第五回 年末拡大版 RX−78 ガンダム


セ「みなさん、こんばんは。講師のセリーヌです」


ル「助手のルークです。いやぁ、いよいよ今日はガンダムについてですね!」


セ「嬉しそうですね。まあ、気持ちは分かります。
  赫々たる戦果をあげた連邦軍のフラッグシップ。やはり華がありますからね」


ル「華なんてもんじゃありませんよ。“ガンダム伝説”なんて言われるくらいですから」


セ「そうですね、これほど数奇な運命をたどったMSも少ないでしょう。
  この講義はMSの技術解説と開発系譜を中心に語るのが目的ですので、
  ガンダムの活躍については最小限の言及に止めますが……。
  それでも、このRX−78 ガンダムが戦場に躍り出たことで、
  ジオン、連邦両軍のMS開発に拍車がかかったため、MS学としてもここからが面白くなるところです。
  是非、心して聞いていただければと思います」

                                                                                                                                                                      • -


セ「さて、前回も話したように、ガンダムは中距離から近距離までの白兵戦用として設計された、
  V作戦の中の一機です。
  設計コンセプトは、恐らくただ一つだったでしょう。
  つまり、“ジオンのザクを倒せる機体”です」


ル「ああ、そうか。ザクに対抗するためにMSを導入する、って話だったんでしたね」


セ「ええ。ガンダムが満たさねばならなかったのは、ですから次のような条件です。
  即ち――ザクを上回る運動性とパワー、ザクマシンガンの直撃にも耐える強固な装甲、
  一撃でMSを撃破可能なビームライフルの装備、近接戦闘で絶大な威力を発揮するビームサーベル


ル「こうして並べられると、何かすごいですねぇ。MS開発では連邦は遅れていたのに」


セ「そうですね。連邦軍には基礎的な技術力はありましたから、正にそれを総動員するような形だったのでしょう。
  装甲については、ルナ・チタニウムという、高価な特殊合金が使用されました。
  前回お話ししたビームライフルは、原理はガンキャノンのものと同じですが、
  比較的狙撃向きなRX−77のものよりも、ガンダムのそれはコンパクトな取り回しが利くようになっています。
  そして、戦後、MSの標準装備と言えるほど普及した画期的な武器として、ビームサーベルがここで登場します」


ル「ああ、まあこれ以降のMSは大抵持ってますもんね、ビームサーベル


セ「そうですね。約70年後のザンスカール戦争時代まで、ほとんど技術的に変化のなかった、
  この時点でほぼ完成されていた武装だったと言えます。
  原理としては、縮退寸前のミノフスキー粒子をIフィールドで剣の形に収束したもので、
  そうですね、分かりやすい例えをするなら……ビームライフルが水鉄砲だとしたら、
  その水を細長い風船の中に流し込んで剣の形にしたのがビームサーベルです」


ル「……その喩えは大変どうかと思いますが、ええ、よく分かりました」


セ「細かい事は気にしないのが、長生きするコツですよ?
  ともあれ、このビームサーベルは非常に画期的な装備でした。
  ジオン公国のMSが装備していた、ヒートホーク、ヒートサーベル、ヒート剣などとは一線を画する発明だったと言えます。
  ヒート武器は、高熱を発することである程度の装甲なども焼き切る事ができますが、結局は熱した棒です。
  無茶な使い方をすれば折れてしまう事も当然あったでしょう。
  それに対し、ビームサーベルはどんな無茶な使い方をしても折れようがありません。
  大抵のものには刃が通りますしね」


ル「なるほど、ここでもザクを上回る装備を備えていたと」


セ「そうですね。
  その他の装備として、頭部に60mmバルカン砲、ハイパーバズーカ、
  投擲などに使用される変則的な近接武装ビームジャベリン、
  モーニングスターに似た、鉄球の形の武器であるガンダムハンマー、その改良型のハイパーハンマーなどがあります」


ル「う……なんか、一気に胡散臭い武器が出てきましたね。ハンマーとか、使えるんですか?」


セ「一応ですが、ハンマーを使用してザクを破壊した、という記録は残っています。
  まあ、ガンダムは試験機ですので、どのような武装がMSに有効なのか、色々と試していたというのが実情ですね。
  その中にはビームジャベリンやハンマーのように後世あまり使われなくなった武器もあるという事です」


