機動戦士ガンダムAGE 第20話「赤いモビルスーツ」
▼あらすじ
改修されたゼダスRの性能試験を行うも、やはり追従性に満足できないゼハート。そんな彼のために、新しくXラウンダー能力に対応した赤い機体、ゼイドラがロールアウトする。その一方、ゼハートの兄、かつてフリットを苦しめたデシル・ガレットがコールドスリープから目覚めていた。
一方、連邦軍基地ビッグリングへ向かうディーヴァはヴェイガンとの接敵を避けるため暗礁宙域を航行するが、ゼハートに見破られ強襲を受ける事になる。ゼハート自らゼイドラでガンダムを襲い、アセムは善戦するも戦いに敗れてしまう。しかしゼハートもまた、アセムに「二度と姿を見せるな」と言うだけで、ガンダムを撃破しないまま引き上げてしまうのだった。
▼見どころ
▽デシルふたたび
この回冒頭、ヴェイガン側では、ゼダスRがゼハートのXラウンダー能力に追従しきれない、という事情を映すことから始まるのですが。
それに続いて、アセム編での重要人物、最後の一人がコールドスリープから目覚めた事が知らされます。そう、フリット編にて悪逆非道、邪知暴虐の限りを尽くした……
デシル兄さんです。
幼少期のあどけない外見はどこへやら、何ともガラのわr……ゲフンゲフン、えー、ワイルドな感じにお育ち遊ばされたものですw
起床した直後こそ、潜入作戦なんてご苦労なことだ、俺のように評価の高いXラウンダーはそんな雑用はやらされないんだ、などと言っていたわけですが、ゼハートが地球制圧軍司令に任命された事を知るや、表情をガラリと変えて動揺などしたりします。
「司令官……!? お前が俺より上だと……!」
某世紀末救世主伝説で「兄より優れた弟など存在しねぇ」と発言した方がいらっしゃいましたが、心境としてはそんな感じでしょうか。
以降、この話ではデシルはゼハートのお手並み拝見を決め込むのでした。
それにしても、これ、何食べてるんでしょうね?
かじるとリンゴっぽい音はするんですが……。
▽ウルフ隊
食堂にて束の間のお食事タイムを迎えているアセムたち。そこにウルフ隊長がやって来ます。
座るウルフ隊長、居住まいを正すアセムたち。
そこでウルフ隊長、「ただ食うんじゃないぞ。戦う時の力にしろ」と部下たちに命じます。ありがたくも自らの実演つきです。
どういうことだってばよ?
せっかく実演してくれたものの、どうしろという指示なのか全然分からず。たまらずアリーサが「普通に食べるのとどう違うんだ?」とこぼします。これをハロが拾って大声で繰り返し始めて慌てるアリーサとアセム。
一方、ウルフを知るオブライトさんは、「ただやればいい」と淡々と言うと、ウルフの食べ方に倣ってパンを齧るのでした。
……以上は、何気ない日常シーンではあります。
しかし今後の解釈のために拾っておくべきニュアンスも、しっかりとあるのでまったく意に介さず見逃してしまうわけにもいかないシーンでもあります(というか、常に尺不足に追われるこのアニメ作品において、実質無駄なシーンというのはほとんどありません)。
ここでは、ウルフ隊長の口下手なところを一応見ておくのが良いと思います。後に見るように、彼は戦闘中における指示・助言は極めて的確なのですが、自分の心中を言語化して伝えるのは決して得意ではない、という事なのでした。
また、アセムたちが上官であるウルフに対して居住まいを正して見せるわけですが、改めてフリット編に比べて軍としての秩序の描写でもあります。
そもそも、初代ガンダム(と、それを下敷きにしているフリット編)においては、主人公は民間の少年でした。一応軍の階級に組み込まれるにしても、あくまで現地徴収に近い形でした。
それが、80年代〜90年代のガンダム、特にOVA作品において、主人公が最初から軍人であると設定されるケースが新しく出てきました。クリスチーナ・マッケンジー、コウ・ウラキ、シロー・アマダ、いずれも初登場時点で既に軍人です。
アセム・アスノがフリットと違い、正式に軍に志願・入隊の手続きを取っているのは、こうしたOVA作品の主人公たちの面影をも重ねる意味があったと読むことが出来るでしょう。
ただし。
アセムはどっかの誰かと違って、ニンジン食べられるみたいですけどw
また、この後アセムとアリーサの会話シーンもあり、そちらもなかなか味わい深いのですが、今回は飛ばして戦闘シーン。
ヴェイガンに見つからないよう、危険を冒して暗礁宙域を行くディーヴァでしたが、逆に見つけられてしまいピンチに陥ります。
「いいか新人ども! 暗礁宙域での戦闘なんざ、お前らには早すぎる!」というウルフの出撃前の言葉通り、苦戦するアリーサや、マックス・ハートウェイなどのウルフ隊隊員たち。
それに対して、光るのがウルフ隊長の八面六臂のマルチタスクぶりです。
自身は「イヤッホーゥ!」などと言いつつ軽快に敵機を撃墜しているのですが、それと同時並行で、
2機のヴェイガン機に翻弄されるアリーサに「1機ずつ落とせばいい!」
