機動戦士ガンダムAGE 第34話「宇宙海賊ビシディアン」(2/2)

      ▼見どころ(続き)



      ▽親子対決


 ディーヴァの乗っ取りを宣言したビシディアンに対し、否応なくキオたちは迎撃に出る事になります。そして、アセムとキオが激突する事になるのですが。この戦闘シーンの細かな経緯は大変面白く、細かく見ていく価値があるシーンです。
 まず、キオは戦闘開始以前から、Xラウンダーの鋭い勘で「何か」を感じ取っていました。



 早くも父の気配を感じ取るキオ。
 そのような実感があったからでしょう。ダークハウンドとの接敵に際して、キオの戦闘に明らかな変調が見られます。
 AGE-3の最大の武器は、大口径大火力のシグマシスライフルです。格闘戦にも十分に対応できる運動性は持っていますが、やはり他機体に対して絶対的優位に立てる射撃戦はAGE-3の運用上の最重要点のはず。
 しかしダークハウンドの接近を感知したキオは、機体にシグマシスライフルを構えさせているのに、一度も発射しないまま格闘戦の間合いに入られてしまっています。
 キオが父親の存在を感知しているという演出だけでなく、それを戦闘の展開の違いにも組み込んでいる辺りは、AGEの丁寧な戦闘描写の組み立てが見える所です。


  一方、キャプテン・アッシュはというと、一気に接近できたのを幸い



 ワイヤーフック



 目くらましの投光器
 などなど、トリッキーな武器武装でキオを翻弄していきます。
 AGE-2ダブルバレットなどと比べ、格闘戦重視の武装配置になっているのもクロスボーンガンダムのオマージュなのだろうと思いますが。しかしそれにしても、この回のアッシュ=アセムは余裕を見せていて……というか、端的に言って息子相手に遊んでいます。
 明らかにキオ相手に痛打を放てるだろうタイミングで緩い攻撃しかしていなかったり、というのもありますが。たとえばこれ。



 投光器で怯んだAGE-3にキックを放つダークハウンド。
 この構図、見覚えありませんか?



 第20話の、通称ゼイドラキック。
 自分がかつてやられた攻撃を、息子相手に再現して見せているわけで、これは明らかに遊んでいます(笑)。ああ見えてアセムも、久々に息子に会って少し浮かれているかも知れません。
 そんな、微笑ましい親子のスキンシップの最中に、しかしヴェイガンが現れます。
 襲撃してきたヴェイガンの中には、



 キオに仲間を殺された砂漠の亡霊たちもおり。キオは苦戦し、



 敵機に動きを封じられてしまいます。
 お気づきの方もいらっしゃることと思いますが、このシーンは



 アセムがデシル・ガレットと交戦した時と同じ展開で推移します。
 当然、かつての自分と同じピンチを迎えたキオをアセムは見過ごすはずがなく、AGE-3を押さえつけるヴェイガン2機を素早く撃退し、



 キオを救い出します。
 この、相手を正面から抱きすくめるような動きは、既に指摘した




 第4話第24話でウルフが見せた動きと共通です。
 第24話では、このようにしてガンダムAGE-2を救い出した直後、背後から襲いかかったデシルに攻撃されウルフ・エニアクルは撃破されてしまいました。
 一方、まったく同じ構図で背後から襲いかかられたアセムは、ダークハウンドを振り向かせて



 グラット・オットーを撃墜。そして



「スーパーパイロットをナメるなよ」
 と言い放つのでした。


 ここで、ウルフが撃墜された状況が繰り返され、アセムがそのピンチを打ち破る事で、キャプテン・アッシュアセム・アスノがウルフ以上のパイロット能力を持って再登場した事が、短い尺の中で印象付けられます。もちろん、大人になってもなお「スーパーパイロット」を名乗っている事も(笑)。
 脚本上の工夫という事で言えば、このようにアセム編で起こったシーンをリフレインする事で、外見も声も変わっているキャプテン・アッシュがアセムである事を視聴者に印象付けるという狙いもあるでしょう。
 と同時に、ここでアセムが動きをトレースしているのが、かつての自分ではなくゼハートとウルフである事にも注意。アセムにとってのゼハートとウルフは、MSパイロットとしてのライバルと師であり、アセムがスーパーパイロットとして成長するために欠かせない人物たちだったと言えます。キャプテン・アッシュはそうした人たちの動きをキオに対して行う事で、彼なりにキオの成長を促そうとしているらしいことも、汲んでおくことが出来そうです。
 フリットが、不器用ながらにアセムに対して父親をやろうとしていたように、アセムも長期間家を不在にするなど不義理もしてきましたが、キオに対して父親らしいことを示すつもりはある、という事のようなのでした。
 キオ自身も、そのようなアセムの感情にXラウンダー能力で気づいていたのか、「危険な敵のはずなのに……あなたは暖かい感じがするんだ」と声をかけていました。
 キオがこのようなアセムに対してどのように行動していくのか、それも物語の進行に合わせて見ていきたいと思います。


