機動戦士ガンダムAGE 第25話「恐怖のミューセル」

     ▼あらすじ


 鹵獲されたヴェイガンMSから、ミューセルと呼ばれるパイロット用ヘルメットを入手したフリットたち。それはパイロットの脳のX領域を活性化させてXラウンダー能力を引き出す一方、脳へのダメージを与える可能性もあるという物だった。
 一方、前回撃破された仲間の仇討をしたいマジシャンズエイトのメンバーたちは、話に加わってきたデシルと共に無断出撃をしてしまう。ディーヴァMS隊はこれを迎撃するが、その際、自身のXラウンダー能力にコンプレックスのあるアセムはミューセルを持ち出して使用。戦果をあげるものの、反動により気絶してしまう。
 フリットに叱責され落ち込むアセムに、ウルフは言い放つ。Xラウンダーにならなくても強いパイロット、「スーパーパイロット」になれば良い、と。




      ▼見どころ



      ▽ミューセル


 前回の戦闘シーンの最後で、フリットが入手したミューセルがキーアイテムになる第25話。
 ちなみに前回記事では、長くなってしまって触れられませんでしたが、ヴェイガンMSの頭部を切り離し自爆を阻止したフリットの行動には注意しておきたいところです。というのも、マックス・ハートウェイがヴェイガン機を撃破した直後、機体の自爆装置が作動してマックスも危なかったタイミングで、



 頭部のみを切り離して阻止したわけです。
 フリットパイロット能力の印象が強いのでつい見逃してしまいがちですが、これ、もし切り離しに失敗していたら、フリット自身も危なかったハズです。
 つまりこのシーン、実は連邦軍の司令が、一介の新兵を助けるために身を挺しているという事なのです。フリットもマックスもその事に言及していないので分かりにくいですが、フリット・アスノという人物の性格を見失わないためには重要な場面だと思います。
 フリット連邦軍の構成員に対する限りでは、とても人間的で果敢な行動力を持った人物であるという事です。ヴェイガンさえ関わらなければ、おそらく出来すぎなくらいに優秀で頼りがいのある上官なのではないかと思います。
 フリットのこういうところを見過ごしてしまうと、AGE最終盤の展開が余計に腑に落ちないものになってしまう可能性があるので、意外に重要なように思います。



 さて。そのような経緯で入手されたサイコメット・ミューセルですが。
 脳のX領域を刺激して、Xラウンダー能力を引き出すかわりに、パイロットの脳に負担をかける可能性のあるものであるようです。
 これもまた、非常に皮肉な設定だと言えるでしょう。


 第22話で触れられたように、ヴェイガンの首領であるイゼルカントは、「Xラウンダーは進化ではなく退化」であると認識しています。そのように否定的に評価しているにも関わらず、配下のパイロットに、無理な負担をかけてでもXラウンダー能力を引き出すようなテクノロジーを使用しているわけでした。
 一方、フリットはXラウンダー能力自体を、パイロット適性の一つとして高く評価しており(フリット自身が立案したプログラムでそのようになっている)、Xラウンダー能力を持つ事自体はポジティブに評価していますが、このミューセルについては、



「あのヘルメットは危険だ」と明確に捉えているようです。
 この点もやはり重要であるように思えます。キオ編以降、徐々に存在感を増してくる「フリットとイゼルカントの対比」は、実はこの辺りから既に始まっているようにも思えるのでした。


 また。このミューセルについては、アセムが持ち出すについてその管理にも見所があります。出撃前、アセムがミューセルのところへ行くと、



 普通に放っぽってあります。
 そして、アセムの行動を見とがめたディケはこれをケースに収めるのですが、



 あっさり壊され持ち出されてしまいます。
 これを見て、「管理体制ゆるすぎるだろ」とツッコミをしてた人を以前見かけたのですが。そして実際その通りなのですけれども……そう、思い出してください。
 ディケがフリット世代であることを(笑)。



 第21話の解説で触れたように、フリット世代は基本的にセキュリティ認識が甘い、という描写は再三されていたわけです。つまり、ミューセルの管理が甘くてアセムに持ち出されてしまうという展開は、一応きちんと描写の一貫性がある、とも見られるのでした。
 いや、うん、軍組織としてどうかとは思うけどねw


