闇の左手


 友人から借りたSF小説。早川書房から出てます。なんと、ISBNがついてません。とんでもなく昔の本。
 著者はル・グィン。SFにまるきり疎い私でもかろうじて聞いた事があるかな、ぐらいの作家さん。
 内容はといえば――これはいわゆる、「文化人類学SF」ってやつなんだろうか。我々地球の文明とはかなり違った生物学的・社会学的特長を持つ異星の人たちに、エクーメンという人類連合に参加するよう説得に行った使節の人の話。


 はじめのうちは、どういう状況でどういう人たちがどうなってるのか、てんでわからなかったのですが。というのも、この世界の基礎設定が明かされるのが結構後のほうで、また独特の専門用語が次々出てきたりするわけです。ディベートみたいな、政治的場面での会話の駆け引きのことを「シフグレソル」って言うらしいんだけれども、そういう説明なしにこのカタカナの難解な言葉だけがセリフの中にパラパラ出てきたり。
 他にも、主人公ゲンリー・アイが人類連合に加入するよう交渉に行った先、惑星ゲセンの人たちには通常の人類とは大きく異なる身体的特徴があるようだ、と序盤から匂わされてはいるんですが、それが具体的に何なのかが作中で明示されるのはかなり後のほうです。


 そんな感じでちょっとで出しのハードルは高いのですけれども、いざ世界観に入ってしまうと俄然面白くなってきます。政治的な策謀や陰謀、駆け引きなどによって、徐々に主人公の立場が危うくなってきて、やがて具体的な危機的状況に立たされていく展開もなかなかハラハラします。
 ところどころで出てくる箴言っぽい、奥深い会話のやりとりなんかも良い味を出してますし、本筋の話の間に、ゲセンという世界での神話や伝説、過去の記録なんかを間に挟む作風もアクセントになっています。


 スターウォーズみたいな、宇宙を舞台にした一大スペクタクルみたいなのとは程遠いのですけれども(笑)、かえってそういう方向ではない、この話の展開なんかを見ていると、なるほどSFというジャンルも懐の深い分野だったんだなと実感できたり。


 SF読んでみるのも面白いかもね、とか思ったりしたのでした。
 ――いや、このブログお読みの方なら察せられることと思いますが、こんなこと言いながら結局多忙を理由に読まなかったりするんですけどね、私の場合。
 けどまぁ、そんな風に思い立った日もあると、こうして日記に記すのは無駄ではないので。