ル「なるほど……」


セ「さらに。ガンダムはMSの汎用性を追及した機体でもありました」


ル「はんようせい?」


セ「様々な状況で使えるように設計されたMSだったという事です。
  実際、ガンダムは宇宙、重力下の地上はもちろんの事、水中での戦闘にもほぼ無換装で対応できましたし、
  さらには、この時代のMSとしては前代未聞、単独での大気圏突入をも可能としていました。
  当時、大気圏突入の際に発生する、断熱圧縮による高温に耐えて宇宙から地球へ下りられるのは
  HLVやコムサイなどの専用シャトルのみで、ザクなどのMSが単独で行う事はできませんでした。
  強行すれば一瞬で分解・爆発してしまうというのが実情だったのです。
  しかしガンダムは、この難題も突破してみせました」


ル「はぁ、でもそれってどんな必要性が」


セ「そうですねぇ……MSが他の兵器に比べて有利な点、というのを以前少し話しましたね?
  宇宙でのAMBAC、地上では歩行やジャンプできる事による荒地踏破性。
  そしてもう一つ挙げられるMSの利点が、この汎用性なんです。
  たとえば、コロニーに外から侵入して、内部を偵察するという行為はセイバーフィッシュのような航宙機にはできませんし、
  戦車は水中には入れません。逆に、潜水艇が陸上に上がって行動を続けることも出来ません。
  MSには、それができるのです。ジオンの地球降下作戦も、こうしたMSの汎用性を生かした作戦でした。
  ゆえにガンダムは、ザクII の持つそうした汎用性の面も上回った性能を持っていなければなりません。
  大気圏外から一気に敵の地上戦力へ奇襲をかける――そんな使用法も模索されていたのかも知れませんね。
  いずれにせよ、この単独での大気圏突入という機能は、実験的な試みだったと考えられます」


ル「そんなもんですかねぇ」


セ「結果的に、ガンダムは大気圏突入間際に敵の強襲を受け、出撃後やむを得ずこの機能を実際に使用しましたが、
  開発した側は実戦で使うつもりなどなかっただろうと思われます。
  技術的に可能かどうか。可能だったとして、後に量産される機体に実装すべきかどうか。
  それが検討できれば良かったのです。
  さて、具体的な突入方法ですが、実は異説があり完全な決着をみていません。
  耐熱フィルムを機体にかぶせて突入したという説と、機体下部から放出した空気をシールドにあてて、
  シールドおよび空気で耐熱フィールドを形成、機体を保護しながら降下したとする説とがあります。
  現在は、後者の説が正しいというのが多数派の見解のようです」


ル「ふーん、異説があったりするんですね」


セ「そうですね、詳らかに検証してみると、資料によって情報が錯綜しているケースは思ったよりあります。
  RX−78に関しては、それも比較的少ない部類に入りますけどね。
  さて。もう一つ、ガンダムを語る上で欠かせない要素があります。それが【教育型コンピュータ】です。
  これは、ガンダムの行った戦闘データを蓄積し次回以降の戦闘にフィードバックするシステムで、
  MSの実戦運用のノウハウに乏しい連邦軍としては、非常に重要なものでした。
  そのため、もし仮にガンダムが大破し運用不能になった場合でも、この教育型コンピュータだけは
  持ち帰ることができるよう、ガンダムはコア・ブロック・システムを採用しています」


ル「コア・ファイターですね。あれ、けどあれってパイロットの脱出用と聞いたような」


セ「もちろん、それもあります。ただ、教育型コンピュータに蓄積された戦闘データも、
  同程度以上に重要なものです。まぁ、そのどちらがより重要か、を論じる意味はありませんし。
  重要なのは、ガンダムコクピット部分が航空・航宙機として単独で飛行可能だったという事です。
  また、このコア・ブロック・システムはガンキャノンガンタンクにも採用されていましたので、
  コア・ファイターを介してこれら2機と有機的な連携を行う事も可能でした」