(余談ですが。こういう場合に、「常識から考えてあり得ない」といった批判を物語に対して行うのについては、視聴者の側もある程度慎重であるべきなのかなとは思います。
 だってね、考えても見てください。現実の日本で、ウランをバケツで運ぶなんて非常識な事が実際起こってたわけです。事実は小説より奇なりなどと言いますが、一般的な常識からはずれた事態というのは意外に起こり得るもので。「軍組織の中でこんな事が起こるわけがない」という常識も、同様なのだろうなと思います。物語の中で起こる事は、常に正しい事ばかりではありません。たとえ、作者の無知によってそのような描写になっていたとしても。
 作品批判をする者は、明確な矛盾と、「常識で考えてあり得なさそうなこと」とは分けて考える必要があるのだろうなと、思ったりするわけです)


 さて、このミューセルを巡って、アセムのコンプレックスが頂点に達するわけですが、そちらを見ていく前に、ヴェイガン側の動きを見ておきましょう。



      ▽デシルとマジシャンズエイト


 この回、ヴェイガン側でも興味深い動きがいくつかあります。


 作戦変更により、撃破された仲間の仇討ち出撃が出来なくなったマジシャンズエイトたち。デシルの焚き付けもあって、命令無視により無断出撃をしてしまいます。


 このような独断専行は、連邦側では(主人公のアセム以外は)ほとんど見られない動きです。この辺り、以前指摘した「連邦とヴェイガンの人材登用の差」が出ているところのようにも思えます。
 ヴェイガンは基本的に、年功序列よりも実力主義による人材登用をしているように見えます。その結果、自負の強い兵たちが命令系統を無視してしまう、という事ですね。
 一方の連邦ではそのような形での跳ね上がりはあまり生まれません。逆に、アセムのように焦りやコンプレックスによる独断専行が生まれるというのも、面白い対比かもしれません。
 とはいえ。この「ヴェイガンの実力主義による人材登用」ですが、あまりシンプルに捉えられないような感触もあって、注意を要します。確かに、連邦側とは違うとは言えるのですが、本当に「実力のある者が登用されているのか」には留保をかけておいた方が良いようなニュアンスがあります。というのも、筆者がイゼルカントの態度を気にしているからです。


 この回、ゼハートがイゼルカントに対して、ビッグリング攻略作戦の失敗を詫びています。「どのような処分も甘んじて受ける」と申し出るのですが……



我が計画はあらゆる事態を想定してある。ビッグリング攻略戦も最低限の目的は果たしておる。かの作戦においてわたしは、地球連邦軍の戦力をはかることができた。連邦軍の展開、即応能力、Xラウンダーの力、犠牲を払っただけの成果がは得られた。そこで得られたデータを基に、わたしはついに完成させることができたのだ。完全なる侵攻作戦を」
「完全なる侵攻作戦?」
「そうだ。この作戦に失敗はない。始めるぞゼハート、我々の望む、我々の新世界の創造を……!」


 このやりとり、額面通りに受け取ってよいものでしょうか。
 一見、イゼルカントは大局的にフェイルセーフ(失敗してもなお大丈夫な状態にしておくこと)を敷いていて、またゼハートの失敗をも寛容に許しているように見えます。
 しかしこの人物は、ゼハートがトルディアへの潜入作戦の(ガンダム捕獲という任務の)失敗を報告した時にも、



「想定していたよ。あれは特別なものだ」
 と軽く流して、直後にゼハートを地球制圧軍の司令官に抜擢して見せたのでした。


 どう思われますでしょうか。
 イゼルカントは、ゼハートを決して叱責しません。むしろ、ゼハートが失敗を報告するたびに、より大きな重責を彼に課していきます。
 もちろんゼハートは決して無能力な指揮官ではないのですが、しかしこのようなイゼルカントの采配は、どうも「成果主義」というわけではないように見受けられます。むしろ、失敗を責めてもらえないまま、次々と重要な任務を課されるゼハートは、持ち前の責任感から、失点を取り戻すべくますます粉骨砕身していく事になるわけでした。どうも、イゼルカントはそういうゼハートの性格を見越してこのように振る舞っているようにも見受けられるのですが、これは筆者の気のせいでしょうかね……。



