図説中国の科学と文明


図説 中国の科学と文明

図説 中国の科学と文明


 ひょんな事で見かけて、気になったので買ってみた。
 農業から機械工学、医学数学から軍事まで、中国の発明や技術がいかに優れていたかを論じる内容でした。


 なかなか楽しく読みました。というのは、単に「中国が進んでいた」事が確認できるからだけではなくて、たとえば馬の鞍と鐙に関する基礎的な知識とか、天球儀に関する技術的な、初歩的な知識とかが一緒に頭に入るからだったりします。そういうのって、本屋で探してみると意外に見つからないので。
 カルダン・サスペンションとか、見た事はあったんだけれども名前は知らなくて。へぇーと思いつつ読んだりしてました。


 で、それらの基本を押さえつつ、中国の発明や技術がどれほどヨーロッパの先を行っていたかを著者は強調するわけですが、その辺りについては話半分に受け取っていました。
 だってねぇ。ある技術について、中国で文献上で最も早く確認できるのは何年ごろだけど、「そうして文献に当然のこととして書かれているからには、発明はもっと早い年代だったろう」と書くのに。別な項目で、紹介した技術についてヨーロッパにもう少し早めにあったらしい文献記述があるけれど「確実な事は言えないので留保する」と曖昧にぼかして書いたりとか。そういう箇所がいくつもあるという、酷いダブルスタンダードぶりでして(笑)。


 おそらく、ヨーロッパの学術方面で、鼻もちならない傾向でもあったんでしょうかね。そういう連中が笠に着ているヨーロッパ文明の権威を引っ繰り返したい欲求か何かが著者にあって、それでこういう書き方になったのかなとか、そんな邪推までしつつ読んでいたりしました。
 まぁ別に、私はその辺はどっちでも良くて。事実関係が分かれば良いので、適宜著者の主張は割り引きつつ。


 まぁ、鋳鉄の技術などをはじめとして、確かに中国でかなり早く成立していた技術は多くあったりして。そうすると、地理的に日本もかなり恩恵を受けてはいるのだなぁと感じたりはしました。
 本草学分野での中国の蓄積がなければ、それを学んだ平賀源内がオランダ使節に一目おかれることもなかった。


 しかし一方で、それほど技術的にヨーロッパに先んじていたはずの中国が、世界史的に西欧列強の後塵を拝しまくった事は確かなわけで、中国の技術力を強調されればされるほど、なんでそうなったのさ? という疑問が強くなる次第。
 で、これ読み終わってから、山川出版社の『イギリス史』とか買っちゃったんですけどね。産業革命


 そんなこんなですが、内容は非常に面白いと思います。
 日本がまだ縄文か弥生かという頃に、中国では地下1400メートルまで掘り進んで石油や天然ガスを取り出して燃料にしていた、なんて言われればワクワクもします(笑)。こうやって、先入観を突き崩してくれる知識に出会うのは楽しいもので。
 中世、中国の沿岸部などで紙製の鎧が使われてた、なんていう話も目から鱗状態で読みました。質の良い鎧なら銃弾も防いだとか。びっくりしてツイッターで呟いたら、現代でも防弾チョッキは貫通に強い繊維を使っていると教わって、なるほどと納得したり。
 そんな感じで、なかなか楽しい読書でした。