★第二回 一年戦争の開戦とザク


セ「みなさん、こんばんは。講師のセリーヌです」


ル「助手のルークです」


セ「本日は、MSの代名詞ともいうべき人類最初のMS、ザクシリーズを中心に話していこうと思います」


ル「ジオンMSの基本にして花形、ですね」


セ「ええ。実に一年戦争中、ザクIIは4000機、資料によっては8000機もの数が
  生産されたとの説もありますから、通史で見て《もっとも多く作られたMS》と
  言えるかも知れません」


ル「なるほど……」


セ「さて、では本論に入って行きましょう」

                                                                                                                                                                                • -


セ「そもそも一年戦争は、地球連邦政府に対してサイド3のコロニー国家、
  ジオン公国が仕掛けた独立戦争でした。
  地球に住む人々と、宇宙移民によってコロニーに住む人々との様々な格差問題を背景に、
  公王制をしいたザビ家が起こした戦争です。
  歴史の講義ではないので、開戦に至るまでの経緯は割愛しますが……」


ル「そうですね、その辺も踏み込み始めると、かなり長くなるんだろうし」


セ「エレズムから始まって、ジオン・ズム・ダイクンの思想からザビ家が独裁体制を整えるまでの流れなど、
  確かに語り始めると、触れなければならない話題が多くなりますのでね。
  とりあえず今押さえておくべきは、地球連邦の所有する軍事力と、
  ジオン公国軍との戦力比がおよそ30:1ほどで、
  ジオン側が圧倒的に軍事力の面で不利だったことです。
  開戦にあたり、この絶望的な戦力差を埋める方策が必要になりました」


ル「それが、モビルスーツだったと」


セ「まあまあ、先走らずに、まずは戦略の面から見ていきます。
  ジオンとしては、連邦軍と正面からぶつかる戦いは当然不利なので、
  できるだけ避ける必要がありました。
  そこで取られたのが悪名高い“コロニー落とし”作戦ですね。
  人類最大の建造物であるコロニーを巨大な質量弾に見立て、
  それを地球連邦軍本部・ジャブローに落下させて一気に大打撃を与え、
  そのまま相手に降伏を迫る、というのが狙いです」


ル「……まぁ、誰も思いつかないような、大胆な作戦ではあったと」


セ「そうですね。とはいえ、この際、サイド3以外の各サイドの掌握・鎮圧に
  核兵器や毒ガスを使用するなど、過去に類例のない虐殺を伴う作戦でもありました。
  ……さて、戦略面ではこのような一種の電撃戦を構想していたジオン軍ですが、
  しかしこれだけでは不足です。
  コロニーを落とすにしても当然、連邦軍の阻止行動・反撃が予想されますから、
  それに対抗できるだけの切り札が必要になります」


ル「そこでようやく」


セ「ええ、モビルスーツの登場となります。
  AMBACによって機動性を向上させた新たな航宙兵器。
  ……とはいえ、この革新的な兵器も、これだけではナンセンスな無用の長物でしかありません。
  実際、開戦前の時点で連邦軍も、ジオンがMSを開発している事をある程度掴んでいましたが、
  馬鹿馬鹿しいものとして取り合わなかったと言われます」


ル「え、事前にMSのこと、知ってたんですか? 連邦側が」


セ「ええ、いくつかそれを証明する資料は残っています。
  しかし。後に戦場の風景を丸きり一変させてしまうMSという兵器は、
  この時点では見向きもされませんでした。さぁ、何故でしょう?」


ル「え、えぇっと。あの、うー。パス1で」


セ「……7並べじゃないんですから。
  良いですか、どれほど高性能な兵器だろうと、遠距離からの砲撃やミサイルなどで
  撃墜されてしまえば、それまでです。
  モビルスーツ――ザクは、セイバーフィッシュなどの航宙機に比べ、的として大きいのです。
  そして連邦側は、サラミス級マゼラン級に代表される艦艇を多数所持し、
  メガ粒子砲やレーダー誘導によるミサイルで、ジオン側の艦載機を一掃できたのです。
  人型をした巨大な機動兵器を見ても、ですからジオンの苦し紛れとしか思わなかったのですね。
  一方、ジオンの側でも、無論そうした点は把握していました。
  ですから、モビルスーツを運用する場合には、必ずある物質を同時に使用する――」


ル「ああ、そうか。ミノフスキー粒子ですね」


セ「正解です。MSが戦場で活躍するために必要な、最大の要素がこの物質です。
  物理学博士ミノフスキーにより宇宙世紀0069年に発見されたこの物質は、
  多量に散布されると電磁波を遮断する性質があるため、
  これによりレーダーや電磁波通信が事実上使用不可になってしまいます。
  つまり、戦術的にこのミノフスキー粒子を散布することにより、
  ザクはレーダーで捕捉され連邦艦艇から狙撃される事もなく、
  レーダー誘導によるミサイルの攻撃に晒される事もなく、
  至近距離から連邦軍の艦を攻撃する事が可能になりました。
  レーダーによる電子戦中心だった戦争形態が、旧世紀の有視界戦闘に逆戻りした瞬間です」