ル「……本当ですかぁ?」


セ「えぇっと、まぁ、冷静に考えてみるとそんなに使えるシステムじゃないんですけどね。
  それでも、ホワイトベース隊は性格上、兵器運用についても柔軟性が高い部隊だったので、
  正規兵が使うよりも効果的にこのシステムを使いこなしている面がありました。
  ……ちょっと話が前後してしまいましたね。
  これら、様々な実験的機能を備えたRX−78ですが、さて兵器としての観点から見た時、
  その一番重要な存在意義は何でしょう?」


ル「え、そりゃあ、並み居る高性能機やエースパイロットを倒した高性能機……」


セ「20点。一年戦争史の観点から見れば間違っていませんが、私は兵器としてのガンダムの存在意義を聞いています」


ル「え。だから、ビームライフルビームサーベルなんかを後のスタンダードに押し上げた……」


セ「それも間違ってはいませんが、70点の答えですね。ガンダムはそもそも何故作られたのか、を考えればそれが答えなんですが」


ル「ですから高性能機……うーん、降参です」


セ「あらあら。
  兵器としてのガンダムの意義、これはもう今までの話の中に半分答えが出てきています。
  後に量産される連邦軍の主力機、ジムのための“試験機”であること。この点が一番重要です。
  言ってみれば、ガンダムはプロトタイプ・ジムです」


ル「それは、また……でもジムって、たしか【ガンダム・マスプロダクト】の頭文字をとってGMなんですよね?」


セ「ええ、ですから名前としてはガンダムの方が先ですね。
  けれども。当たり前のことですが、どれほどの高性能機だろうが、1機で戦争に勝つことはできません。
  従ってガンダムというMSの一番大きな存在意義もまた、戦局を大きく変えた連邦の量産MS,
  ジムのプロトタイプとしての意味が一番大きいと言えます。
  ですから――本当ならこのガンダムは、サイド7からジャブローに運ばれ、
  それなりに優秀なテストパイロットの手でデータが取られ、その後はどこかの局地戦に一兵力として投入されて、
  それで終わりになる――そういうMSに過ぎませんでした。運命のいたずらさえなければ、です」


ル「まぁ、運命のいたずら、としか言いようがないですかね。確かに」


セ「ええ――サイド7でガンダムを受領し、ジャブローに運ぶ予定だった新造艦ホワイトベースを、
  ゲリラの掃討任務の帰りだったジオン公国のエースパイロット、シャア・アズナブルが発見、追跡します。
  サイド7にザクII 3機が偵察に出されますが、この偵察が戦闘に発展してしまい、
  ホワイトベース所属の正規兵のほとんどが死傷、そしてその場に居合わせた民間人の少年アムロ・レイが、
  このガンダムに乗り込み、ザク2機を撃破してしまいます。
  宇宙世紀0079年9月18日。このサイド7で起こった事件こそ、人類史上初の、MS同士による戦闘でした」


ル「……改めてそう聞かされるとすごいですね。そんなエポックメイキングな出来事が、民間の少年の手で行われたと」


セ「そう思います。本当に、運命的という表現しか浮かびません。
  さらに状況は転がり続けました。“赤い彗星”の異名を持つシャア・アズナブルからの攻撃を退けるものの、
  大気圏突入間際に攻撃を受けたホワイトベースは、軌道をそらされジオン公国の勢力下にある北米へ降下させられます。
  当然のことながら、ホワイトベースを討ち取ろうとする北米のジオン軍との間に激戦が繰り広げられました。
  ところが――ジオン公国内の謀略も絡んだと言われていますが――この北米での戦いの中で、
  ガンダムを含むホワイトベースは、ザビ家の末弟でありジオン公国地球方面軍のトップであったガルマ・ザビを討ち取ってしまいます。
  そして、北米を脱出したホワイトベースはそのままオデッサ作戦への参加を通達されますが、
  そのオデッサへ向かう過程で、ガンダムは“青い巨星”ランバ・ラル、“黒い三連星”などの名だたるエースパイロットを
  次々と撃破していきました。
  一機のMSが挙げた戦果としては、かなり異例です。
  これは――非常に目立ちます」


