数学ガール


数学ガール (数学ガールシリーズ 1)

数学ガール (数学ガールシリーズ 1)

数学ガール/フェルマーの最終定理 (数学ガールシリーズ 2)

数学ガール/フェルマーの最終定理 (数学ガールシリーズ 2)


 小説形式の数学読み物。最近コミック化もされたり、地味に人気。
 とりあえず著者は生粋のオタクと見た。それもかなりクンフー積んでるね。
「ほめらりるのは照れるにゃあ」とか言う妹系ポニーテール娘を作中に出しておいて、私はカタギですなどと言っても通用すると思うなよ?(何


 で、内容ですけれど、非常に楽しみましたよ。
 上記のようにまるでオタク向け純愛ものの青春小説みたいな物語が展開されるものの、一方で扱われる数学のネタはめちゃくちゃ硬派。バーゼル問題やフェルマーの最終定理などを、けっこう容赦なく扱っていきます。
 そこらの数学入門書に比べてかなり本格的な、難しい部分にまで踏み込んでいるんですけれども、しかしだからこそ数学苦手な人に読んで欲しいな、と思います。変に「やさしく書こう」として作られた入門書よりも、この本で数学に触れる方が絶対良い。


 ちょっと難しい内容の本(学問分野)にトライする時、一番大切な事は何だかわかりますか?
 それは、たとえチンプンカンプンでも、最後まで読了する、という事です。
 難しすぎて内容が頭に入らなくとも、最後まで読みとおす事で得るものはあるんですね。おぼろげにアウトラインが分かるとか、どんな風にテーマにアプローチするとどういう結果になるかとか、分からないなりに次につながるものがきちんと自分の中に残るんです。
 けど、それでも無機質な学術論文を、分からないのに読み進めるのは、やっぱりちょっとツライですよね。
 そこで小説形式である事が生きてくるんですよ。数学の方は正直分からない部分も多々あるけれど、物語の方がどうなるか興味をひかれる事で、そんなに我慢強くなくても最後まで行ける。
 そして最後まで行った時に、多分ちょっとだけ、数学のことが前より分かるようになる。


 また、登場人物たちがみんな、数学を「楽しそうに」やっているのも大事です。
 実学はまた別でしょうけど、やっぱり学問を人にすすめるのに、「役に立つから」だけじゃ限度があるんですよね。「ほら、こうやってやると楽しいんだよ」って、自分が楽しんで見せなきゃね。


 実際私は、この本でやっと、代数学の面白さっていうのが少しわかった気がしました。
 幾何学の楽しさは前からそれなりに知ってたんですよ。中学時代の幾何の先生が変な人で、無言でひたすら幾何学の証明を板書しまくるという、教室にチョークで文字を書く音だけがひたすら響くという謎の授業で(笑)。しかも丸1時間使って必死に板書を写したのに、結局「このやり方では、目的の定理を証明するのに少し材料が足りないようだ。来週は別なアプローチを試す」とかいってその日の授業はおしまい、とか。え、じゃあノートに必死に写した俺の労力は? みたいな(笑)。
 けどそうやって、証明できなかったアプローチも含めていろいろ試行錯誤をしてみせてくれる中で、教科書通りの授業とは違う、「幾何ってこんな風に進んでいくものなんだ」という実感をつかむ事ができました。
 一番最初は点の定義と、直線、線分の定義しかないんです。そこから段々と、確実に言える事を積み重ねていって、「ピタゴラスの定理」「中点連結定理」などが正しい事を、ちょっとずつ確かめながら進んでいく。楽しかったですね。
 けどそれに比べて、代数学の楽しさっていうのはピンと来なかった。ただ問題を解いてるだけでしたから。単なる作業なのかと思ってた。


 そのイメージを、この本は塗り替えてくれました。
 代数も同じように、アタックしたい問題に対して、式を組み立て、式の両辺を整理したり次数を整えたりしながら、いろいろ試行錯誤しつつ「確実に言えること」を積み重ねて問題にアプローチしていく、すごくエキサイティングな思考の遊戯だったんだな、と。
 中学高校時代に習った、因数分解とかそういうテクニックが、そこではゲームのキーアイテムみたいに、強力でたのもしい武器だと感じられるんです。これは楽しいですよ。ただ機械的に解かされてただけの「和と差の積は二乗の差【(a−b)(a+b)=a^2−b^2】」の公式が、こんなに心強い僕らの味方だったなんて(笑)。



 こうした学問を、オタクコンテンツめいた美少女ものの話と組み合わせる事について、嫌悪感を感じる人もいるかも知れません。特にコミック版とかね。学問はもっと神聖で荘厳なものなんだと言う人もいるかも。
 けど私は、その本質さえ捉えられるなら、漫画だろうがアニメだろうが美少女ゲームだろうが、手段が何だって構わないと思うんですよ。その楽しさが伝わるなら何だって。
 むしろ学問全般に対する変なプライド、矜持が、かえって学問の敷居を上げて幅を狭めてるようにも思う。せっかくこんな楽しいんだからさ、その「楽しさ」をもっと広く伝えていったって良いと思うんだな。理系離れとか問題になってるんだしさ。


 そういう意味でも、この本、もっと多くの人に読まれれば良いなと思います。
 眉間にシワ寄せて、難しい顔でやるだけが学問じゃないのですよ、多分。