ブラック・ラグーン シェイターネ・バーディ


ブラック・ラグーン シェイターネ・バーディ (ガガガ文庫)

ブラック・ラグーン シェイターネ・バーディ (ガガガ文庫)


 個人的に、久しぶりにハマったコミック作品のノベライズ、しかも作者が『Fate/zero』の虚淵玄とくれば、まあとりあえず手には取るわけです。
 大体、『Fate/zero』に関しては、私はこの読書感想ブログをもう3年以上つけてるわけですけど、その中でも多分一番ベタ褒めした作品です。とにかくアラが見つからない、短所らしい短所が見当たらないという信じられない読後感を経験したのでした。そんな著者の作品となれば、まあ当然押さえざるをえない。


 で、購入してさっそく読んでみたわけですが……。


 とりあえず最初に、ちょっとしたセリフ回しに違和感を感じる。特に序盤で気になったのはダッチのセリフで。
 まあこの辺は、ある程度は仕方ない面もあります。『ブラックラグーン』のキャラたちのセリフ回しというのは、とにかく英語の言い回し(特にスラング)に通じていないと再現できません。
 原作コミックの日本編などからの予測ですが、多分作者は、各キャラのセリフを最初に英語で作ってるんじゃないかな? という気がします。で、それを日本語訳しているような感じ。登場人物のセリフのニュアンスが独特なのは、多分そのせいな気がします。
 従って、そうした素養がないと、この作品のノベライズというのはかなり困難になる。私がこの小説版を読んで最初に引っかかったのは、そこでした。


 まあしかし、セリフ回しの違和感だけなら、これは看過できるレベルなのですけれども。読み進めるうちに、それだけじゃなくて、なんか全体的に「違うんだよなぁ」という気分が高まって来るわけです。
 ……ていうかまあ、忍者と海賊出てきた時点でお腹いっぱいなんですけど。原作もメイドさんがスカートから手榴弾バラまくような突拍子もない話ですが、一応「シリアスですよ」と強弁できるような背後設定はある。ところがこの忍者ときたら、シェンホワと互角以上の腕なのに、蓋をあけてみたらギャグなわけです。
 最後の方で、忍者の応対をする張さんの楽しそうなノリノリっぷりといい、まあ要するに著者の悪ノリなんですけれども。とにかく原作の空気にそぐわない感じで、『Fate/zero』であれだけ巧みな事をやった人が、なんでこうなんだ? と疑問に思いながら読んだというのが正直な感想。



 ……で。
 私のその疑問は、巻末の対談で解消しました。


虚淵玄さんに執筆を快諾していただきノベライズが実現しましたよ。もう「ブラック・ラグーン」の世界観にケンカを売るつもりでお願いします! あの虚淵ワールドを展開して、とにかくひどいものを書いてください(笑)。俺は、虚淵さんの中の悪魔がみたいんだよ!」
                                                               ――広江礼威

 ……何の事はない、原作者の発注の時点で「ひどいものを書いてください」だったというw
 なるほど、それなら納得です。確かにこれは「ひどいもの」だ(ぇ 虚淵氏は発注通りのものを確かに書いてる。うむ。


 無論、だからって、この巻末対談によってこの作品が傑作になるわけじゃありません。私の基本的なスタンスとして、「物語の舞台裏、裏事情を知らないと楽しめないような作品は三流」という、作品を批評する際の基準があります。
 原作の雰囲気から逸脱した「虚淵流」をやるのは無論構わないのですが、それなら物語の早い段階で、読者にそういうサインを送らなきゃ。読者がそこで切り替えができずに、「原作の世界観との差異」にばかり気を取られていれば、この話は結局あまり楽しめなくなってしまうわけですから。


 あと、その辺で好き勝手やってる割りに、たとえばバラライカの過去とか、ホテル・モスクワと三合会との過去の抗争についてとか、その辺の結構突っ込んだ話が出てくるのもちょっと。そういうのは原作の方で見たかったな、という情報がチラホラあったのも気になりました。ノベライズをする側としては、その辺の美味しいところは原作者に残しておいた方が良いんじゃないの? という気分もあり。


 そういう意味で、結局最後まで、すっきりしない読後感でした。
 良いところ、面白かったところ、印象に残ったシーンも結構あったんですけどね。ジェイクとレヴィの最後の対決は良かったと思うし。バラライカとスタン絡みのエピソードは全体的に味わい深くて好きですし。
 ブラックラグーンの話の構造的に、ロックが役に立ってないのはいただけませんけど。どいつもこいつも物騒な武器を振り回す中で、非力なロックが事態に絡み、事態を動かすというのがこの世界観の肝ですからね。平和な日本で暮らす読者・日本人の感覚の代弁者でもあるし。


 そんなところで。
 結論としては、まあ、「値段分は楽しめたかな?」くらいでした。次があったら、もうちょっと原作世界観とがっぷり四つに組むような、骨太なやつを期待、という感じ。虚淵氏なら多分できるはずなんだよなあ……。


   追記。
 この記事書き終えた後、試しにネット上でこの作品の感想見て回ったら、みんな「違和感ない」とベタ褒めしてた。
 ……え、あれ? 私のブラクラ理解ってどっかズレてる!?


   さらに追記。
 結局、私の場合他の読者さんより、背景設定に重きを置いてるのかな、という感じなのかも知れない。
 たとえばロベルタにしても、彼女が一級の戦闘技術を持っているにも関わらず、メイド姿をしているのには一応、リアリズムに基づいた理由がある。
 逆を言えば、連合赤軍のオッサンを出したり何だり、シリアスで社会派な道具立てで話を組んでいるにも関わらず、結果としてメイドさんがガンガン銃をぶっ放したりというぶっ飛んだ結果が出てくる、そのアクロバットが私にとって面白いのかな。
 そういう認識なので、この小説の方のNINJAの如きトンデモが第一線に出てくるのは私にとって違和感なのでした。


 その辺の細かいところは頓着せず、ダイレクトにアクション・銃撃戦を楽しんでいる人にとっては、違和感ない、って事にもなるのかなぁ。


 ……とはいえ、本当に違和感なかったのか、まだ釈然としないものが私の中に残らなくもない。え、みんな的に、タンゴ三兄弟はアリなわけ?(笑)