鉄の文明



 神田古本市で買った本。カラー写真に魅かれて買ってみたのだけれど、よくよく確認してみたら発行は1983年。私がまだ生まれて間もないころの本でした。まだ日本がアジアで唯一の先進国だったころ、追われる心配すらしないで済んでいた頃だった事があとがきの口ぶりから察せられます(笑)。


 内容は、鉄器文化の黎明から現代までを、特に製鉄の方法を中心に写真多数で書いたもので、堅実ですが非常に興味深い内容でした。基本はヨーロッパの製鉄法を、現地にある遺跡などを見せながら説明していくものですが、日本の製鉄についても若干言及はあります。
 とりあえず、高炉の仕組みや、その理由などを押さえたという事で。
 あと製鉄が行われていたような場所であるにも関わらず、その現地写真の美しいこと、やはりヨーロッパの自然って豊かですごいなぁというか。なんというか。


 総体としてはそんなところですが。細かいところで、日本のたたら製鉄が独自に発展をしようとした時に、徳川吉宗が新規法度、つまり新技術の開発を禁止するような禁令を出していたんですね。これは知らなった。吉宗って開明的な将軍というイメージがあったんですが、やっぱり新技術が発展しすぎると徳川の幕藩体制が揺らぐ原因になりえるから、そうせざるを得なかったのかな。
 そうした動きのせいで、日本の技術者たちは新技術の開発よりも、今ある技術レベルの中でより繊細で完成度の高いものを作る事を目指す=職人化していったんではないかというのも、なるほどという感じです。


 それでも彼らは鋳鉄の原理はちゃんと知っていたし、だから明治時代になって新技術が必要になった時、その仕組みを紹介した本を読んだだけで、日本人の技術者だけで反射炉や高炉を建ててしまったという。そりゃすげぇ。


 まぁそんなわけで。
 「鉄」については、やはり日本の歴史はもちろん、信仰や民俗伝承などにも影響してますし、また我が敬愛する宗像教授の生涯研究テーマでもあるし(笑)、たたら製鉄などの事を含め、もうちょっと勉強して見てもいいかなと思ったりします。
 そんな感じで。