Fate/Zero 4巻


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 というわけで、いよいよ完結した『Fate/Zero』の4巻です。
 読み終えて最初の感想は、おそらく、他の皆さんと同じかなと思います。


 なんというバッドエンド。


 もう本当に、素晴らしいバッドエンドの連続でした。この、報われない結末、重い結末のために、これだけの分量の物語を作者は書いたというのです。


 3巻までの感想で、「この作品が商業流通に乗ってないっておかしいだろ」的な事を書きましたが、うん、撤回しようと思います。これは商業で出そうと思ったら、企画通らないかも。これほど誰も救われない物語、エンタテインメントとして出版すると言ったら、並みの出版社ならしり込みしてしまうかもしれません。
 著者、虚淵玄氏のあとがきを読みながら、そんな事を思いました。
 ていうか、このあとがきはカッコ良すぎると思った。4冊にわたって、これだけのものを書いた奴だからこそ言ってカッコがつくことです。
 とにかく、Fateの派生作品としては至高の出来である本作があって、その本作の作者であるプロのシナリオライターが、これは商業作品としては決して成立しなかった、ってコメントしているわけで。
 そこに複雑な心境を覚えるとともに、この氏のようなスピリットがあるからこそ、現在同人界隈がこれだけ勢いを持ってるんだろうな、と思いました。
 ……いやまあ、8割以上はエロ目的であるにもせよ。


 なんかいきなり脇道にそれてしまいましたが。
 とにかく完成度が高い。ものすごく完成度の高い、それは救われなさの部分でも完成度が非常に高いという、そういう物語でした。
 いやもちろん、完全に、っていうわけでもないんですけどね。ウェイバー・イスカンダル組とかは、この激戦の中でも彼ららしい清々しさを残して退場して行ったんですが。
 イスカンダルはね、良かったです。ここ最近、フィクションで出会った男性キャラの中では、ぶっちぎりで好きになれたキャラでした。
 そして、そのイスカンダルを相手にした、アーチャーことギルガメッシュも。
 なんというか、ゲーム本編のギル様といえば、慢心王、さらに某所では「油断王」とまで呼ばれていた、いつでも余裕綽綽の、負ける時も余裕出しすぎて負けるばかりというキャラでしたが(笑)。
 そのギル様が、本気になったという、それだけで燃えました。言ってみれば、奈須きのこは、そしてFate本編のキャラはとうとう、一度としてギル様を本気にできなかったとも言えるわけですよ。それが、この外伝作品でついに本気を見せた。作者は、その本気を引き出す、引き出してもおかしくないキャラを作ってぶつけるという仕事をきっちりやってのけたわけで。
 これだけでも、凄いとしか言いようがない。


 そして、徹底的に、それはもう徹底的に行われたセイバーいじめ(笑)。
 バーサーカーの真名は、まぁおぼろげに予想した通りでした。もう本当に、方針が徹底してるよなぁ、っていう感じ。セイバーをいじめようという(ぇ
 ただ、何となく、このセイバーに関してのみ、『Fate/Zero』を読んでいて微妙な違和感を感じたのでした。特に、対ライダー戦の部分を読んでて思ったんですが……セイバーがなんか、男の子っぽくなっちゃってるんですよね。多分、作者暴走の顛末であろう、なんかものすっげぇ改造バイクでの戦闘で筆が走っちゃったんだと思うんですが(笑)、あそこのセイバーは何か、完全に男の子だった気がします。無論、設定的にセイバーは男を演じてきたキャラではあるんですが、ゲーム本編のセイバーって、ここまで男の子的な感じ方はしてなかった気がするんで。「――いいだろう、燃え尽きるまで駆ってやる!」とかね、なんか言いそうにない。
 まぁ、このシーン自体は好きなんですけどね。この「やり過ぎ」感は嫌いじゃないんですがw


 衛宮切嗣の結末については、まあ本編からでもある程度類推はつくので、意外というほどの展開はありませんでしたが。むしろ、一切の妥協、日和なしにこの結末を描ききっただけで、もう凄い。
 4巻冒頭のインタールードも含めてね、やっぱりこの徹底ぶりには圧倒されます。


 そして、4巻に入るや否や、ものすごく活き活きし始める言峰さん。もう水を得た魚とばかりに。
 まあそれは物語の構成的にはある程度必然で、実は4巻での言峰の言動や心情などは、微妙にキャスターとかぶります。キャスター退場後に本格的に動き始めるのは、そのせいもあるんだろうね。
 結局最終的な勝利者は言峰だった、という感じになるんでしょうか。唯一、この第4次聖杯戦争で何かを掴んだ男なんだし。
 とりあえず最後、エピローグでの遠坂凛とのやり取りが最高過ぎました。鬼だ。最低だ(褒め言葉?


 そんなわけで、よくもまぁってくらい救えない話だったんですが。
 そうであればこそ……なんか久しぶりにFateの本編をやりたくなったんですよね。強烈に。他でもない、このFate/ZeroFate本編に接続されて始めて完結する話ですから。
 遠坂凛と言峰の会話とか、セイバーと士郎の会話とか、士郎と言峰の会話とか、今読み直せばもっと深い感興が得られるだろうし、是非再読したいなという思いがひしひしと。
 といっても……あんな長いの、早々読み返せないけどなぁ。
 一応、他にもやりたい事たくさんあるという強迫観念で日々過ごしてる人なんで、なかなか「もう一度あれを最初から」という決断に踏み切れません。
 ……ま、これで中古のレアルタ・ヌアとかを、未来の私が買ってたりしたら、その時は笑ってやってくださいませ。


 とりあえず総評としてもう一回、声を大にして言いますね。


 これは大傑作。あらゆる意味で、大傑作だと思います。
 Fateの原作ゲームが好きな人で、この作品を読まないって選択肢は無いと思え。ってそれくらい凄い作品だと思いました。