 閑話休題。一方、今回ある意味いちばん輝いていたのが、デシル・ガレットさんです。
 マジシャンズエイトの独断専行に便乗してここぞとばかりに出撃。テンション上がったデシルさんは、ここぞとばかりに叫びます。



「来てやったぜフリットぉ! さぁ遊ぼうぜぇ!!」
 ……ここまで幼少期から変わりがないと、逆に清々しいですね(遠い目
 ところがノリノリでやってきたデシルを、フリットはMSにも乗らずにあしらいます。艦橋から砲撃角度を指示し、



「なっ!?何ぃっ!?」
 というわけで、艦砲射撃により追い払われるというまさかの展開でした。
 これも歴代ガンダムで前代未聞。戦艦が特定MSに対してこんなに強かったことはおそらくなかったのではないかと思います。
 個人的に思い浮かぶのは、PS時代のGジェネで、シロッコの乗ったドゴス・ギアパイロット補正でやたら強くて、カミーユやクワトロで四方を囲まないと手におえなかった事くらいでしょうかね(知らんがな


 結果、マジシャンズエイトにも損害が出て、あえなく撤退を余儀なくされたのでした。
 帰還後のデシルさんの弁はといえば。



「俺の実力は、こんなもんじゃないんだっ……!」
 本当、面白いくらい幼少期とセリフが変わりません。もういい年なはずなんですが。


 本来であれば、「フリット対デシル」は因縁の対決であり、ドラマ的にも盛り上がるはずなのですが、この回はとうとうその対決自体をフリットが拒否してしまいます。このような事は、歴代ガンダムでも非常に珍しいように思えます。
 ここで、フリットの指示を敏速に実行し、的確な射撃を行って見せた事は、ディーヴァクルーの能力の高さをも示していると解釈する事は決してうがった見方ではないでしょう。やはりフリットが司令について以降の連邦軍は、頭抜けて練度が高い。
 しかし一方で、この展開には今後にかかってくる微妙なアヤを含んでいます。



 子供のままのデシルに対して、司令として戦局を見極めるフリットはMS戦による直接対決をとりません。
 しかしこれほどデシルを圧倒できるフリットが、この機会にデシルと直接対決をして撃墜しておかなかったことは、結果として後々に大きな損失として跳ね返ってくる事になります。
 実のところ。ここまでフリットは2回ガンダムで出撃しており、デシル機に痛打を与えるなど目覚ましい活躍はしていますが、撃墜数はゼロです。そしてこの回も、マジシャンズエイトが撃破され、追い詰められたデシルに、
「どうする? このまま孤立無援で戦闘を続けるか?それとも……」
 と、どちらかといえば撤退を促すようなセリフをデシルにかけています。もちろん、死にもの狂いになったデシルにより友軍に余計な被害が出る事を避けるための理性的な発言なのですが……しかし結局、アセム編に入ってからここまで、フリットは一度も自らの手でヴェイガンを撃墜はしていない事になります。これは、フリットの口から出る強硬な発言とは、確かにすこし裏腹な印象を与えます。


 同時に。
 フリットが司令として、戦局全体にコミットする立場からデシルとの個人的な因縁の決着に向かわなかった事から、すぐ後にフリット自身にとって近しい人に影響として帰ってくるという、この構図もまた、『ガンダムAGE』という世界の奇妙なシビアさに通じもいるようです。
 AGEの世界においては、大局を動かそうとして大状況に目を向ければ、身近な親しい人との間の関係に取り返しのつかない事が起こり、逆に身近な人を大事にしようとすれば大状況を動かすことが出来ないという、二律背反の大原則が横たわっているように筆者は思っています。この「原則」は特に最終盤の三世代編を読み解く上で段々と重くなってくるのですが……ここで、デシルとの個人的因縁の清算をしなかったフリットの選択もまた、そうした原則の一環と見る事ができるのかもしれません。



 ……さて、まだ本題にも入っていないのに、長くなってしまいました。
 この他、今回みごとに撃墜されてしまうマジシャンズエイトパイロットの一人が、「美しくない」を口癖にしてるのとかも、ガンダムZZのネオジオンのキャラや、GガンダムガンダムWなどの癖の強いキャラクター傾向を思わせるオマージュなのかななどとも思ったりはしますが、あまり深入りしない事にしましょう。
 ようやくのことで、今回の本題です。



      ▽スーパーパイロットって何?


