機動戦士ガンダムAGE 第8話「決死の共同戦線」

     ▼あらすじ


 ファーデーンに現れたUEの攻撃により、ザラム、エウバの軍勢やラーガンたちは窮地に陥る。そこに現れたのは、AGEシステムによって強化されたガンダム、“タイタス”だった。UEの脅威、そしてフリットの説得の前に、ザラムとエウバは共闘を決意する。
 さらに市街地に現れたUEを撃退に向かうフリットたち。苦戦する中、ウルフが新型MS、Gエグゼスで颯爽登場し、どうにかUEの新型を撃破することに成功したのだった。


      ▼見どころ


   ▽ガンダム“タイタス”



 というわけで、ついにガンダムAGE1の強化形態、タイタスが暴れまわる時がやってきました。パンチ、膝蹴り、ショルダーチャージという肉弾戦を繰り広げ、しかも決め技はまさかのラリアットです。



 ビームラリアット


 このガンダムタイタスが、外見的にも『起動武闘伝Gガンダム』のガンダムファイターに似ている、という事は前回にちらっと書きました。まして戦い方が完全に肉弾戦である事が明らかになった今、そのGガンダムっぽさはなおの事です。
 しかし、では、単なるGガンダムのパクリや本歌取りなのかというと、そう言い切るのも少し躊躇を覚えます。ラリアットなんてプロレス技を放つガンダムは、Gガンダムにすら居なかったからです。


 なぜここで、タイタスがこんな奇抜な技を放つ事になったのか。それを考えるためには、インスピレーション元であるだろう『Gガンダム』の企画段階の逸話を知る必要があります。



 Gガンダム放映前、直前に制作・放映されていたのが、富野由悠季監督によるテレビシリーズ『機動戦士Vガンダム』でした。
 富野監督含む当時の証言を眺めると、どうも富野監督は宇宙世紀の世界観にギロチンによる恐怖政治、という構想を持っていたようで、しかしサンライズ側はSDガンダムを楽しんでいた低年齢層をガンダムに取り込みたいというオファーを出しており、両者の見解が折り合わなかったようです。
 そして、子供たちにウケて玩具が売れれば良いという出資側の要求に富野監督が激怒し、結果的にVガンダムという作品が怨念とアンバランスさに満ちた、異様な迫力はあるけど歪な作品になっていきました。
 この時、富野監督は、こうなったら次のガンダムは徹底して宇宙世紀ものの呪縛を破壊しなければダメだと考え、今川監督に「次のガンダム」の内容を指示したのだそうです。曰く――


ガンダムでプロレスをやれ。それ以外はやるな」


 どう考えても無茶振りなのですが(笑)、しかし富野監督は真剣だったようで、Vガンダム制作後しばらく精神のバランスを崩すまでになります。
 一方、今川監督はこの指示を元に『機動武闘伝Gガンダム』を制作。とんでもない無茶振りだったにも関わらず、無事制作を最後までやり遂げるどころか、ある意味別ベクトルの名作にまで仕上げてしまう剛腕ぶりを発揮した事はご存知の通りです。
 しかし。
 その今川監督をもってしても、『Gガンダム』は武術大会を題材にした作品となり、とうとう「ガンダムでプロレス」という指令そのものを実現する事は出来なかったのです。



 筆者の言いたいことはお分かりと思います。
 Gガンダムから17年。



 ついにガンダムがプロレス技を放ったわけです


 つまり、このガンダムタイタスと「ビームラリアット」は、Gガンダムそのものに加え、その制作裏話までをも含めたリスペクトであり、オマージュであったと見る事ができます。
 もちろん、偶然の符合かもしれません。
 また、もし狙ってやっていたとして、『ガンダムAGE』という作品をドラマとして盛り上げるのに寄与しているかどうかはまた別問題です。
 とはいえ、もしこれを意識的にやっているとしたら、AGEスタッフのガンダムマニアぶりと遊び心は、相当なものだと思います。



 そして、もう一つ。
 歴代ガンダム作品へのオマージュという側面以外に、もう一つタイタスからは重要な意味を読み取ることができます。こちらは、『ガンダムAGE』という作品全体のテーマを読み取る際に重要なポイントになります。何かと言うと……。



   ▽進化するガンダム


「ビームラリアット」という奇抜な必殺技は一旦除外して、タイタスがなぜあのような近接肉弾戦特化の装備になったのか。これは作中に明確な説明があります。


 一つは、UEの新型にはドッズライフルが弾かれてしまって効かない事。
 そしてもう一つが、



 コロニー内市街において、ビーム射撃武器は大きな被害を出してしまうからでした(第6話)



 タイタスが、従って敵のビーム攻撃も回避することなく、すべて受け止めて耐えるというコンセプトになっているのも、ファーデーンでの市街戦が想定されているからです。回避した敵のビームもまた市街を破壊する事になりますので。
 このタイタスをもって、フリットは「これが進化したガンダムだ!」と言うのですが……。



 何となく、ここで意味を読み取り損ねている方には、ここで重要な点を確認していただかないといけません。
 「進化」という言葉についてです。


 日本では特に『ポケットモンスター』なんかのお蔭で、この言葉の意味が誤解されがちなのですが。「進化」というのは、パワーアップする事ではありません。ガンダム業界では、アーケードゲーム機動戦士ガンダムエクストリームバーサス・フルブースト』で「極限進化ぁ〜!」などと言っているのが主な誤用例ですw)
 生物学上では、進化するというのは、新しい環境、あるいは変化した環境に適応する事でしかないのです。
 したがって、環境条件によっては、今まで得意だった事や、優れた身体的特徴などをあえて抑制・劣化させる事もありえます。猿が人間に進化する過程で、尻尾や体毛が失われたように。


