スカイ・クロラ
- 作者: 森博嗣
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2004/10/01
- メディア: 文庫
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映画化されるらしいと聞いて、そういえば前から(というのはもう十年近く?)「私的機会があったら読んでみようリスト」に入っている作品だったのを思い出し、気まぐれに買ってみた。
とりあえず、本当に森作品はどれを読んでもテイストが変わらない。これは良い意味で。
クールでシニカルな視点と、まるで空気を吸って吐くように自然に湧き出てくる警句(アフォリズム)の群れ。こんな安定して「自分の文体」を持ってる作家なんて、そうそう居るものじゃない。しかもデビュー時からほぼ完成されてて、それから十年以上経った今でも現役第一線で作品発表し続けている。
以前に使った比喩をもう一度使うなら、森博嗣氏はどんな食材を使っても「自分流」の料理にできる。それは、独自の料理法を持っているからで、どんな食材でも自分流のオリジナルにできる、という。そういう「自分流」を持っているってのは、やっぱり羨ましいわけですが。
で、この作品は戦闘機乗りの話です。
といっても空戦がメインというよりは、パイロット同士の独特のやりとりや関係性、あと空気感を味わうのが眼目なのかなという感じ。
具体的に何なんだよ、って言われると困ってしまうのですけどね。要約しにくいというか、下手にかいつまんで書くと本質を損ないそうだというか。
けど、本来そうであるべき、な気も同時にするんですけどね。時々ですけど……小説というのは、簡単には言葉にできない微妙なニュアンスを表現するための器なんじゃないかと思うこともある。明文化できるメッセージよりも。
とりあえず、この作品内で語られている、自分は子供だという自覚の部分が、いまだに小説書きなんぞをやっている自分には妙に感じ入る部分があったというか(苦笑
あと、この作品の空戦描写がまた独特で、非常に面白かったです。
私は以前ガンダムの二次創作ファンサイトとかしていたわけですが、その中で、戦ってるパイロットさんたちはやっぱり「そこだぁぁぁぁぁ!」とか「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」とかヒートアップして言っていたわけです。
そういうもんだと思っていたんですが、この作品に登場するパイロットたちは違って。すごくクールでドライなんですね。
雲の中に逃げ込もうか、否、それはちょっと厳しい。届かないだろう。それに、そんな安全策の必要もない。逃げ込むと見せかけて、反転する方針に決定。
メータをチェック。エンジンは快調。
振り返って、じわじわと後ろにつこうとしている相手を確認。わざと振幅を抑えて後ろにつかせてやる。もう一機はまだ見えなかった。問題はそっちだ。上がってこないのは、何かダメージがあったせいかもしれない。
あと四秒で敵は撃つ。
一、二、三.
右に反転。
同時にラダーもいっぱいに切った。
スロットルを絞って、機速をコントロール。
ラダーを左右に振って、エア・ブレーキ。
向こうが撃ったようだった。
気の早い奴……。全然早い。
機首をこちらに向けられないじゃないか。
一機目はあと三秒で射程に入るだろう。
その間に、二機目をどれにするか、辺りを見回す。
ずっとこんな感じ。ものすごく淡々としている。
でもそれが逆に、すごくかっこいいわけです。「あと四秒で敵は撃つ」って断定とか、なんか凄いよね(笑)。
実際のパイロットって人たちも、案外こんな感じで戦ってるのかも知れないと思いながら読んでいました。敵にミサイル命中させて「イヤッホゥー!」とか言ってるのは、映画の中だけかもしれない。
言ってる奴もいるだろうけど(笑)。
ともかく、そうした描写も含めて、独特の緊迫感と空気感を持っているのが良い。これは続きも読もうと思いました。