機動戦士ガンダムAGE 第26話「地球 それはエデン」
▼あらすじ
地球に最も近いコロニー、ノートラムへの攻撃を開始したヴェイガン。フリットは旗艦をディーヴァに定め、連邦軍の大部隊、そして新兵器フォトンリング・レイでこれを迎え撃つ。しかしヴェイガンの移動要塞ダウネスはこれを大型干渉スクリーン「ギガンテスの盾」で防いでしまう。
一方、ゼハートたちの反対を押して出撃したデシルはアセム、ウルフと交戦。戦闘の中で、アセムをかばったウルフは撃墜されてしまう。「スーパーパイロットになれ」と告げるウルフの言葉を胸に、デシルを圧倒するアセム。クロノス撃墜の間際、「お前は、なんなんだ!?」と叫ぶデシルに、アセムは応えていた。「俺はスーパーパイロット、アセム・アスノだ!」
▼見どころ
ついに、アセムが「スーパーパイロット」を継承する回。
アセム編の最終決戦が展開し、重要人物の退場など物語が劇的に動きます。そして、おそらく『ガンダムAGE』全体でも指折りの盛り上がりがある回でもあります。
正直なところ、小難しい解釈や解説を施すよりも、単純に話に没入して見られれば良いのではないかな、と思うのですが(笑)。
しかしこの回も、つぶさに見ていくと様々な演出上の工夫や、今後に向けての伏線などが張られてもいます。少々野暮であると知りつつ、その辺りを眺めていきましょう。
▽オマージュとリフレイン
まずは、この回で描かれた、過去ガンダム作品のオマージュシーンを大雑把に眺めます。
連邦の新兵器フォトンリングレイを守るために放たれた、
初代ガンダムのソロモン戦で使われたビーム攪乱幕ですね。
また、デシルがマジシャンズエイトの機体をコントロールして
アセムのAGE2を捕えたこの場面ですが。
こうして捕縛できるなら、マジシャンズエイトの機体で直接攻撃をかける事も出来た筈ですが、それをせず自らとどめを刺したがる辺りはさすがデシルさん。ともあれ、このシーンは
『ガンダムX』のこれを思い出させます。
そしてアセムが攻勢に出てからの一連のシーン。目まぐるしく動き回る中で、
AGE2がデシルのクロノスを拳で殴るカットがあり。これはもちろん、
しかし、『逆襲のシャア』では、アムロとシャアが行っていたアクションを、AGEにおいてはアセムとデシルがやっているという辺りのアヤが面白いですね。フリットとデシル、でもないし、アセムとゼハート、でもない。
……と、このように、AGEらしく過去ガンダムのオマージュが色々と織り込まれているのですが。しかしそれだけではなく、AGE作中での繰り返し表現もまた効果的に使われています。
デシルはここで、周辺にいるマジシャンズエイトの機体を自分のコントロール下に置き、それらを手足としてアセムを追い詰めます。
「機体が、勝手に!?」
唐突な展開に見えますが、これはもちろん、かつてアンバット戦役で
ユリンの乗るファルシアをコントロールしていたのと同じ技術に他なりません。
しかも。戦闘意志のないユリンはともかく、マジシャンズエイトは他のヴェイガン兵と一線を画す能力を持ったパイロットです。それをこのような形で使い潰すのは戦力の浪費です……が、それをやるのがデシルのデシルたるゆえん。
一方、捕えられたアセムをウルフは救い出すのですが、この時に
AGE2を正面から抱えるようにして、救い出しています。この咄嗟の動きは、以前にも見せたものでした。
第4話「白い狼」の、このシーンです。
第4話の解説でもちらっと書きましたが、こういう時に思わず同じ動きをしてしまう、というのはパイロットの癖とか、人間臭さを感じさせる演出で、個人的にすごく好きです。
特にガンダム近作において、メカのデザインそのものがキャラクターになってしまっていて、中に乗っているパイロットの個性や人格がメカの動きから感じられる、という事が少なくなったように思います。そんな中で、AGEは特異だと感じるのです。同じAGE1でも、フリット搭乗時とアセム搭乗時で動き方が全然違う、というように。
そして、このウルフの動きが、後にもう一度印象的に登場するのですよね。その時が来たら、また書きます。
さて。続いてこの回の、連邦ヴェイガン双方の動きを概観してみます。
▽指揮官たち
ノートラム防衛戦の開始にあたり、フリットはこのように呼びかけます。
「これより、人間を食い荒らす忌まわしき獣(けだもの)どもを撃退する!」
