★第四回 地球連邦軍MS事情とV作戦


セ「みなさんこんばんは、講師のセリーヌです」


ル「助手のルークです」


セ「今日は、連邦側のMS開発について話したいと思います」


ル「今回の話では、RX−78 ガンダムまでは行かないんでしたっけ?」


セ「ええ、その手前、RX−77 ガンキャノンまでを取り上げたいと思います。
  ガンダムが好きな方は、もう少し待ってくださいね。
  それでは、早速本論に入っていきましょう」

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セ「さて、一年戦争開戦の最初の一週間で、地球連邦軍は大敗を喫しました。
  特に、宇宙軍の主力艦隊がルウムで撃破されたことは、衝撃だったはずです。
  その後、レビル将軍の演説に力づけられ、連邦軍は戦争の続行を決意するのですが……
  この時点ではまだ、地球連邦軍の上層部は、自軍にはMSは必要ないだろうと考えていました」


ル「連邦の高官は頭が固いですしね」


セ「ふふ。よくそのように言われますが、MSに関するこの判断はある意味で妥当です。
  たとえば。今まで何十年も戦車に乗ってきたベテランの軍人さんに、明日からはこれに乗ってくれと
  MSを見せたら、一体なんて言われるでしょう?」


ル「う……。まぁ、嫌だって言われるかも、ですか」


セ「命令なら従うでしょうが、良い気持ちはしないでしょうね。
  それに、そうした熟練兵が持っていた戦車運用の経験・ノウハウなども死んでしまいます。
  さらに軍の組織構成も変えなければなりませんし、生産ラインも大幅に変わります。
  連邦軍の組織としての規模を考えれば、これだけの大変革は相当な手間です」


ル「む、確かに」


セ「おまけに、そうまでしてMSを導入したとしても、乗り込むパイロットはMSの扱いは素人同然。
  それに対して、ジオン側は開戦前から、教導団を組織し、パイロットたちのMS操縦訓練に勤めてきました。
  つまり、パイロットの技量もジオンの方が高い事が考えられます。
  さて、ルーク君。これだけのデメリットを考慮に入れて、
  なお連邦軍がMSを導入する必要性はあると思いますか?」


ル「う……ちょっと厳しい、ですか」


セ「そうですね、ジオンとの戦時下であることを考えれば、私も躊躇を覚えるところです。
  しかし、そうした中で、MS導入を熱心に説く人物がいました。
  その人物こそ、レビル将軍です。この時期、彼の発言は非常に大きい意味を持っていました。
  連邦軍の総大将としてルウム戦役を戦い、間近にMSの活躍を体験した人物ですし、
  一時はジオンの捕虜となり、その内情を見ても来ました。
  そして何より、『ジオンに兵無し』演説で連邦軍の戦意を取り戻した、精神的な支柱でもあります。
  その彼が、熱心に連邦の上層部を説き伏せたのです。来るべき決戦のために、MSは不可欠であると」


ル「ふうん……あの、ちなみにそのレビル将軍は、なんでMSが必要って主張したんでしょう?
  さっきあげたデメリットは、消えずにしっかりとあるわけですよね?」


セ「そうですね。理由はいくつか挙げられますが、最大のものはやはり、いずれやって来るだろう
  宇宙での決戦にどうしても必要だ、という主張だったのでしょう。
  地上での戦いは、現行兵器でもどうにかなるかも知れません。
  事実、後に行われる一年戦争最大の地上戦――オデッサ作戦においては、
  連邦軍はほぼMS無しで勝利を収めています。
  オデッサ作戦に参加した連邦側のMSは、ホワイトベース隊のものと、後方支援のための陸戦型GMが若干数のみ。
  主力はすべて、航空機と61式戦車、それを指揮するビッグトレーで構成されていましたからね。
  しかし、ジオン公国との戦いを終わらせるためには、いずれ宇宙での決戦を行い、勝たねばなりません。
  ルウムでの経験から、宇宙艦隊戦において、MS以外にジオンのザクを迎撃できる術はないと確信していたのでしょう」


ル「なるほど……」


セ「こうして、ようやく連邦軍のMS開発計画、“V作戦”が動き始めます。
  一応それ以前にも、ジオンのザクを鹵獲して連邦側が運用するケースはあったようですし、
  ザクを模倣した“ザニー”と呼ばれる試作機が作られたという説もありますが……
  連邦軍が本腰を入れてMS運用に乗り出したのは、V作戦が結実して後の事です。
  そして、実に開戦から9ヶ月、ようやくその試作機が形になったのでした。
  MS運用を前提とした新造艦ホワイトベース、そしてガンタンクガンキャノンガンダム


