回ですが……今回の講義の引きから、恐らく予想がつくかと思いますので、あえて黙っておくことにします」


ル「次も多分一月後とかです」


セ「そんなわけで、では皆さん、また次回の講義でお会いしましょう」



   ☆試験に出る(?)重要キーワード
・ヒートロッド
・SFS(サブフライトシステム)