そしてこの発言を聞いたアルグレアスの表情が
こうです。
以前、第22話の解説にて、アルグレアスが幼年デシルと似たようなセリフを言っている事を取り上げて、どういう事だろう、と疑問を投げかけた事がありました。
それに対して、コメント欄にて、この第26話でのフリットの発言→アルグレアスの表情、という展開が対になっているのではないか、と書いてくださった方がいました。
戦争を嫌いながらも、使命感に燃えて戦争するフリット。
戦争に懐疑的だけど、スリルを求めて戦争を好むアルグレアス。
そんな信頼しあってるわりにいまいち相互理解から遠い二人を描くのに
燃えるんです発言は必要だったのだと、私は理解しています。
上記記事コメント欄 ぽえすとさんのコメント
戦争による損害や犠牲に心を痛めつつも、ヴェイガンを倒し皆を守るという目的のために戦いを指揮するフリット。
フリットほど強烈な目的は持っていないが、手段としての戦争にスリルを見出すアルグレアス。
一見、後者の方がひどいように見えるのですが、実際にはヴェイガンに対してより強硬かつ頑なに振る舞うのはフリットの方だったりします。キオ編以降に顕著ですが、事態に柔軟に対処出来ていたのはアルグレアスの方でした。
こうした皮肉も、AGEの意外な「ガンダムらしさ」かなという気がします。
そして、この二人が戦争観では離れているのに、戦場の指揮では互いの長所を引き出しあって良い連携を見せているのも、印象的です。
(一方のヴェイガン側は、戦う目的は皆同じものを共有しているにも関わらず、指揮系統では常に不協和音が鳴っているわけで、その辺の対比も面白い)
さて、そんなフリットですが、ウルフ撃墜の報を受けた際、珍しく感情をあらわにします。
「また私の前から……!」
目に涙を浮かべるフリット司令。
しかし、誰よりも先に作戦遂行に意識を戻します。フリットのこういうところは、本当に徹底しています。
そして。ウルフの死には反応したフリットが、デシル撃墜には何のリアクションもとっていないわけで、この辺りも本当に徹底しています。彼にとっては「ヴェイガン」全体が問題なのであって、フリット個人にとっての因縁は問題になっていない。このフリットの姿勢は、AGE全体を通して変わりません。
いずれにせよ、連邦側の指揮系統は、この時点では混乱なく機能しています。さらに、フリットはデシルの撃墜に反応しなかった代わりに、ヴェイガン側の意図を読み取って見せました。
一方のヴェイガン側はというと……。
ゼハートも、連邦側の陣形を見てフォトンリングレイの存在を看破し、結果的にダウネスの損害を防ぐという見事な洞察を見せてはいます。
しかしその伝達は、必ずしもスムーズにはいっていません。ゼハートの友軍への指令は以下の通りでした。
「全部隊に緊急命令、敵追撃を中止! 即座に撤退しろ!」
これを聞いたマジシャンズエイトのドールとミンクは、混乱します。
「馬鹿な! ようやく戦線を突破できるというのに!」
「血迷ったか!」
結局この後、フォトンリングレイの発射を見て、二人はゼハートの意図をようやく理解はするのですが……。
ここで、全軍への通達に「連邦軍の新兵器」についての言及がなく、結果として部下たちの不審を生んでしまった事は、ゼハートの指揮官としての資質に関わるミスであるように見えます。
ゼハート個人の能力は非常に高い。Xラウンダー能力、パイロット技能、洞察力も並々ならぬものがあります。が、それと部隊指揮能力は別です。ゼハートにとっては、この点が終盤までどうしてもついて回ります。
デシル撃墜についてもそうで、
マジシャンズエイトのリーダー、ドールに「実の兄を見殺しにするとは……」と詰め寄られてしまいます。これに対してゼハートは「たとえ兄でも、妨げになるのなら……」「わたしはどんなことをしてもたどり着くと誓ったのだ。イゼルカント様が見せてくれた未来に……!」
デシルは、この時期のヴェイガンの切り札の一つであるマジシャンズエイトのパイロットの予定外の損耗に立て続けに関わっており、特にこの回、みすみす能力の高いパイロット二人を独断で捨て駒にしています。軍隊の性格にもよるかも知れませんが、まぁ十分に処罰に値するように思えます。
ただしここで、ゼハートがその事を(たとえ多少強圧的にでも)明言できていないのが問題で、「妨げになるのなら……」と独り言のような言い方にしかなっていないのは、指揮官の返答としては決して褒められた事ではないでしょう。
