★地球降下作戦とジオン地上戦力


セ「みなさん、こんばんは。講師のセリーヌです」


ル「助手のルークです」


セ「今日は、ジオン公国軍の地上戦力について主に語っていきたいと思います」


ル「というと……ドップとか、マゼラ・アタックとかですか?」


セ「それと、ザクII J型などですね。合わせてジオン軍地球降下後の戦争の推移に触れて、
  最終的には、有名なガンダム神話が始まる直前まで話を進めておきたいと思います」


ル「お、いよいよですね?」


セ「ふふ、まあ焦っても仕方ありません。まずは前回の続きから。
  一年戦争を語る上で欠かせない事件である、南極条約の締結について話さないといけません」

                                                                                                                                                                                                • -


セ「さて。先週お話ししましたように、一年戦争の緒戦においてジオン公国軍は大勝利を収めました。
  コロニー落とし作戦という、想像もしていなかった攻撃に動揺し、
  ルウム戦役において主力艦隊は壊滅に追い込まれ、指揮をとっていたレビル将軍は捕虜になってしまいます。
  それまで、強大な戦力を持ち、スペースコロニーに住む人々――スペースノイドと言います――からの
  反抗に屈するなど考えることもできなかった地球連邦にとって、どれほどの混乱だったでしょう」


ル「うーん。まあ戦力差はゾウとアリだったわけでしょう? 相当ショックだったんでしょうね」


セ「そうですね。だからこそ、ジオン公国にとってはまたとないチャンスでした。
  連邦が自信を喪失している今こそ、この戦争の目的であった諸条件を呑ませる好機です。
  ジオンは、開戦後いち早く中立を宣言していたサイド6を介して、連邦側に講和条約の締結を申し入れます。
  講和会議の場所は南極。ここで、ジオン公国の完全な自治権を連邦に突きつけ、認めさせるつもりでした。
  ところが、ここで予想外の事件が起こります。
  捕虜にしていたレビル将軍が、連邦側工作員の手でサイド3を脱出したのです」


ル「うわぁ。そんなスパイ映画みたいな」


セ「どうだったんでしょう、その細部は伝わっていません。
  中には、公王デギン・ソド・ザビが故意に逃がしたんだと言う人もいますが、真偽の程は不明です。
  ともあれ、ジオンを脱出したレビル将軍は、すぐさま連邦全体に対して演説の形で呼びかけました。
  これが、有名な“ジオンに兵なし”演説です。
  捕虜となる事でジオン国内の状況を目にしたレビル将軍は、ジオン側もまた厳しいのだと説いて
  連邦政府に戦争継続を促したんですね。
  これに勇気付けられた連邦政府は、結局講和に応じませんでした」


ル「劇的ですね」


セ「ええ。しかしそれだけではありません。
  各サイド掌握のための核攻撃・毒ガス作戦とコロニー落としで、
  既に総人口の半数が死亡するという未曾有の惨事を引き起こしていたジオンは、
  以降の戦いでコロニー落としやABC兵器の使用を禁ずる“南極条約”を呑まずにはいられませんでした」


ル「あ、質問です。ABC兵器って何ですか?」


セ「Aはアトミックで核、Bはバイオロジカルで生物兵器、そしてCはケミカルで化学兵器ですね。
  これらの頭文字をとってABC兵器と通称されます。
  また、核をヌークリアとしてNBC兵器とも言われます。これはガンダム用語ではなく、
  一般に使用される用語ですので、覚えておくと良いかも知れません」


ル「なるほど」


セ「ともあれ、この条約によってジオンが緒戦の切り札として使用していた兵器のうち、
  MSを除くほぼすべてが使用不可能になってしまいました。
  残る手段は一つ。地球に直接降下するしかなくなってしまったのです」


ル「MSで、ですか? でも確か最初の回で、MSは地上で使うと問題が色々出るって」


セ「そうですね、よく覚えていました(ニッコリ
  ミノフスキー粒子散布下の宇宙空間では無類の強さを誇るMSも、地上では多くの制約に晒されてしまいます。
  その巨体を支えねばならない脚部の関節には大きな負荷がかかり故障しやすくなりますし、
  航空機、それも爆撃機などに頭上から攻撃されれば、たとえMSでも無事では済みません。
  また、移動や回避運動なども大きく制限されます。歩くか、走るか、跳ぶか、くらいしか方法がありません」


ル「そんな状態で、勝てたんですか?」


セ「結論から言えば、地球に戦場が移ってからもしばらくは、ジオン側が優勢でした。
  北米や西ヨーロッパ、アジアやアフリカなどで、広大な地域を占領する事に成功しています」


