煙か土か食い物

煙か土か食い物 (講談社文庫)

煙か土か食い物 (講談社文庫)


 これね、凄かった。
 文章の勢いが凄いし、話のカラーまであっちこっち飛んでてシンミリして良いのかハラハラして良いのかわからんし、プロット的に上手くないところもあるんだけど全部ストーリーと文章の勢いで突っ切っちゃって、無理やり傑作になっちゃったような感じ(どんなだ


 ……なんて書くと誤解を招きそうですが、これ、傑作です。
 それも文章だけが突出して良いってわけでもなくて、物語として全体的に面白い。
 ただなんていうかこう……家族ドラマとしてのしんみりした展開がちょっと続いて浸っていたらいきなり清々しいくらいの暴力シーンになったり、ミステリーとして売られた作品なんだろうけどもはや推理じゃなくて憶測に近いし、けどその憶測の部分こそが面白かったり、とにかく色んな面白さがちぐはぐに寄り集まってて、それを文体で強引にくくっちゃいました、的な印象はある。
 さらに言えば、それが欠点ってわけでもなくて。


 とにかくこれは、読んだ方が早い。私がくどくど説明してもしょうがない。
 面白さには折り紙をつけるので、是非にということで。
 多分、「マザファッカー」って単語だけで30回は出てくる、そんな乱暴極まりない小説です(笑)。けどそれが良い。


 しかしそれにしても、この小説の妙なリアリズムが面白くてしょうがないのですよ。
 ミステリー小説の登場人物なんていえば、ヘンテコで聞いたこともないような名前がずらっと並ぶもんですが。この小説の主人公兄弟は、上から「一郎、二郎、三郎、四郎」。ついさっきまで、連続主婦殴打事件についてミステリー的に考えを巡らせていたと思ったら、声かけられた兄弟と福井弁100%で所帯じみた、いかにも兄弟間っていう実感こもった会話がかわされたり。
 その辺のさじ加減が絶妙で、確かにこれは、文学的な手触りがちゃんと篭もってるのかも、と読んでいて思わされました。
 いや、文学的な手触りってどんなだ、って聞かれると上手く答えられないんですが(笑)。


 ともあれ、舞城は他の作品も読む事決定。久しぶりに講談社ノベルス買うか……。