……と、ゼハートの指揮能力について否定的な事をここまで書いて来ていますが、これはゼハートというキャラクターをこき下ろしているワケではありません。物語の登場人物の評価というのは、単にその人物が所持している能力の多寡で決めるものではないでしょう。
ゼハートはその年齢設定も合わせて、負わされた重責に応えようと必死になりつつ、しかし能力的な限界を露呈してもいます。そこでの煩悶もまた、キャラクターの魅力です。
そして問題は、そのようなゼハートがなぜ、ここまでも、これからも重用され続けていくのか、という事です。
ゼハートといえば、この回、ドールに対して、イゼルカントの語るエデンの情景を語る場面がありました。
エデンの情景に立つゼハート。
この景色もまた、AGEのキーになるようなので、記憶しておくとよいかも知れません。
さて、そして今回のメインのお題です。
▽“スーパーパイロット”アセム・アスノはなぜデシルに勝てたのか
前回、スーパーパイロットはなぜXラウンダーに勝てたのか、という話をしました。
しかしそこでは、アセムがマジシャンズエイトに勝てたのは「ダブルバレットの変則的な武装」のせいだけであるかのような書き方になってしまっていました。
一方、この回でデシルを撃破したシーンでは、ことさらAGE2ダブルバレットの武装に頼った戦い方になっていないのに、Xラウンダーであるデシル・ガレットを圧倒しています。
さらに交戦中、デシルはこのような発言もしています。
「よ、読めないっ、なぜだ!? Xラウンダーでもないくせに!」
そう、デシルはアセムの動きが「読めない」と言っているのです。どういう事でしょうか。
作中に明確な答えの提示はありませんので、例によって推論で語るしかありません。完全に納得のいく説明が出来るかどうか分かりませんが、今一度、想像力を働かせてみることにします。
さて。唐突ですが。
『週刊少年ジャンプ』の編集方針として有名な三大原則に、「努力・友情・勝利」があります。事実上、少年漫画に顕著な物語の要素と見て良いかと思います。
これを仮にアスノ三世代に当てはめて見た時に、実は一番この三つの原則を実行していると見られるのは、恐らくはアセム・アスノだと思います。
勝利はまぁ良いとして(フリットが最終決戦後、ユリンを守れなかった事に失意していた事を思うと、この点でも多少の差異は見られますが)、友情と努力の側面を比較してみると面白い。
フリットにもディケとの(あるいは戦友としてウルフとの)友情が、またキオにもウッドピットとの友情が描かれていますが。しかし、モビルスーツ部で共に過ごしたシャーウィーとマシル、卒業式でのロッド・アブスとの和解シーンがあり、また唯一同年代のパイロット仲間であるマックスやアリーサの居たアセムは、三世代の中で最も「友情」の描写が多かったと言って良いでしょう。
そして……「努力」です。
フリットはガンダムAGE1開発のために努力した描写があり、キオにも人間関係的な煩悶やそれに対する努力はありましたが。何といっても、戦闘技術に関して、
最も「努力」の描写の多かったのが、アセムでしょう。
実はこの点が、アセムの「スーパーパイロット」としての技量に大きく関わるのではないかと筆者は考えています。
戦闘訓練をちょっとしたからって、それでXラウンダーに勝てる、という見解には違和感を感じる方がいらっしゃるかも知れません。しかし、存外バカにできないのではないかと思うのです。
筆者が想定しているのは、初代ガンダムにおいて、アムロとシャアの間で交わされた以下の会話です。
「分かるか、ここに誘い込んだわけを!」
「ニュータイプでも体を使うことは普通の人と同じだと思ったからだ!」
「そう、体を使う技はニュータイプといえども訓練をしなければ」
「そんな理屈!」
この会話の後、シャアはアムロに「ヘルメットがなければ即死」になるような一撃を食らっているので、説得力半減ではあるのですが(笑)。
しかしここでシャアが言ったセリフは、ニュータイプの戦闘能力を考える上で意外に示唆的であるように思います。ニュータイプ的な先読み能力よりも、訓練による技量の上達が上回る場面、というのがあり得ると示しているからです。
どういう事でしょうか?
