社会を読み解く数学


社会を読み解く数学

社会を読み解く数学


 時々気まぐれにこういうのを読みたくなる。特に脈絡はない。


 社会学系の数学の初歩の初歩といった感じの入門書。ゲーム理論とかその辺。
 語り口なども含めて非常に平易に努めて書かれているので、特に引っかかる事もなく読み終えました。この手の話題に興味がある人の最初の一歩としては悪くないと思います。
 しかし逆に、ある程度その辺の話に心得がある人には、あまり向かないかも。


 私はと言えば、まあ社会学系の話がそんなに詳しいわけでもないので、そこそこ楽しく読みました。まぁ、もう少しギアを上げてくれてもついていけたかも、ってくらい。


 民主主義の話にからなで、「パレート最適」という考えが説明されます。現在行われているやり方Aから、別のやり方Bに方針を変えたとして。それですべての参加者が改編前より後の方が得をした、不満のない状態ならOK。しかしそうではなく、たとえ一人でも改編後の方が損をした、不満が生ずる状態なら、それを一つの最適状態だと見なして、現状のやり方Aを「パレート最適」な状態であるというのだそうで。
 しかし、まあこれは社会学上のモデルだから良いんでしょうが、現実にこんなの適応したら恐らくよほど間抜けで酷い政策でも「パレート最適」になるよなぁと思ったりしました。どんなアホな政策の下でだって、やり方を変えられたらその方が損をする、という関係者はいくらかはいるものですし。
 たとえば今の北朝鮮にしても、やり方を変えようとすれば少なくとも将軍様は、そしてその周囲の高官なども損をするでしょう。従って現在の北朝鮮だって「パレート最適」なわけで……あくまで学問上のモデルケースではあるにせよ、なんか釈然としません(笑)。



 で、この本で一番印象に残ったというか、「へぇ」と思ったのは細かなTIPSで。
 たとえば、内閣の支持率などを調べる世論調査ですが、かつてはこれを面接方式、もしくは郵送方式で実施していたそうで。しかし選挙制度小選挙区を導入すると、マスコミ側の負担が倍近くに増え、その結果、調査方式を電話調査に変えたと。電話帳からランダムに電話をかけて、そこで質問をする形式ですね。
 しかし、そもそも日本国民の中で電話帳に電話番号を載せている層というのに偏りはないのかと。で、調べてみると、面接方式や郵送方式と、電話方式とでは、算出された内閣支持率になんと平均10パーセントの差が表れていたというのです。
 これだけの差が出るにも関わらず、マスコミ側がこういった事情を説明していないのは説明責任を果たしていないのではないか、とこの本の著者は言うのでした。


 なにげにこういうのが一番怖いのですよねぇ。メディアリテラシーって、どちらかというとインターネット(で流れる情報の正確性)に付随して言われる事が多い気がしますが、異論反論や間違った情報が混在しているのが目に見えるネットよりも、実はこういう新聞やテレビなどのある程度権威あるメディアによる情報の偏りの方が怖いなぁ、と思ったりします。
 ……まぁ、無論こうした私の見解にも異論はありましょうが。



 ともあれ、普段自明と思いがちな、社会の色々なことに関心を向けるのには良い本です。気が向いたら読んでみるのも一興かも。