聖徳太子信仰の成立


聖徳太子信仰の成立 (古代史研究選書)

聖徳太子信仰の成立 (古代史研究選書)


 もう半年も前ですが、京都へ旅行に行った際、四天王寺広隆寺聖徳太子ゆかりの寺に立て続けに寄りまして、いつか聖徳太子についても少し勉強をしようと思っていたわけです。
 そういう事もあって、昨年の神保町古本まつりで購入。古い本ですが、読んでみたらけっこう面白かった次第で。


 前半部分で、聖徳太子の事績を載せた文献の前後関係や真偽を一つ一つ検討していったり、非常にアカデミックで、堅実な(そしてそれゆえに、一般人向け読み物の尺度で測るといささか地味な)内容ですが、その検討の慎重さ、堅実さと公正さは非常に感じられて、気持ちよく読み進める事ができました。
 惜しむらくは、この本が1980年代の、非常に古い本だという事で、現在の最新の学説とは隔たっているだろう事を想定・引き算しながら読まねばならない事ですが。
 けどやっぱり、きちんと筋を通してると感じられる本を読むのは、気分の良いものですよ。



 内容ですが、聖徳太子をめぐる政治的な背景などについて一通り眺めたりなんだり。相変わらず、皇位継承を巡る政治力学とかそういう方面の事は比較的苦手で、なかなか頭の中に入ってこなかったりはしましたが、しかし基本的な情報には触れられたから良しとすべきか。
 個人的に面白かったのは、聖徳太子が中国の慧思禅師の生まれ変わりという伝承が徐々に生まれて行って、その慧思禅師はその後智邈、智威と続く天台系の系譜に連なる僧で、そこから後に伝教大師最澄の熱烈な信仰を受けた、というつながりの部分でした。四天王寺が天台系寺院の色を強めていくのも、この最澄聖徳太子信仰から来ると。
 なるほどそうつながるのか、という感じでありました。まぁ知ってる人にとっては何を今さらって話でしょうけれども。


 正直、聖徳太子について何か書こうとするなら、もう少し新しい文献にも当たる必要があるでしょうけれども。
 とりあえずこの本自体は、結構面白い内容でありました。