かくてアダムの死を禁ず 夜想譚グリモアリス1
かくてアダムの死を禁ず―夜想譚グリモアリス〈1〉 (富士見ミステリー文庫)
- 作者: 海冬レイジ,松竜
- 出版社/メーカー: 富士見書房
- 発売日: 2007/03
- メディア: 文庫
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そもそもこの本を手に取ったのには経緯がありました。
まず書店の店頭で見かけて、私にしては珍しく表紙と口絵だけでうっかり転びそうになったんですね(笑)。私もオタク生活始めてそれなりの年月過ごしてますから(自慢にならねぇ)ゴスロリ絵も数多目にして来ましたが、これはちょっと破壊力がダンチ(死語)で。
けど、あらすじと中身をパラパラめくった段階で、とりあえず購入は見送ったわけです。何より、富士見ミステリー文庫ってレーベルにも警戒感があったし(ぇ)。
……大体、読書好きが複数集まると、一人くらいは「駄作を読んでネガティブな批評を語りまくることに喜びを感じるヤツ」「マイナーな作品を読んで、こんな誰も知らない作品読んでる俺スゲーしてるヤツ」がいるものですが、大学時代私が所属していたミステリサークルにもそういうやつが居て。彼がメインターゲットにしていたのが、ありし日の富士見ミステリー文庫だったのでした。
そんなわけで、結局購入は見送りました。
で、後日。MSTでの盟友K氏とライトノベルの挿絵の話になった時に、軽くこの作品の話題を振ってみたところ、この表紙のお嬢さんが彼の愛してやまない(笑)某キャラと酷似していたという事で盛り上がってしまい。
彼は即刻この作品を購入。で、読んでみたらけっこう面白かったという話だったので、私の方でも改めて手にとってみたのでした。
前置きが長くなりましたが。
とりあえず読了した感想としては、予想をかなり上回って面白かったです。
ちゃんと話の構造がしっかりしてるし、推理の過程や「主人公の頭の回転が速い」ところなんかも説得力を持って描けてるし。
文体はそこそこくらいで、ちょっと装飾過多かつ表現が月並みですが、まあ新本格以降のミステリでは装飾過多なんて珍しくもないし(笑)。気にならないレベル。読みやすいので悪くないかと。
何より面白かったのは、「ライトノベルの文法でミステリを書くとこうなるんだ」っていう部分でした。
容疑者の中から犯人を予測し、証拠を集めるという行為は普通のミステリと変わらないのですが、その同じ事をライトノベル的な異世界の住人と異能力と、ファンタジーな道具立てでやってしまう。それが新鮮でした。
ミステリにライトノベル的な文法を持ち込んだ人として真っ先に名前が挙がるのは西尾維新でしょうが、彼は文字通り「持ち込んだ」、もしくは「混ぜ込んだ」という感じ。
対してこの作品は、ライトノベルの文法によって基礎段階からミステリを組み上げた、という感じです。
西尾作品のような、ブームを作ってしまうほどの勢いはありませんが、その分非常に整った形で「ライトノベルの文法で組んだミステリ」を読ませてくれました。
まあ、最後の方に若干消化不良な部分があるんですが、そこは目を瞑れるレベル。
問題はむしろ、ミステリ小説としてはちょっと弱いかなという部分ですかね。事前にもう少し情報を開示して、境界条件を整えておかないと、読者が「推理に参加する」ところまで行かないかな、と。
メインで提示されている殺人事件について、もう少し伏線が張れればなぁ、というのが惜しかったところです。
これで気の利いたトリックでもあれば……と思ったけど、ミステリ小説でよく言われるトリックは……こんな超常現象がボカスカ起きる世界観ではやりにくいだろうなぁ(笑)。
といっても、これを手に取るほどの読者なら、その大半はアコニットさんの言動をニヤニヤしながら追うだけで最後まで読み通せるでしょう。実に模範的なツンデレでした。
あと、主人公の計算高さも嫌いじゃない……むしろ好きかも。
そんな感じで。面白かったので多分続きも読むと思います。
これ、どうせなら新本格時代にミステリやってた人(今、暇してる人けっこう居るんじゃないかなぁ)をオブザーバーに据えて、キャラクターをこれで作品作ったら、かなり面白いものになりそうな気がします。そんな夢想も添えて。