円環少女1


円環少女 (角川スニーカー文庫)

円環少女 (角川スニーカー文庫)


 帯に書かれた世界観設定になんとなく惹かれて、なんとなく購入。


 とりあえず全体の1割くらい読み進めたところで、なんというか、暴言を承知で言えば「かったるい事してんなぁ」という印象。
 どこがと言えば、んー、この作品の基本的なルール、魔法の仕組みとかがけっこう入り組んでおり、しかもそれを戦闘中に、バトりながら説明しつつお話が進行していて、何かやたら忙しく色々説明してるんだけどテンポはイマイチ、という。
 そして、その印象は結局最後まで。


 いや、プロットとか、世界観作りそのものは凄くレベル高いんだと思うのです。設定そのものも魅力的だと思うし、拮抗するいくつかの組織の関係性とか位置づけとかも面白いし。魔法を使える人たちの住む魔法世界と、現実世界との関係性も独創的で良い。
 風呂敷の広げ方も結構好きだし。
 また、ストーリーも捻りが聞いてて、伏線なんかもけっこう頑張って張っており。エンタメ小説としてすごく頑張ってると思うのです。


 思うんだけど、でも技術が伴ってないなぁと思えてしまうのが。
 この手の、設定に凝る作者にありがちな、とにかく書きすぎてしまう病が出てしまってて、そこが惜しいんだよなぁ、と。
 キャラクターの感情もすごく走ってて良いんですが、でもその感情も全部逐一説明してしまう。


 あれです、橋田壽賀子ドラマのセリフみたいで(笑)、「私は今こういう状態で、過去にああいう事があったから今はこういう気持ちになってて、だからあんたにはこうして欲しいと思ってるの!」ってな感じで、とにかく全部地の文で説明しちゃう。
 けど、そんな風に全部説明しちゃうと、読者の中に余韻が生まれないんですな。


 物語のキャラクターの感情というのは、風鈴みたいなものです。
 風鈴を、指でがっちり押さえてたら、風が吹いても良い音は鳴りません。カラカラ、みたいな乾いた音が鳴るだけ。
 庇から紐で吊り下げて、風鈴自身が自由に振動できる状態にしてあるからこそ、風が吹いた時に音が響くわけですよ。
 キャラクターの感情も同じで、作者は風の方向だけ与えてやれば良いんですよね。そしてキャラクターはただ行動すると。上手く良い音が響けば、説明するよりも鮮やかに読者の中にもその感情が伝達される。


 ……なんて偉そうに言ってますが、私も友人に、自分の書いた小説を読ませるとまったく同じアドバイスが返ってくるわけで、全然人の事言えないわけですけど。
 ついつい説明的に、筆が走ってしまうもので、それをセーブして書くのはなかなか難しいもんなんですが。
 けど、その辺の呼吸が上手くいけば、これ、かなりの傑作になれたと思うんですよね。
 本当に、設定やキャラの作りこみ具合から作者が費やしたエネルギーが感じられるだけに、文章だけが惜しいなぁと。
 そんな風に思ってしまいました。


 というわけで。私は残念ながら次は手に取らないかと思います。けど、設定フェチの読者さんがいたら、一度手に取って世界観に浸ってみるのは悪くないと思いますよ?
 そんな感じ。