役者のように?


 例えば、次にどんな文を書くかもう決まっていて、その先の展開もとりあえず問題ないくらいに固まっていて。もうキーボードを打って頭の中のフレーズを出力するだけなのに、なぜか先へ進めずにいることがある。
 少なくとも自分にはある。わりと頻繁に。


 何でかっていうと、頭の中にあるシナリオを文章にして出力するとき、書き手は小説内のすべての人物の心情を演じているのである。だから、そこに戸惑いとか問題とか気まずさとか、そういう心情部分があると、もう決まっているフレーズを書くのにとても重圧がかかるんである。


 だから、気持ちいいシーンは割りとすらすら書ける。クライマックスとか、登場人物の心情が救われて解放されるシーンなどは。
 逆の場合は、たった一行書くのすら膨大な体力を使って、へとへとになったりする。


 もっとも、すべての小説書きがそうだというわけではないだろう。そういう心情の段階は頭の中でシナリオを組むときに終わらせてしまって、書くときは本当に機械的に、言葉を選ぶだけでとんとん拍子に書ける人もいるんだろうと思う。一日に原稿用紙40枚とか50枚とか書ける人は。


 私は、感情に溺れながら、浸りながら書くタチだから、こうはいかない。遅筆のゆえん。
 まあ自分がそういう書き手であることを後悔したことはないけれど。とりあえず、自分用メモとして本日の雑考を書き残しておく。