再び、第20話「赤いモビルスーツ」での、このシーンを振り返ってみます。
ゼハートは最初、アセムのハイパードッズライフル発射を見越してシールド防御の態勢をとりますが、
敵の攻撃をガードする、という最初の判断をしてから、Xラウンダー能力による感知までにタイムラグがある事が重要です。この時は、アセムの射撃モーション →着弾までに時間があったため、回避をする事ができました。
しかし、もし攻撃側の動きが、Xラウンダー能力による感知のタイムラグを上回る速さだったらどうでしょうか。
あるいは、こんな考え方もあります。
宇宙世紀のニュータイプは、相手の意志や思考を読む事で、動きを先読みする事ができる、故に強力なパイロットとなる事ができるのでした。
ところで、脚気の検査をやった事のある方は、思い浮かべていただきたいのですが。
足を組んで、膝の皿の少し下あたりを軽く叩いてやると、意識していないのに足が動く事がありますよね。
では質問です。ニュータイプは、この「意識していないのに足が動く」のを、その能力で感知できるでしょうか。
ニュータイプがどこまで相手の意志や思考を読めるのか、という事については確固とした答えはありません。しかし、「次に右へ動こう」「ここで射撃をしよう」といった「思考」を読み取っているのだとしたら、「考えるより先に動く」ような事はあまり先読みがきかないかも知れません。
武術において「型」を繰り返し練習するのは、いちいち頭で考えるよりも早く、体に覚え込ませた動きを咄嗟に繰り出すため、です。
ブルース・リーの「考えるな、感じるんだ」というのもそういう意味でしょう。『ストリートファイターIII』の春麗の勝利セリフに「考えながら動いてちゃ一瞬ずつ遅れていくわよ」というのもありますが(笑)。いずれ、状況に対するレスポンスの速さと的確さを向上させるのが、ああした修練の目的の一つでしょう。
モビルスーツの操縦は武術ではありませんが、反復練習によって状況に対するレスポンス速度が上がる点では同じです。
特に。Xラウンダーが先読み能力を発揮させるのに、わずかでもタイムラグが発生しているなら。素早い近接戦闘、特に、態勢を立て直す隙を与えないラフファイトに対しては、本来の実力を発揮しにくいかもしれません。
そういう意味では、二刀流による格闘戦を初陣からして見せた、アセムのパイロットとしての資質は対Xラウンダー戦に、実は非常に優位に働く可能性があるのではないか。
……というのが、「なぜアセムはXラウンダーに勝てたのか」に対する、個人的な仮説です。
論拠の薄い仮説ですが、ヤザンのような荒っぽい熟練兵がアーガマのNTパイロットたちを圧倒できた理由としてもそれなりにハマるので、割と気に入っています。
真偽の判断は、読者の方々にお任せします。
どうあれ、アセムはウルフから、「スーパーパイロット」の意気を継ぎました。
これによって、フリットとは全然違うベクトルの「強さ」を備えた、新たなアスノ家のパイロットが本当の意味で生まれた事になります。
そしていよいよ、アセム編の最終局面に事態は入っていくのでした。
……本当は、この記事で触れた以外にも見所はあるんですけれども。
特にこの記事では、オブライトとレミの成り行きを全然カバー出来ていないのですが……これについては余力があればまた、次回以降触れたいと思います。
とりあえず今回はここまで。
※この記事は、MAZ@BLOGさんの「機動戦士ガンダムAGE台詞集」を使用しています。