 なので、「ピカチュウライチュウに進化する」というのは、生物学的な本来の意味での「進化」のイメージとしては必ずしも正しくないわけです。


 そういう点を考えてみると、特に低年齢層向けコンテンツにおいて「進化」という言葉が誤用されがちなのに比して、意外にも『ガンダムAGE』における「進化」が、本来の正しい意味で使われている事に気づくわけです。ガンダムタイタスはAGE1の単なるパワーアップではなく、コロニー内市街戦という「環境に適応」した結果だからです。


 第2話、ドッズライフルを生み出しつつあるAGEビルダーを見ながら、バルガスが



フリットの奴が作り出したとんでもないシステムじゃ。生物の進化の仕組みを応用した、モビルスーツの再構築システムじゃ」


 とAGEシステムを説明するシーンがあります。
 子供向け作品であれば十中八九、ハッタリだろうというセリフなのですが、実はこの言葉通り、AGEシステムは本当に生物学的に正しい意味でMSを「進化」させているのです。
 こういうところが、『ガンダムAGE』という作品の食えない所です(笑)。画面内で起こっている事は、一見、歴代アニメ作品や歴代ガンダムで使い古された「お約束」なシーンなのですが、そのくせ「お約束」に見えるシーンほど、裏に別な意味、込み入った、あるいは深い意味を伏流させています。
 私見ですが、そういう作品であるゆえに、『ガンダムAGE』については表面的な印象で油断せず、注意深く作品に付き合おうとしている人ほど楽しんで見ているような印象があります。


 なので、もしこれから、ガンダムAGEを「楽しんで見たい」人がいるならば、過去作品のただのパクリに見えるシーンほど注意して、考えながら見てみてください。結果的にAGEという作品はもちろん、歴代のガンダム作品の意味をも考え直す良い機会になるはずです。


 そしてもう一つ。本項目で話に出した「進化」という言葉に注意してください。
 ガンダムAGEにおいては、AGEシステムによって発展していくガンダムに「進化」という言葉が使われていますが、実は単にメカの部分だけではなく、AGEという作品全体を読み解く際に必須のテーマでもあるからです。
 そして、AGEという作品全体のテーマになるという事は、歴代ガンダムを通しての大きなテーマであり、課題でもあったという事なのです。
 そもそも一番最初の、ファーストガンダムで「人類の革新」としてニュータイプという概念が大きく使われたせいで、歴代ガンダムはロボットアニメとしては異例なくらい「進化論」的な概念やフレーズを頻出させてきたのです。AGEはそうした問題意識を、駆け足ではありますが全クールを通しておさらいしていきます。
 筆者もまた、この解説記事の特にキオ編以降において、進化論に関する話を何度かする事になると思います。



   ▽休戦


 ファーデーン内にて、ザラムとエウバの間で繰り返されてきた小競り合いですが、ここにきてUEが圧倒的な強さを見せつける事で事実上崩壊します。



「今までのザラムとエウバの戦いは遊び同然だったのか」と動揺するボヤージさん


「イエス、ドンの言うとおりです!」の二人組もUEに撃破される寸前になり、絶望的な状況に陥るのですが、ここでフリットのタイタスが登場、ボヤージとラクトを説得します。今はケンカをしている場合じゃない、力を合わせてUEを撃退しようと。



「僕たちの敵は、UEだ!」


 結果的にこの説得が功を奏し、ザラムとエウバは一時的に休戦。協力し合ってファーデーンの住民を避難させます。



 和解シーン。ラクトさんのセンセーショナルな髪型にも注目。



 一見したところ、「イイハナシダナー」な展開なのですが。
 しかしファーデーンでのこの展開は、結果的にその後のフリットを呪縛する事になります。既に一通りAGEをご覧になった方なら、よく分かるかと思うのですが。
 一般に、AとBという二つの勢力がケンカしている時、共通の敵Cを持ち出すことでこの両者を和解させるというのは有り触れた、しかし強力な方法です。世界史上でも、国内が世情不安でまとまらない時、国の外に敵を作って無理やり国をまとめるという展開は珍しくありません……というか、別に歴史を紐解かなくても頻繁に見られる事です。
 しかし、一般に、このような方策を取った場合、こんどは[A+B]対Cという別な対立軸が固定化され、解消できないまま泥沼化する事になります。


 しかも。ファーデーン編での成り行きでいえば、ザラムにもエウバにも属さない部外者であったからこそ、この両者の仲裁に入る事ができたフリットですが、これが[ザラム+エウバ]対UEという構図においては、フリットはUEに対抗する側に属する事で思い切り当事者になってしまっており、もはや部外者として振る舞い、この対立を解消する役目を負う事ができなくなります。結果、自身がザラムやエウバに説得として言った言葉が、後年の自分自身に手痛い批判として刺さってくる羽目になるわけです。
 そして、フリットの世代で「対UE」の戦争をやめる方法がないまま硬直化してしまうからこそ、AGEという物語において世代を重ねる必要性が出てくる、という事になるのです。
 ザラムとエウバに対してフリットが働きかけた仲裁の役割を、彼の子供、孫の世代が悩みながらも引き受けていく事になります。ただし――そこでフリットのように、さらに外部の共通の敵を持ち出してくるのでは、同じことの二の舞です。二勢力の対立を「第三勢力」を持ち出さずにどのように解決するのか。これもまた、AGEのテーマの一つとなっていきます。



 ……このほか、この回にはウルフさんの新MSや、最後に少しだけ触れられる武器商人ヤーク・ドレなど、見どころやチェックしておくべき項目があるのですが、長くなりますので今回はこの辺にしたいと思います。ウルフさんのドヤ顔のスクリーンショット撮ったのに残念(笑)。


『機動戦士ガンダムAGE』各話解説目次