 一方で、もう一つの親子関係。



       ▽フリットとアセム


 ディーヴァMS隊と海賊の戦闘を見ていたフリットは、はじめダークハウンドがAGE-2に似ている事を不審に思いますが、やがて



 Xラウンダー能力によって、そのパイロットがアセムである事を感知します。
 ビシディアン側が、ディーヴァにキオ、フリットが乗っている事などをあらかじめ掴んでいたのに比べ、フリットの情報収集力はかなり遅れをとってしまっています(同様にビシディアンの方が情報収集力で勝っているという場面は、今後何度か出てきます)。
 これは第三勢力として自由に動けるビシディアンの優位、もはや退役してしまったフリットの軍内部での不如意を表してもいますが、より深読みするなら老齢に達したフリット自身の感覚の衰えなどを象徴しているとも見る事ができます。


 この、ビシディアン登場を境に、老フリット・アスノの限界が様々な形で示されていく事になります。海賊登場に際して、フリットは例によって



「ビシディアンは連邦の艦艇を襲い、略奪を繰り返してきた海賊。つまり、連邦の敵だ!」
 と相手を敵性認定しています。
 ところが、当のアセムは後に、このように語っているわけです。



「俺たちは、今まで連邦軍の中でヴェイガンに通じている部隊を襲い、連邦を正そうとしてきた」
 これが正しいとすれば、ビシディアンはむしろフリットが完全に芽を摘む事のできなかった「連邦内部のヴェイガン内通者」を攻撃していたのであり、むしろフリットと目的は同じであるように見えます。
 そうであるにも関わらず、ここでフリットはアセムの真意を見抜けず、ただの敵対行為とみなしてしまうのでした。連邦内部から事態を見ていたフリットには、自身の見えなかった敵に対処していた息子の動きがかえって敵対行為に見えてしまっているという、ここにも実にフリットらしい皮肉が脚本上に据えられています。
 この微妙なすれ違いを、しばらく二人は引きずる事になります。



 それにしても、ビシディアンの目的が連邦に敵対する事に無いのだとしたら、少なくともアセムに関しては、わざわざ海賊に身をやつしたりせずに、連邦内部から働きかけても良いようにも思えます。父フリットの立場を除いても、アセムは連邦内部では十分な戦績をあげているのですから、復帰すればそこそこの立場を得る事はあるいは可能だったかもしれません。


 その理由は、一つには後々に語られる「呪われし秘宝」を彼らが発見してしまったから、でもあるのですが。
 それ以外に、平成以降のガンダムが根深く抱えていたメンタリティの表出としても理解する事が出来そうです。


 第28話の解説でちらりと予告したように、世界が単純に敵と味方の二勢力に分類できる時代は、ガンダムの歴史においてもかなり早い段階で終了しています。80〜90年代ガンダムを代表するアセム・アスノの世代は、そうした心性を体現していく立場でもあります。
 しかも、この「第三勢力」という存在は、単に別の利害を持った組織が介入してくる、という意味に留まらない、複雑な事情を反映した存在でした。


Zガンダム』においてこそ、登場する第三勢力アクシズは、ティターンズともエゥーゴとも異なる、ただ別の目的を持った団体として登場していました。『ガンダムZZ』のハマーン軍、グレミー軍とガンダムチームとの三つ巴も、事情としては変わりません。
 しかし、後世のガンダムにより強い影響を与えたのは、むしろ『0083』だったと言えるでしょう。
 デラーズ・フリートから連邦に寝返って見せるシーマ艦隊の印象も強いですが、私がここで殊更に言及しようとしているのはそちらではありません。最終決戦において、主人公コウ・ウラキアルビオンが、むしろ第三勢力化していった状況を振り返っておく必要があります。


 星の屑作戦の最終段階において、シーマ艦隊は裏切って連邦側に付き、連邦もバスク・オムが指揮する形でソーラ・システム2を起動。アルビオンの艦長エイパー・シナプスは「それでは軍閥政治ではないか!」とこれに反発し、主人公コウ・ウラキもまた連邦側に属していながら、味方になったシーマ艦隊をも攻撃していきました。もちろん、デラーズ・フリートに味方しているわけでもありません。強硬化した連邦にも、ジオンにも与する事ができずに、結果としてコウたちは第三勢力化してしまったのでした。