ル「接近さえできれば、連邦の大型艦艇より小回りの利くMSの方が有利ですもんね」


セ「ええ。また、ミノフスキー粒子は性質上、放射能を遮蔽する効果もあり、
  これによってMSの動力となる核融合炉の開発も可能となりました。
  ミノフスキー・イヨネスコ型核融合炉と言います」


ル「イヨネスコ……」


セ「ああ、まあこれは覚えなくて良いですけどね。
  ともあれ、ミノフスキー粒子の発見によって、MS活躍のためのピースが揃ったわけです。
  年号を追って行きますと、ジオン公国はU.C.0071には、ミノフスキー粒子散布下での運用を前提とした新型兵器の開発に着手。
  U.C.0073に、公国内のジオニック社がその1号機を完成させます。この際、型式番号としてMS−01が与えられました。
  さらに、ジオニック社はこの年のうちにMS−02、MS−03、MS−04を相次いでロールアウト。
  このMS−04は、後にプロトタイプ・ザクと呼称されるようになります」


ル「だんだん、形になってきたって感じですね」


セ「そうですね。ついに翌年には、MS−05、すなわちザクIが完成しました。
  この機体が、同時期に開発されていたツィマッド社のEMS−04ヅダとのコンペに勝ち、
  公国軍に制式採用される事になりました。
  これが、実戦仕様を施された人類初の量産MSとなります」


ル「ん、と……一年戦争が0079年だから、5年も前にザクIは配備されてたんですね」


セ「そういう事になります。さらに、宇宙世紀0077年にはMS−06の量産も開始されます。
  ジオンMSの代名詞、ザクIIです。
  傑作機との呼び声も高いこの機体の登場をもって、ジオン公国はついに地球連邦軍との開戦に踏み切ります。
  時に宇宙世紀0079年」


ル「一年戦争の勃発、ですね」


セ「はい。人類が宇宙に居を移してから、初めての大規模戦争です。
  当初、一年戦争の最初の一ヶ月まで、主に配備されていたのはザクIIC型と呼ばれるタイプでした。
  これは、開戦直後の各サイドへの奇襲攻撃の際、核兵器の使用が予定されていたので、
  コクピット付近に対放射線用の装甲を施されたものです。
  また、これは開発時期が諸説あって確定しないのですが、一説に指揮官用のS型も、
  一年戦争初期のルウム戦役の時点で配備がなされていたと言います。
  これは、スラスター推力などを向上させ、頭頂部にブレードアンテナを新たに取り付けたタイプです。
  また、このS型は、ジオン公国軍のエースパイロットが搭乗し、一部パイロットはパーソナルカラーで愛機を塗装して
  連邦軍にまでその存在を知らしめていました。
  【赤い彗星シャア・アズナブルの機体が有名ですね。
  これらエースの武勇は、ザクの存在と共に、軍事的にはもちろん精神的にも連邦軍にとって脅威となっていきます。
  実際、一年戦争の緒戦において、ジオン公国軍地球連邦軍に対し圧倒的な形で勝利しました。
  コロニー落とし作戦、いわゆるブリティッシュ作戦は、当初の目標であるジャブローへの落下こそ阻止されてしまいましたが、
  連邦軍の抵抗を振り切り地球へ落とすことには成功します。
  落着地点はオーストラリア。甚大な被害に、連邦軍は大きく動揺しました。
  そしてルウム戦役での勝利。
  特にルウムでは、旗艦アナンケで指揮を取っていた連邦側の総大将、レビル将軍を捕虜にする大金星を挙げたのです。
  これらは正に、ザクがもたらした勝利、でした」


ル「なるほど。だからこそ、ザクが“ジオンの誇り”になるわけですね」


セ「そうですね。しかし、周知のようにそのままスムーズに勝利を収めることはできませんでした。
  次回、南極条約の締結から、ジオンの地球降下作戦と地上戦力などについて話していきたいと思います」

                                                                                                                                                                            • -


セ「ご要望をいただきましたので、当初予定していたよりも最初期のジオンMS開発の模様について
  紙面を割いてみました。いかがでしたでしょうか。
  今後もしばらくは、宇宙世紀のMSを語る上で欠かせない重要用語が頻出します。
  心ある方は、復習などしておくと良いかもしれません」



  ★試験に出る(?)重要キーワード
ミノフスキー粒子
ブリティッシュ作戦
ルウム戦役