文学少女と飢え渇く幽霊


”文学少女”と飢え渇く幽霊 (ファミ通文庫)

”文学少女”と飢え渇く幽霊 (ファミ通文庫)


 気まぐれに続きを読んでみたり。
 前の巻を読んだ時には、それはそれは理屈っぽくてかったるい感想を長々書いたわけですが、今回は普通に(笑)。


 とりあえず今回も、微妙に鬱々とした雰囲気とテーマで進むお話でした。そもそも主人公の鬱屈が最初から提示されてるわけだし。遠子先輩だけが作品の空気を和らげるのに孤軍奮闘してる感じですね。
 ……ああ、もう一人いた。琴吹ななせさんね。今日日こんなど真ん中ストレートなツンデレさん、そうそう居るもんじゃないですよ。まるで模範演技ですね。素晴らしい(何


 けど、けっこう鬱々としたテーマを扱ってるんですけど、読み味がそこまで重くなってないのは、この作品の独特の空気感ですねぇ。前の巻のラストでも強烈に感じた事ですが、基本的にこの作者さんは、人を慰めたり癒したり励ましたりするのに、明確な言葉よりもその人の存在自体の方が時に効果があったりするんだというのをすごく丁寧に描いてるなぁ、と。
 こういう小説ってえてして、セリフによって相手の悩みを直接解決するような言葉を投げかけようとしたり、明確なメッセージにしたりという事をしがちなんですけれども。じゃあ現実に落ち込んでる友人とかに、そんなかっこ良くて的確な励ましの言葉がかけられるかといったら、早々そんな事もなくて。むしろ、ピントのずれた、全然関係ない言葉とかに何気なく気持ちをほぐしてもらえたりとか、したりします。
 この作者さんには、どこか一貫してそういうところを描こうという意志を感じるような気がします。
 そういうこだわりが、作品全体を逆にシャープなものにしてる面もあるような。


 それから、遠子先輩が、作中に出てくる文学作品について逐一、その味をお菓子に例えて嬉しそうに話すのがこのシリーズの名物なわけですが、それらを色々読んでいるうちに、実はこれってけっこう、スマートな作品感想の述べ方なんじゃないかと思うようになりました。
 正直私自身、こうして作品の出来を評したり、作者の思惑を類推したり、あるいはキャラや場面の好き嫌いを書き留めたりしていても、そんなに上手い感想を書けたようには全然思えなくて。
 そうした書き方では全然掬えていないような、まさにその本を読んでいる時の感興っていうのはあるわけですよ。なんとなくほんのり楽しかったり、息苦しかったりとか。
 なかなか明文化できない、そういう漠然とした作品の感じを、食べ物の味に例えて表現するっていうのは、遠まわりだけれど案外スマートなのかも知れないなと。
 ……まぁそうは言っても、ではこの作品を食べ物にたとえてみようとすると、苦味が多すぎてとてもスィーツにならなそうなんですけれども(笑)。やりきれないビターさの強いこと。


 結末まで読んで、久しぶりにプロットの重厚さにやられた気がしました。名作文学の換骨奪胎である事を差し引いても、これはなかなかレベル高いなぁと。
 ごてごてとギミックで飾り立てなくても、本当は生の人間見てるだけで十分面白いんだよね。ライトノベル畑にいると、ついそういう事を忘れそうになりますが。


 どうでも良いけど、ライトノベル畑ってライ麦畑に似てるね(何


 そんな感じ。