「お前は一体どっちの味方だ!?」
 そう、コウたちはどちらの味方にもなれなかったのです。


 この傾向はガンダムシリーズが作を重ねる毎に、むしろ強化されていきました。
ガンダムW』では、当初コロニーから極秘に送り出されたテロリストだったガンダムパイロットたちは、やがてコロニーが「ホワイトファング」として武装蜂起するとこれに対立、OZとも敵対する形で第三勢力化しました。
 より顕著なのが『ガンダムSEED』のシリーズです。「21世紀のファーストガンダム」を目指したこの作品は一見、ファーストガンダムの連邦vsジオンの構図を再現したように見えますが、実は主眼となったのは連合への参加を求められながらこれを拒絶しようとし続けたオーブという国でした。連合のブルーコスモスザフトパトリック・ザラというタカ派思想によって対立を深める両国の空気からこぼれ落ちた人々が、ラクス・クラインとオーブ(カガリ・ユラ・アスハ)の元に糾合され、第三勢力として事態に介入していくというのが『ガンダムSEED』『ガンダムSEED Destiny』という作品の基本構図となっていました。
 こうした姿勢をより過激に突き詰めたのが、『ガンダム00』ファーストシーズンのソレスタルビーイングでした。既存の国家に対して、中立の武装勢力としてすべての陣営に介入していくというコンセプトは、上記の流れをより煮詰めた構想である事が了解できると思います。


 これまでのガンダムAGEが基本的に連邦とヴェイガンという敵味方二陣営で話が進んでいたのに対して、アセム・アスノが宇宙海賊ビシディアンという第三勢力を立ち上げて介入しようとしていった、その背景にあるガンダムシリーズの下地というのは、上記のような歴代ガンダムの蓄積にあるという事です。
 こうした傾向の基調低音になっているのは、実のところ「国家に対する不信感」とでも言うべきものです。
『SEED Destiny』において、再び連合とザフトの対立が深まろうとしている時期、アスラン・ザラは意を決してザフトに戻り、組織内部から事態の打開を図ろうとするのですが、



 キラ・ヤマトたちと大きく立場を違えてしまいます。
 結局、ギルバート・デュランダル議長のやり方に反発したアスランザフトを脱出し、再び第三勢力であるラクス・クラインの元へ舞い戻る羽目になりました。
 一定程度の昔までの常識であれば、組織の内部という地に足の着いた場所から事態に対処していこうとするアスランのやり方の方が、着実で評価されるやり方だったように思います。ところが『ガンダムSEED』の世界にあっては、明らかにそのようなやり方の方が無理筋で、望み薄な方法であると描かれているのでした。
 そこに濃厚に浮き出ているのは、国、政府、組織に対する明け透けな不信感です。


 こうした「第三勢力」に関する想像力が、連邦軍司令フリット・アスノの息子アセム・アスノをして、無法者の海賊にしているという側面もあるのです。


 そして、この後、特に三世代編以降のAGEがアセムを通して描いていくのは、そのような「第三勢力」の想像力の、希望と限界です。
 これも話の進みに順次沿いながら、解説していきたいと思います。



      ▽フラムとゼハート


 この回、フラム・ナラがゼハートの副官として本格的に行動を開始します。



「ゼハート・ガレット……お兄様はあなたのために命を投げ出した。あなたがそれに値しない人間なら……わたしがこの手で……!」
 どうも、フラムの兄は過去にゼハートと関わって命を落とした人物の様子です。
 そのようなフラムですが、サルガッソーでの戦闘後、逆にゼハートに思わぬ指摘をされてしまいます。



「お前はこの作戦で死んだ兵の名を知っているか?」
「いえ」
「サム・カレル、リン・フォスター、そしてグラット・オットー。気性は荒くとも腕の立つパイロットだった。覚えておいてやれ」


 ここで『ガンダムW』のトレーズ閣下を思い出す方も多いようですが、無論のこと、ゼハートが要求してるのはそこまでたいそうな事ではありません。言ってみれば、シャアがジーンやデニムの名前を憶えているかどうかというレベルの話ですので。
 ただ、ここでトレーズを思わせるセリフを吐いているのは、ゼハートの価値観を匂わせる意味で一定の効果があがっているとも見られます。トレーズ・クシュリナーダは、



「私は、人間に必要なものは絶対的な勝利ではなく、戦う姿、その姿勢と考えます」
 このような思想の持ち主でした。
 ゼハートはこれほど悟った考え方はしておらず、むしろエデンに辿りつくために「勝利」に対しては執着を持ってもいるはずですが……しかし、ゼハートという人にとって「戦士」という言葉は特別なものでもありました。
 一方で、作戦で犠牲となった部下の名前をちゃんと刻んでいるゼハートの姿は、兄の死を動機に近づいたフラムにとって思わぬ不意打ちとなります。


 ここでゼハートとフラムの心境の同期したところと、行き違っているところが、終盤に至るまでの二人の運命を既に暗示しているわけなのでした。


 そんなわけで、事態は刻々と動いていきます。


 次回、ガンダムAGE終盤の重要キーワード「EXA-DB」が登場します。その辺りも含め、ぼちぼち進めていきたいと思います。
 今回はこれにて。


※この記事は、MAZ@BLOGさんの「機動戦士ガンダムAGE台詞集」を使用しています。


『機動戦士ガンダムAGE』各話解説目次