 この回、ついにウルフ・エニアクルの口から「スーパーパイロット」という言葉が出てきました。
 Xラウンダーである父フリットや、ゼハートに追いつきたいがために、脳へのダメージすら考えられるミューセルを無理やり持ち出して戦ったアセム。父であるフリットは、



「お前は自分のしたことが分かっているのか?」
 と叱責します。「自らを危険にさらしただけではない。下手をすれば仲間全員にも危険が及んでいた」と。きつい言葉であり、またアセム自身の悩みには触れていないため無理解な態度のように見えますが……前述したゼハートとイゼルカントの関係を考えると、また少し見方も違ってくるかなと。
 とはいえ、強くなりたいというアセムの焦燥には、フリットは何も言いません。それに代わって、アセムに違う道を示すのがウルフでした。



「そんなにXラウンダーになりたいのか? アセム
「だってそうでもしないと、俺は父さんにだって届かない……!」
「いいじゃないか」
「えっ?」



「お前はスーパーパイロット、アセム・アスノになればいいんだよ」
「スーパー、パイロット?」
「Xラウンダーじゃねぇけどスゲェパイロットって意味さ、この俺様のようにな」



「今回、俺はXラウンダーを倒した。そして、お前もこの前、ガンダムでXラウンダーを倒した。その腕を極めればいいだけさ。強くなれ、アセム。お前ならできる」



 このウルフの発言によって、アセムは憑き物が落ちたように清々しい笑顔を浮かべる事が出来るようになるのですが。
 しかしでは、「スーパーパイロット」とはなんなのでしょう。Xラウンダーではなく、Xラウンダーにも勝てる「強さ」とは何のことなのでしょうか。
 AGEに関する話題で、この点についての混乱は時々耳にするところです。せっかくなので、少しその辺の考察をしてみようかと思います。「スーパーパイロットはなぜXラウンダーに勝てるのか」
 しかしその点を考えるためには、まずやらなければならない事があります。アセムと同じ勘違いに陥らないように、あらかじめ予防線を張っておいた方が良いように思います。「強さ」ということについて、です。



 我々は、特にゲームなどでキャラクターの攻撃力や防御力を数値で把握するという事に慣れてしまっているため、「強さ」というものをついつい、単純に比較可能なものとして捉えてしまいがちです。
 そのため、某巨大掲示板で何度となく繰り返されているように、「アムロ・レイキラ・ヤマトはどっちが強いの?」とか、「最強パイロットは誰?」といった会話に花が咲かなかった日はなかろうと思います。しかし、「強さ」というのは本当にそのようなシンプルな尺度として捉えて良いものなのでしょうか。
 少し極端なたとえ話をしてみます。


 とあるパイロットAは、作中でパイロットBに敗れました。
 そしてそのパイロットBは、やはり作中でパイロットCに敗北しました。
 そこで、「パイロットCこそがこの三人の中で最も強いキャラ」であると結論します。
 では問題です。この議論は必ず成り立つでしょうか。



 イエスと答えた方は、アセムが陥っている思考の罠にかなり近いところに居ます。
 なんでかって? 以下のように言い換えたらどうでしょうか。


 チョキは、パーに必ず勝利します。そしてグーは、チョキに必ず勝利します。
 では、グーこそがこの三つの中で最も強い、と判断して良いでしょうか?
 ……良くないですよね?