ル「まぁ、そうでしょうねぇ。色とかも兵器としちゃカラフルで派手だし」


セ「ふふ、まったくですね。
  実際一部のジオン兵たちは、このガンダムを指して“白い悪魔”などと呼んでいたという噂もあります。
  いずれにせよ、良くも悪くも、連邦ジオン両軍の注目を集めることになってしまったガンダムホワイトベースは、
  一年戦争末期に至って、囮部隊として連邦軍に扱われるようになっていきました。
  0079年12月、ソロモン戦やア・バオア・クー戦の頃には、機体性能の面でガンダムに比肩しうるMSも少なくなかったのですが、
  気がつけば両軍の一般兵たちや、軍の上層部にとって“ガンダム”は特別な名前になっていったのです」


ル「え……っと、ガンダムに比肩しうるMS、ってなんの事でしょう?」


セ「うーん、そうですね、いずれ詳しく取り上げることになると思いますが、
  一番わかりやすいのはジオン公国軍ゲルググです。ビームライフルとビームナギナタを装備し、
  全体的な性能としてもガンダムに引けは取りません。
  また、連邦側が一年戦争末期に戦線投入した量産型MS、ジム・コマンドなどは、
  ジェネレーター出力、スラスター総推力、センサー有効半径ともにガンダムよりも高いスペックを有しています」


ル「え、ジム系にすら負けてたんですか?」


セ「もちろん、この三つの数字だけですべてを計れるわけではありませんが、
  いずれにせよ、ザクが相手だった時に比べて、ガンダムの性能がそんなに突出したものではなかった事は確かです。
  それでもなお、一年戦争末期になっても、ガンダムは活躍し続けました。
  リック・ドム12機を擁するコンスコン隊を数分で撃破したり、
  ジオン公国宇宙攻撃軍のトップであるドズル・ザビを討ち取ったり、ですね。
  これは、パイロットであるアムロ・レイが、ニュータイプだったからだ、とされています。
  まあ、ニュータイプとは何かという話を始めるとまた長くなりますので、今日は割愛しますが」


ル「あらら。まあ、たしかに長くなりそうですけどね。ていうか今日の話も既にかなり長いし」


セ「そういうことです。まあここでは、アムロ・レイに特殊なパイロット適性があったのだととりあえず思っていて下さい。
  実際、一年戦争後期にいたって、彼はかつてシャアをして驚嘆させたガンダムの運動性を、遅いと感じるようになります。
  それだけパイロットとしての感覚が鋭敏に研ぎ澄まされていたという事ですね。
  そこで、ガンダムにはマグネットコーティングと呼ばれる処置が施されました。
  MSの関節部に塗布することで磁性反発によりジョイント部の摩擦を軽減する、という技術だったようです」


ル「……あの、よくわかりません」


セ「あらあら。そうですねぇ……イメージとしては……、
  レールの上を走る電車より、磁力で車体を浮かせて走るリニアモーターカーの方が速いでしょう?
  だいたい、おおよそ、そんな感じの技術だと思っておけば良いんじゃないでしょうか?」


ル「……素晴らしくアバウトな説明、ありがとうございます。まあ、イメージは伝わりましたけど」


セ「とりあえずはアバウトで十分です。詳しく知りたければ、アナハイム高専にでも入学してください」


ル(……適当だなあ……)


セ「ともあれ、以上がRX−78−2ガンダムについての、大まかな話です。
  地球連邦軍の総力を結集した、技術の結晶というべき試作機であり、
  しかし後の量産型MSのプロトタイプに過ぎない機体であり、
  それでいて、運命的なめぐり合わせにより伝説とまで言われる活躍をしてしまい、
  結果として後世に名を残すことになったMS。
  そんな、非常に複雑な背景を持った機体であったということです」


ル「なるほど……」


セ「このガンダムの目覚しい活躍によって、地球連邦軍ジオン公国軍ともにMS開発が急加速することになります。
  一年戦争以降の、兵器といえばMS、というほどにこの人型の機械が幅を利かせるようになった時代。
  そのトリガーを引いたMSは、やはりこのガンダムだったと言うべきでしょう」

                                                                                                                                                                                      • -


セ「久しく間があいてしまってすみません。
  そして次回も、またちょっと先になるかと思いますが、気長にお待ちください。
  次回のテーマは、ジオン公国のグフを取り上げたいと思います」


   【試験に出る? 重要キーワード】
・教育型コンピュータ
・コアブロックシステム
・マグネットコーティング