さらにマックスにも何か通信をしようとして、ロマリーの割り込み通信に遮られています。
つまり、ウルフ隊長は自分の戦闘もこなしつつ、小隊員全員の動きを把握し、的確に助言を与えるという離れ業をやってのけている、という事です。
恐らく、単にレーダー上で敵味方の位置を把握しているというだけではないでしょう。アリーサへの助言は、具体的にアリーサ機がどう戦って何に苦戦しているかを把握した上でのものに見えるからです。
そして、自身は迫りくる敵エース機を感知して、アセムのフォローに入っています。恐らく、神業級の状況判断能力を発揮していると見られます。
AGEの戦闘シーンは、詰め込みすぎなプロットに押されてどうしても駆け足ですが、だからこそこういう細かな描写をつぶさに見ていくと、思わぬ発見が隠れていたりします。ただ何となく見過ごしてしまうのは勿体ない。
これは、次のアセムvsゼハートの戦いにも見られる事です。
さて、そのゼハートなのですが。
▽ゼハートが来る
第18話にて、乗機のゼダスRがゼハートの操縦に追従しきれずピンチになったわけですが。この第20話の冒頭で、改修を加えてもなおゼハートの満足できる性能には届かなかった事が描かれます。
そこで、新型の「赤いモビルスーツ」、ゼイドラがロールアウトしたのでした。
公式HPのMS紹介ではただ一行「ヴェイガンの新型」としか説明のない機体w
宇宙世紀ガンダムにおいて、「赤い彗星のシャア」のイメージがあまりに強いため、今やガンダム作品のライバルキャラが赤いマシンに乗るのは決して珍しくありません。まぁもっとも、赤い機体に乗ったライバルキャラ、という一種のパロディを最初にやったのは、非宇宙世紀ガンダムでも、宇宙世紀外伝系の作品でもなく、
富野監督自ら生み出したこの人なんだろうと思いますが。
また、ここ数年では、「全裸」という名前の方がブイブイ言わせてらっしゃいます。
シャアのオマージュというなら本当はフリット編に出てくるべきだったのかな、とも思いますが、フリット編ではヴェイガンはまだ正体不明、パイロットが乗っているかどうかも定かでない「UE」であり、シャア的な意味でのライバルキャラを出すことが出来なかったのでしょう。
さて。ゼハートさんについて言えば、赤いモビルスーツに乗るだけではなく、さらに分かりやすい要素も追加してくれます。
仮面です。
赤いモビルスーツ以上に、もはやガンダムシリーズにおいて仮面キャラというのは定番中の定番であり、あんな仮面キャラこんな仮面キャラと、より取り見取り状態に存在します。それはもう、シュバルツ・ブルーダーからゼクス・マーキス、ラウ・ル・クルーゼ、ネオ・ロアノーク、ミスター・ブシドー、フル・フロンタル。マイナー所ではシルヴァ・クラウンさんとか……w サングラスかけてるキャラも加えれば、さらに増えます。
せっかくだから集めてみた。
ただ、ゼハートの仮面は、上記のいろいろな仮面キャラと比べても、より本家のシャア・アズナブルに近いデザインですね。
こうなると、完全に「赤い彗星」オマージュというか、リスペクトというか、パロディというか、いずれシャアを思わせるお約束の道具立てがワンセットでついてくる事になります。
シャア専用ムサイのオマージュといったところでしょう。
また、ディーヴァへと接近するゼイドラを補足したオペレーターが、
「敵機後方にもヴェイガンらしき機影1! 三倍の速度で接近中!!」
と報告もするわけでした。「赤い彗星のシャア」の代名詞とも言うべき、「通常の三倍の速度」です。
この辺ももはや定番の流れになっておりまして、『ガンダムUC』のフル・フロンタルが駆るシナンジュもまた、「後続機の三倍の速度」でネェル・アーガマに接近しています。
とはいえ。
本家であるシャア専用ザクの「通常の三倍」というのは、意外に奥の深い問題だったりしまして。「なぜ通常の三倍なのか」「なぜ【この速度で迫れるザクなんてありはしない】と報告されるのか」といった話を始めると、それだけでブログ記事が一本出来てしまうくらいの分量になってしまいます(笑)。
(簡単にさわりだけ言いますと、宇宙空間では地面との摩擦や空気抵抗等がないため、加速をかければかけただけ、対象に向けての速度(相対速度)は減衰することなく上がり続けます。つまり一般ザクと指揮官用ザクの性能差に関わらず、どんどん加速をかけさえすれば原理上いくらでも速度は上がるわけで……「この速度で迫れるザクなんてありはしません!」となぜオペレーターが言ったのかは、つまり「通常の三倍」の「通常」の部分、一般的なザクの敵艦への接近速度が何によって決まって来るのか、というのを明らかにする必要があります。でないと、シャアとシャア専用ザクの何が凄いのかが、明確に分かりません)
