ロウソクの科学


ロウソクの科学 (岩波文庫)

ロウソクの科学 (岩波文庫)


 自然科学分野における古典、とも言うべき本。
 松岡正剛「千夜千冊」が例によって手にとった動機です。ていうか、買ったの松丸本舗だし。


 ファラデーによる、科学についての少年少女への公演を採録したもので、しかし内容が子供向け(しかも100年以上前)だからどうかと思っていたら、普通に面白かったのでした。無論、中学高校の理科・化学の知識がある分、知っている事も少なくないのですが、十分に考えられ組み上げられた実験と、また「ロウソクが燃える」という単純な一事象から展開される話の広がりが面白く。学生時代に習った理科や化学の内容を忘れかけてるような人は、かえって面白く読めると思います。


 惜しむらくは、本の中で実演されている実験をぜひ見たい! ということ(笑)。見ながら読み進めたい。これ、DVDブックか何かで、実験再現した映像とセットにすれば良いのに。もしくは、将来電子書籍化されるような事があれば、絶対実験映像を本文中に挿入するべき。


 それにしても、これが1861年というのが、びっくりです。さきほど100年以上前と書いたけど、実際にはもう150年前、その頃にはもう、酸素から二酸化炭素から様々な物質についての科学が知られ、知られただけでなく子供たちにこうして平易に語られてたわけですね。人間の呼吸もまた一種の燃焼だ、と語る事もできたと。
 そういう時代背景にまで思いをはせつつ読むと、より感慨が増す本だと思います。


 また、注釈で、ファラデーが当時としては珍しく、環境問題的な関心も持っていた事が語られ、それがまた面白く。実験中でも、炎が燃えて二酸化炭素が蓄積されると、やがて燃焼自体が起こりにくくなる、つまり空気が新鮮でなくなる事を示し、換気の必要性を説いていますし。また、注釈によれば、テムズ川が悪臭を放った際、原始的な方法ながら水質調査を実施して政府に提言するような事もしていたそうです。
 この辺りで、去年「大英帝国」で読んだ、ナイチンゲールによる衛生問題への関心とつながってくるので、私の中で当時の時代の空気というようなものが、ようやく少し匂って来たような感触がありました。全然別の分野にいた人物二人が、同じ問題を共有していた、というような事を感じられたことで、ようやく時代って少し実感が持てる感触がしたような、そんな。


 ともかく、タイトルと梗概から想像されるよりも、ずっと刺激的で楽しい本です。これはぜひ広く読まれて欲しいところ。せっかくの新訳ですしね。