 この話、ふざけていると思ってもらっては困ります。強さというのが、単純に一直線上に並んでいて、互いに比較可能なものだと安易に考えるべきではないのです。
 もう一つ、別な例をあげましょう。



インディ・ジョーンズ』という映画の中に、こんなシーンがあります。
 主人公の考古学教授インディが敵に追われて逃走する途中。目の前に刀剣の使い手のような厳つい男が立ちはだかるのです。男は自身の技量を誇示するように刀剣を自在に振り回すパフォーマンスでインディを威嚇します。腕力も、剣を扱う技術でも、インディよりはるかに「強い」というアピールをして、不敵に笑って見せるのですが。
 そのパフォーマンスが終わると同時に、インディは懐から拳銃を出して男を難なく射殺し、何事もなかったようにその場を去るのでした。


 刀剣を操る敵の男は、決して「弱い」わけではありません。おそらく、インディとの距離が2m以内だったなら、どんな道具を使ってもインディ・ジョーンズに勝ち目はないだろう相手です。
 しかし、彼我の距離が十分に離れていたために、あっけなく勝敗がついてしまいました。
 どういう事かというと――つまり、条件(コンディション)に影響されない「強さ」なんてありえない、という事なのですよ。置かれた条件を考慮しない「強さ」の比較というのは、基本的にナンセンスです。
 つまるところ、Xラウンダーに対抗する方法だって、決して無いわけじゃない。



 本人が言うように、この回、ウルフはXラウンダーであるマジシャンズエイトの一人を見事に討ち取っています。Xラウンダーによる先読みというアドバンテージがあるのに、ウルフはどうしてそれを覆し勝利する事ができたのでしょうか。
 実際に作中の動きを追ってみますと。



 まず、アセムによって僚機が撃墜された動揺かと思いますが、ウルフの射撃はマジシャンズエイトの女性パイロット、レッシー・アドネル操るゼダスMにかなり命中しています。
 しかし、レッシー機は持ち前の先読み能力を駆使して、



 Gバウンサーの背後をとります。
 ところが、今度はウルフがレッシー機の攻撃を回避して、



 逆に相手に銃口を突きつける事に成功、という流れです。
 見たところ、まるでウルフまでがXラウンダーであるかのように、レッシーの攻撃を先読みして回避、その隙をついて逆転したように見えます。なぜそのような事が可能なのでしょうか。


 これは筆者のあて推量にすぎませんが。
 思うにXラウンダーの能力と言うのは、インプットは強化しますが、アウトプットを強化するような能力ではないのではないでしょうか。
 相手が次にどう動くかといった知覚や認識は強化されるけれども、「それを知った自分がどう動くのか」という部分には特に補正はかからないのではないか、というような事です。
 この場合で言えば、Xラウンダーの能力により「ウルフの背後をとることはできた」けれども、「背後をとった後で、ではどのように動くか」という自身の行動に関しては、一般兵と特に変わらないのではないかという事です。
 そして、「背後をとった敵が次にどう動くか」なら、経験豊富なウルフにはとっさに予想が出来て、直観的に対処が出来たのではないか。



「これが俺様の技量ってヤツだ」
 ウルフが言い放ったセリフも、そうした解釈を支持してくれるように思えます。


 そして重要な事ですが、「アセムがXラウンダーを撃墜できた理由」は、どうもウルフのそれと同一ではなさそうに思えるのです


 前回、アセム自身もまた、ミューセルの力を借りずにマジシャンズエイトを撃墜しています。しかも2機同時でした。



 このシーン。
 おそらく、ここでアセムがXラウンダーを(二人も)撃破できたのは、ウルフのように経験で勝ったからではありません。映像から素直に解釈するなら、AGE2ダブルバレットのバインダー部分が巨大なビームサーベルになる、という機能に意表を突かれたからでしょう。
 第20話の解説で書いたように、Xラウンダー能力というのは単に相手の思考を読むだけではなく、相手の武装の威力などを洞察する事も可能な、広い認識能力の向上であるようです。しかしながら、ゼハートとマジシャンズエイトの能力の差なのか、あるいはあまりに意表外のことは咄嗟に読み切れないのか、結果的にダブルバレットの変則的な武装によってアセムはXラウンダー二人を撃墜する金星を挙げる事になりました。


