自己組織化とは何か


自己組織化とは何か―生物の形やリズムが生まれる原理を探る (ブルーバックス)

自己組織化とは何か―生物の形やリズムが生まれる原理を探る (ブルーバックス)


 定期的に、「複雑系」絡みの本を読みたくなるわけですが。
 その一環で手に取ったのがこの本でした。


 といっても、読み始めて三分の一くらいで、少し後悔しはじめたんですけどね。講談社ブルーバックスを読んだのはこれが最初か二度目かくらいですが、ちょっと内容が専門的すぎた。知らない化学物質の名前などがわりと説明なくバリバリ出てくるんで、素人が読むと6割くらい、場合によってはそれ以上が右から左へ流れ去ります。
 デンドリマーという自己組織化能をもった高分子が開発されたんだって。へー。で、それって何が凄いの?(ぇ


 それでも、基本的な理論、その分かる範囲の部分を読めば、記述が明快であることはわかります。そういう部分は非常に気持ちよく読み進めました。
 基本的に、自然界のモノは、崩れて散らばって、ランダムな混沌とした状態の方へと推移していく。砂で作った城は放っておけば崩れる、逆に組みあがる事はない。これをエントロピー増大の法則と言う、と(エントロピーはランダムさを表す目安)。
 ところが、例外として、自然界の中で勝手に秩序が組みあがってくる場合もあって。それを自己組織化と言う、と。たとえば雪の結晶や、我々人間なんかもそうであると。エントロピー増大の法則と逆行してるわけですね。
 ……という部分にも、色々と注釈はあるんですが、まあ割愛で(ぇ


 また、この本の後半で複雑系についても改めて説明されています。M・M・ワールドロップの『複雑系』を夢中になって読んだ身としては目新しい部分はないんですが、それでも改めて簡潔に説明されて、「ああ、そういえばこんな事象を指す言葉だったんだ」というのを改めて捉えなおせて、かえって新鮮でした。


 要素への分割が、異なる階層の現象を理解する上で無力であるということは、たとえば、ヒトをその構成要素に分割してみれば納得できる。ヒトが数多くの原子や分子でできているのは間違いないが、構成要素であるそれらの分子や原子に分割し、その性質を完全に理解しても、ヒトという生き物を理解するには情報が足りない。それに、私たちを構成している物質は新陳代謝によって常に入れ替わっているにもかかわらず、自我は単一であり、同一性を保ち続けているという問題がある。


 たとえば、脳細胞についても、その細胞一つ一つがどういう形でどんな機能を持っているかはあらかた分かってるわけで。けれど、それらが組み合わさると、意識や創造など未だに科学が踏み込めないような領域が現れてくる。
 「1+1」の答えは10でも100でもあり得て、でもだからって個別の「1」を取り出してきていくら調べても、答えが10や100になる理由は分からない。全体は個の総和よりも大きい。これが複雑系の基本的な認識だったのでした。


 この『自己組織化とは何か』という本が出たのは1999年ですが、この複雑系の認識については、まだ古くなっていない――むしろこれから重要になってくるんじゃないかという気持ちをずっと持っています。
 ……ずっと持ったまま十年近く過ごしているんですが(ぇ
 まあ結局は好みの問題でもあるんですけどね。私にとって、個別に分けて分けて分析していくようなやり方がイマイチ息苦しく感じる面があって。最初に全体があって、それをどんどん細かく分けていくトップダウン式じゃなくて、最初に個々があって、それらが影響し合いながら全体を為していくボトムアップ式の見方が良い。そういうのが好きw
 だからまぁ、複雑系関係の本を定期的に読むのは、そんな私のある種の息抜きみたいなものなのでした。