ル「結構すごいですね。でもどうやって?」


セ「ジオン公国軍も、初期の作戦が失敗した場合に備え、地上用の兵器を用意してはいました。
  巨大な空母ガウに、ドップやルッグン、マゼラ・アタックなどの兵器群です。
  地球降下作戦にあたり、これらの兵器が実戦投入され、各戦場で運用されました。
  もっとも……これらは通常の航空機や戦車の常識からは大きく逸脱した兵器だった点は否めません。
  キャノピー部分の肥大したドップの形状や、砲塔部分だけが分離飛行できるマゼラ・トップの発想など。
  宇宙の民、スペースノイドであるジオン軍の兵器開発者は、実際の地球をよく知らなかったため、
  地上用の兵器群をもっぱらシミュレーションのみによって作っていた、その結果だと言われます」


ル「まあ、ドップとか、あんまり飛ばなさそうですもんね」


セ「推進力で無理やり飛ばしている、という話ですね。
  一応、あの大きなキャノピーは、ミノフスキー粒子下の有視界戦闘に対応するのに有効だったと言われていますが。
  これら通常兵器に加え、ザクII もまた陸戦用のJ型が開発され、地上戦に投入されました。
  宇宙で行動する際に必要な、機体各所の姿勢制御バーニアを排除し、脚部関節などを強化したタイプですね。
  また、特に地上で使用するためのザクII J型の装備として、手投げ式のクラッカーや、
  脚部に取り付けるミサイルポッドなども開発されました」


ル「なるほど……とは思うんですけど。うーん。連邦ってジオンの何倍も戦力あったわけですよね?
  地上用の機体が開発されてても、それだけで勝てるもんでしょうか?」


セ「ふふ、今日のルーク君は鋭いですね。良かったシールをつけたくなるくらいです。
  そう、ジオンが初期の地球降下作戦で勝てたのは、MSや地上兵器の性能のせいではありません。
  “降下作戦”という戦略自体に理由があります」


ル「えっと、それはどういう?」


セ「連邦軍の基地を考えてみましょう。こうした軍事基地は当然、簡単に攻め込まれないように、
  多数の砲台や防護壁、地形などによって守りを固めています。
  ところが――宇宙から戦力を送り込むジオンの作戦では、この守りの内側、敵の懐の中へ
  いきなりMSなどを降下させるという方法を取ることができます。
  もしくは、山岳地帯などで通常は攻め込まれる心配のない基地の背後に降下させ、
  そちらから攻めるといった戦法も取られました」


ル「なるほど……地上でも、“奇襲”作戦で押していった、って感じですか」


セ「そうですね。重力下におけるジオンのこの発想は、この先も繰り返し何度か登場しますので、
  頭の片隅にとどめておくと良いかも知れません。
  ともあれ、戦いの舞台が地球上に移ってからも、しばらくはジオン側が優位でした。
  しかしその流れも時期に鈍り、ついに戦局は膠着状態に陥ってしまいます。
  ジオン側は元々兵力の面で限界があった上に、戦線が広がりすぎて補給路が伸びきってしまったのです。
  何と言っても、この時点でほぼ世界中が戦地と化していたのですから、無理もありません。
  また、宇宙においては、ザクII F型と呼ばれるタイプのものが多数配備されていました。
  核兵器の使用を南極条約で禁じられたので、対放射能装備などをオミットしたザクが新たに作られたのですね。
  ザクII の中でも最も多く生産されたタイプで、通常「ザク」と言えばこのタイプを指す、
  といわれるほどでした。このザクII F型を中心に宇宙でのイニシアチブは始終ジオン側が握り続けていましたが、
  それでも衛星軌道上にある連邦軍の基地、ルナツーを落とす事ができないまま、こちらも互いに手が出ない状態でした。
  そんな膠着状態のまま、ジオンと連邦、両者のにらみ合いが半年以上も続いていた――
  これが、“ガンダム神話”が始まる直前までの一年戦争の経過です」


ル「そして、待ってましたの真打登場ですね? 次回は」


セ「残念ながら。次回でRX−78の解説まで進むのは無理です」


ル「えぇ〜」


セ「まぁまぁ。楽しみは後に取っておくのも楽しいものですよ?
  次回は連邦軍のMS開発事情とV作戦について。機体はガンタンクガンキャノンを取り上げます。
  ガンダムについてはその次の週、丸ごと一回を使ってお話しする予定です」

                                                                                                                                                                                        • -


セ「というわけで、今回で一旦、ジオン側の話を切り上げ、
  連邦側の事情をしばらく語っていく事になります。
  特に、RX−7ガンダムの登場以降、急激に複雑になっていく
  MS開発史を追っていくためにも、前回・今回、そして次回出てくるような
  基礎的な用語の把握は不可欠です。心ある方は、復習をしておいて下さい」




  ★試験に出る(?)重要キーワード
南極条約
スペースノイド