ヨハネスブルグの天使たち
ヨハネスブルグの天使たち (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)
- 作者: 宮内悠介
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2013/05/24
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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私事ですが、同じ作者の本を連続で読むことは、あまりありません。
そういう意味で、非常に珍しい気まぐれ、2冊連続宮内悠介。
あらすじで、日本製の歌うアンドロイドが出てくると聞いて、最初のうちは初音ミクのイメージで読んでいたのですが、二つ目の話でそのイメージが微妙に崩壊(笑)。うーん、そういう話だと思ったんだけどなぁ(おい
前作でも思った事ですが、この作者さんの視野の広さ、題材選びとその組み合わせ方は素晴らしいと思います。
思うのだけれど、同時にどこかもどかしい感じも、あったのでした。
小説を料理にたとえる事はわりとありますが、この作品が料理だとするなら、食材選びと盛り付けは、文句のつけようもなく良いなと思いつつ、しかしもう少し、料理法や調味の部分でも魅せて欲しかったなと、そんな欲張りな期待が頭をもたげてくるわけです。
作品末尾に参考文献を列記するような話を、好きな人と嫌いな人がいると思いますが、私は好きな方です。ただ、そのようにして摂取した情報をどう料理したのか、っていうのは気になるわけで。
特に気になったのは二つ目の、9.11の話。あえて実在の文献を多用してコラージュ的に事態を語っていく手法とかも面白かったのですが、やはり物語としては、題材自体が前面に出過ぎてしまってどうもなぁ、と。復元されたツインタワーにもう一度ジェット機を突っ込ませる、なんてイベントが成立したというのは、フィクションとしてもちょっと想像し難かったわけです。
私は熱心なSF読みではないので、そのイメージはすごく狭いのですが。
それでも、SFってもっと強靭な翼を持ってるはずだ、と期待してしまうのです。
題材そのものから離れて、もっとイマジネーションの力で題材の中核を、別の装いで描きだせるジャンルなんじゃないかなと。そんな風に思ってしまうのです。
五つの話が、ほのかに関連し合っているような全体の構想は、とても好きでした。殺伐とした戦場の描写を続けたあとの、だからこそかえって重苦しさが増す、平和なハズの「東京」の描かれ方とかも、非常に巧みに思えます。ウェットになり過ぎない心情描写も好みで。
なので総じて非常に面白かったのですけれども。ただやっぱり、知識先行な感触のあったのが、もう一歩惜しい感じがしたのです。
おいもの煮っ転がしみたいに(笑)、本から得た知識がゴロゴロ転がっているのだけれど。そういう料理もあって良いのですが、SFとして料理されたのなら、そうした具を浸すほどに、イマジネーションや描写の質感や情感や、そういったもので煮込まれたカレーかシチューみたいになっててほしいわけですよ(分かりにくい
そんなこんなで、もう一味ほしい、という感想でした。
ただ著者の方は若い方のようなので、これからじっくり熟成していってくれるなら、今後も追いかけていって良いかなと思える、そんな作品でした。