上記のように、ただ「通常の三倍」が凄い、という描写をしますと、宇宙空間における物理法則とか、厄介で面倒な話になってしまって大変分かりにくいため、『ガンダムUC』のシナンジュの場合も、そしてこの『ガンダムAGE』のゼイドラの場合も、暗礁宙域が舞台に選ばれる事になるわけでした。障害物の多い暗礁宙域で、周囲の一般機の三倍の速度が出せる、というのはシンプルにパイロットの操縦技術の高さがアピールできて、非常に分かりやすくなるからですね。
そして、シャアへのオマージュの最たるものとして、ファーストガンダムでのシャアザクの印象的なシーン、ガンダムへのキック攻撃も取り入れられるのですが……
↑シャアザクのキック
↑シナンジュのキック
……えー、っと。なんか明らかに、ただの質量攻撃を超えた威力なんですけど。ピンク色のよく分からないエフェクト出てるし。
あれです、Gジェネあたりに出るなら確実にこれ、「必殺技」属性ですね。スパロボなら気力120以上必要なタイプの攻撃かと思われます(笑)。
まぁでも、タイタスもそうですが、ちょっとくらい「やり過ぎ」なところのある方が見てる側としては面白いもので。ゼイドラキックはもっと界隈でネタ的に話題になっても良かったのにな、とは思いますw
いっそ隕石ごと砕くくらいの威力でも良かったのかもしれません(←アセム死んじゃう
ちなみに、赤いモビルスーツ絡みという事でファーストガンダムのオマージュが続いていますが、さりげなく『Zガンダム』のオマージュも混ざっているのには注意。
Zガンダムのジャブローでの、このシーンですね。
機体もガンダムの相手が赤い機体(マラサイ)、というわけで共通しています。
上記のように、実に過去ガンダム作品の要素を過剰なくらい散りばめた展開になっており、ついついそちらに目を奪われてしまいがちですが……しかしこの戦闘シーンで描かれているのは、それだけではないので、さらに注意して見る必要があります。つまり、Xラウンダー能力が戦闘においてどのように有利に働くか、という事の具体例が示されているからです。
既にフリット編において、敵機の動きを先読みできる、という演出が為されているのを我々は見てきました。しかしこの回、ゼハートが見せたXラウンダー能力は、ただ相手の動きを先読みする、というだけにとどまりません。具体的には、次のシーンです。
アセムの駆るAGE−2と交戦状態に入るゼイドラ。そのガンダムAGE−2がハイパードッズライフルを構えたのを見て、咄嗟にゼハートはゼイドラの腕部シールドを構えるのですが……
防御態勢をやめて回避。直後に背後の隕石がハイパードッズライフルの威力で爆散して、ゼハートはその威力に驚いています。
つまりここで、ゼハートはガンダムの射撃自体は既に読んでいたわけでした。ここで彼のXラウンダー能力が感知したのは、「その威力が想定よりも大きい事」です。これは、単にアセムの射撃の意思を読んだだけでは分からない事でしょう。
Xラウンダー能力というのはただ相手の意思を読むというよりは、より広く、一種の未来予知に近い能力のようだ、と見えます。
いずれにせよ、この戦いでゼハートはガンダムに勝利。アセムに対して「二度と私の前に現れるな」と告げて去っていくのですが……。
……はい。恐らく多くの方がお気づきになった事と思いますが。ここでガンダムを討たなかった事は、司令官ゼハートにとって大きな失策、あるいは汚点です。
出撃前のセリフで分かるように、この暗礁宙域でのディーヴァ襲撃作戦の目的は、AGE−2の胸部にあるAGEシステムの奪取、あるいは破壊です。この作戦のためにヴェイガンの兵力が投入され、何人かは命を落としています。
そうまでして追い詰めたガンダムを、ここで逃がしてしまうのでは、投入した兵力と、死んだ兵士は無駄になってしまうわけでした。
これは、戦闘後デシルに「手を抜いてお友達を助けたんだろ?」と言われても、言い返す言葉がないわけです。
実際のところ、たとえばアセムをガンダムから降ろして、AGEシステムだけでも破壊する、くらいの事をゼハートはするべきだったのでしょう。あの状況なら、アセムに「今すぐコクピットを開いて降りろ、さもなくばこのままビームサーベルを突き入れる」くらいの事を言えば、アセムが従った可能性も十分あり得たのではないかと思います。
なぜ、そうしなかったのか。
理性的な理由をそこに見つける事は難しいように思います。
アセムから「友達だって思ってるのは俺だけなのか!?」と問われて答えを返せないゼハートは、恐らく精神的にあれ以上アセムと向き合うのが辛くて、背を向けたのではないか、と思えます。
ゼハート・ガレットを「軍人として/指揮官としては優秀ではない」と言う人がいます。
私はその事を否定しない、というか、多分その通りだと思うのです。上記の行動は、軍人としては失格でしょう。
しかし、そのような人間的な弱さに揺れるキャラクターだからこそ、こうして彼の心情を探る考察記事を書く気になった、というのが個人的な本音です。
ゼハートを巡るアセムの煩悶と、アセムを巡るゼハートの葛藤は、この後も続いていく事になります。
※この記事は、MAZ@BLOGさんの「機動戦士ガンダムAGE台詞集」を使用しています。