フィクションの死、キャラクターの死


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 先日の話題を引きずりつつ、こんなログを拾ってきてまた考えてみたり。
 まあ、話題としては主要人物が人を殺すか、というよりは「主要人物を殺すか」の方にウェイトのある話ですが、いずれにせよ難しい問題で。


 とりあえず、こういう場で、さして新しくない『るろうに剣心』が例として挙がっているのを見る限り、先日話題にしたブログの方(アニメの製作に関わっている方のようでしたが)の慧眼が再認識されます。やっぱり、あの作品の影響って何だかんだで結構大きかったのかもしれない。


 主人公剣心が「不殺」を貫こうとしている、そういうテーマ性があるからこそ、主要人物の死にも重みがあったというのがリンク先のログで見られる多数派の意見のようですが(まあ、スレの抜粋記事なので、本当にそうなのかマジメに検証するなら元スレを見る必要があるでしょうけど)、細かに見てみれば、「死んだと見せかけて実は生きていた」という展開自体は『剣心』にも何度か出てきます。斉藤一と、それから神谷薫が代表例。細かいところでは京都編の翁とか(笑)。


 それでも、剣心の作中での「死」に関する扱い方、その評価が概ね肯定的なのは、何だかんだで「殺すべきシーンではきっちりキャラを殺しているから」なのだろうな、とは思うわけです。
 たとえば四乃森蒼紫に使えていた御庭番衆(ガトリングガンで蜂の巣)だったり、京都編エピローグで語られる佐渡島方治の死であったり、いわゆる追憶編での「殺していた頃の剣心」描写であったり。


 もしかしたら、この点が問題の核なのかも知れません。先日リンクしたブログでの和月=剣心論において、剣心とエヴァの共通点として「戦うことの拒否」「トラウマを背負っている」事が90年代的正義の表象であるという記述がありましたが。
 トラウマ、つまり「ショッキングな死」を描いた上で、それを踏まえて「ゆえに戦うことを可能な限り拒否する」というのが(ポジティヴにそうするかネガティヴにそうするかの違いがあるとはいえ)剣心と碇シンジの共通項であったわけです。


 つまり、「不殺」を描くということは、作中で「死を描かない」ことではない。
 むしろキャラの死をきっちり描いた上でなければ、90年代的正義を支えたと思しい「不殺」という信条は成立しない。


 この構図は、劣化不殺(笑)とも言うべきガンダムSEEDでも同じです。あの作品においてやたら沢山、大量殺戮兵器が出てきますけれど、あれが一応キラ・ヤマトたちの「不殺」を支えているという形になっているわけです。
 逆に、『08小隊』でシロー隊長が不殺を貫ききれず、アイナの「兄さんを殺す!」という結論に達したのは、上記「不殺」主人公たちに匹敵する「トラウマ」を持っていなかったからかも知れない。救えない話ですね(笑)。


 さて、以上を踏まえた上で、再度問うてみましょう。
 バトルもののエンタテインメントにおいて、主人公に敵キャラを殺させるかどうか。
 否――こう問い直すべきかもしれません。
「不殺は、いつまでエンタメ主人公たちの正義を支えていられるか」。


 剣心の「不殺」は、それなりに真摯なものとして受け入れられていました。けれど、ほぼ同じ構図を持っていながら「キラ・ヤマトの不殺」は一部の視聴者(それも主に高めの年齢層)から大ブーイングを受けました。
 作劇レベルが低かったからという、わりと致命的な理由もあるのですが(笑)。
 それより注目すべきが、「不殺」もやりすぎると、「穢れた(人を殺す)世界と、イノセントで穢れない(人を殺さない)私」という、不毛で鼻持ちならない対立関係になってしまう可能性があることです。特にあの作品は全体的に、「世界はすべて間違っている、私は正しい」という構図を作ってしまう傾向が強かった。そこで描かれる「不殺」もまた、非常に無邪気というか、安直であった。


 剣心は、人殺しとしての自分もちゃんと持っているし、どんなに平和な時でも「時々気を締めないと心が黒くなってくる」と述懐したりもしている。こうした細やかな描写が、上記ガンダムSEEDのような短絡な「私は人を殺さない、ゆえに私は正しい」という自己擁護の文法をぼやかしていました。


 けれど、不殺によって主人公の正当性を立てるという事自体は、多かれ少なかれガンダムSEEDと同じ行為です。
 また、90年代的テーマとしての「トラウマ」自体も現在やや主要モティーフから遠ざかっているように思える。
 不殺の主人公というのがいつまで読み手を納得させていけるか、2000年代の芸材において、どれだけ今という時代とうまく合致し続けていられるのか。
 主人公は人を殺した方が良いのか、どうなのか。


 まあ、引き続き考えていけたらな、とか思ってます。