ル「ようやくその名を聞くことができました」


セ「ええ。
  まずは、RX−75 ガンタンク


ル「戦車もどき」


セ「手厳しいですね。確かに最大の利点である、二足歩行によるAMBAC機能や
  地上での進行方向の自由度、荒地踏破性などが犠牲になっているという点で、
  MSとしては不完全な機体でした。
  しかしこの機体も、戦車、自走砲としては優秀だったと考えられます。
  だからこそ後に量産されたわけですし」


ル「……ああ、そうか。そうですね」


セ「戦後も、MSではなくモビル・ビークルという扱いで、ガンタンクIIという機体が生産されています。
  これが、V作戦の遠距離支援機としての成果ですね」


ル「そして次が中距離支援機、RX−77 ガンキャノン


セ「はい、そうですね。
  この時点でようやく、足のついたMSが完成した事になります。
  これによって、キャタピラでは進めないような高低差の激しい地形の先へも、
  両肩のキャノン砲を運び、撃つことができます。これは支援機体として大きな意味を持ちます。
  さらに、このMSには画期的な装備がありました。さあ、何でしょう」


ル「画期的な……あ、わかった。ビームライフルですね」


セ「正解です。
  それまで、ビーム砲――メガ粒子砲と言います――を撃つのに必要な機器は大変大きくかさ張るため、
  戦艦の主砲などにしか使用することができませんでした。
  しかし、連邦軍側は“エネルギーCAP”という新技術を開発し、
  ジオンに先駆けてMSが携行可能な大きさのビーム砲を作る事に成功したのです。
  これがビームライフル。MSを一撃で破壊する事のできる、当時としては破格の威力を持った武器です」


ル「ガンキャノンの火力を大幅に引き上げた、わけですね?」


セ「そうですね。非常に強力な戦力になりえます。しかし……この二機だけでは、まだ足りなかったのです。
  何が足りなかったかと言えば……」


ル「ダム?」


セ「……残念ながら、ふくらはぎのくびれではありません。
  というか、元ネタ分かる人が少ないですからやめてくださいね?
  良いですか、ガンタンクガンキャノンだけでも火力としてはなかなかのものです。
  しかし当面の仮想敵であるザクとの戦いを考えた場合、この2機だけでは対応し切れない要素があります。
  すなわち、格闘戦です」


ル「チャンバラですか」


セ「ええ。全長20メートルを超える兵器同士がチャンバラをするなんて、
  それまでの常識に照らせばナンセンスでしかありませんでした。
  けれどMSが手足を持った人型のマシンであるせいか、実戦においては
  射撃だけでなくMS自身が格闘戦を演じる状況もままあったのです。
  ミノフスキー粒子によって有視界戦闘にならざるを得ない事も理由の一つでした。
  実際、相対速度を合わせなければ、下手をすれば激突の危険がある宙域戦闘ですら、
  ザクによる連邦戦艦への格闘は発生していたといいます。
  またそのため、ザクにはヒートホークという手斧状の格闘武器すら用意されていたのです。
  このザクを仮想敵にするなら、接近され格闘を挑まれた状況にも対応できるMSがなければなりません」


ル「そうすると、ガンタンクは構造上、近づかれたら絶望的なわけですね。
  ガンキャノンも……つらいわけですか。近接武器がないし」


セ「あったとしても、両肩のキャノン砲は格闘戦をするには邪魔になるでしょうね。
  そうしたわけで、白兵戦用のMSがV作戦の一環として作られることになりました。
  これこそが」


ル「ガンダム、ってわけですね」


セ「そういう事です。次回、丸々一回分を使って、このガンダムについて解説したいと思います」


ル「わかりました。楽しみにしています」

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セ「さて。この連載を始めるにあたって、事前にある程度ストックとして書き溜めた状態で
  始めたのですが、一身上の都合で非常に忙しく、そのストックも尽きてしまいました。
  今後、開催ペースが落ちるかと思いますので、ご了承のほどよろしくお願いします」



★試験に出る(?)キーワード
・V作戦
・エネルギーCAP
ビームライフル