 そして、アセム自身が気づいているかどうか分かりませんが、実はミューセル装着によってXラウンダー能力が発揮された時にも、アセムは同様の戦法をとっています。
 確かに、レオ・ルイス機(「美しくない!」の人)を撃墜したのは、ミューセルによって増幅されたXラウンダー能力なのですが。しかし続いてミンク機を追い込んだのは、



 バインダーによる背後攻撃。やはりダブルバレットの特殊な武装をいかした、トリッキーに意表を突く攻撃である事が分かります。



 ちなみに、先読み能力を持つ敵に対して、相手が見た事のない武器で不意打ちを行う事で打開を図るという展開は、クロスボーンガンダムの続編『スカルハート』に出てきます。ここで宇宙海賊のトビアが、近しい事例に出てくるというのはアセム・アスノというキャラを考える上でやはり面白いですね。
 また、上で示した、ミンク機に対する背後への攻撃は、『Vガンダム』第6話での




 このシーンのオマージュも含んでいるように思います。人間には出来ない、首と腕を真後ろへ向けての攻撃も、メカであるMSには出来るというなかなか衝撃的なシーンです。



 ……と、いささか散漫ながら劇中シーンを眺めてみて、分かる事があります。
 つまり、「スーパーパイロット」というのは特定の戦い方のスタイルや戦法やコツではないという事です。既述のように、恐らくウルフとアセムがXラウンダーを撃墜できた理由は、それぞれ別であるからです。その本当の意味するところは、「非XラウンダーでもXラウンダーを相手に互角に戦えるのだという発想の転換」、あるいはそのような信念そのもの、なのでしょう。
 いみじくもウルフが言うように、



「言ったろ、ここが強いヤツが最後に勝つんだ」
 ……という事なのでしょう。


 これも第20話でちらっと触れましたが、ウルフ隊長はこういう難しい事を言語化するのが得意な方ではありません(笑)。
「スーパーパイロット」というネーミングも、ダサいと言ってしまえばそれまでなのですが、しかしこれも、AGEという作品全体のネーミングセンスと結びつけるのが適切なようには思えません。AGE作中で、これ以外に極端に安直かなと思えるネーミングはそんなに多くないからです。
 むしろウルフ・エニアクルというキャラの人柄を色濃く反映したネーミングなのでしょうし、そうであるからこそ、アセム・アスノがこの「スーパーパイロット」を受け継ぐ事に意味が出てくる、と読むのが良いように思います。


 単純な事のようですが、このウルフの示唆はアセムにとって極めて大きな意味を持っています。
 「Xラウンダーにならなくても、すげぇパイロット」という存在があり得るという事は、フリットの創出した「養成プログラム」で高評価を取るだけがパイロットじゃない、と言っているという事でもあります。アセムの悩みの始まりが、フリットの手による「パイロット能力評価の基準」であった事を思えば、ウルフの教えは「フリットに認められるだけが生き方じゃない」「フリットの敷いたレールを走るだけが人生じゃない」といった事まで暗に示唆しているという事です。
 ウルフのセリフを聞いたアセムが、急に憑き物が落ちたような明るい笑顔になるのも、意識的にか無意識的にか、上のようなメッセージを受け取ったからなのだろうと思います。


 もっとも。
 ウルフにそのように示唆された結果、後年のアセムが父親の敷いたレールから大幅にはずれて、とんでもないアウトローにまでなってしまう……という辺りが、ガンダムAGEという作品の妙に念の入ったアイロニーなのでした(笑)。



 というわけで、今回も若干冗長になってしまいましたが。
 アセム編のこの辺りは、少し前の伏線を回収しつつ、さらにキオ編以降につながる伏線をも新たに仕込みつつ進む、非常に複雑なところで、いきおい解説でも言及すべき事が多くなってしまいます。
 この回は他にも、オブライトとレミの重要なシーンがあったりもするのですが、まとまらなくなりますので今回は見送る事にします。
 相変わらずスローペースではありますが、引き続きお付き合いいただければ幸いです。



※この記事は、MAZ@BLOGさんの「機動戦士ガンダムAGE台詞集」を使用しています。


『機動戦士ガンダムAGE』各話解説目次