解体新書の謎


解体新書の謎

解体新書の謎


 平賀源内界隈が気になって手に取った一冊。源内と玄白は仲が良かったのです。


 半ば衝動買いだったわけですが、んー、これはハズレを引いた感じ。そもそも論証としては八方破れで、解体新書成立の経緯を論じてるはずが、ところどころ小説仕立てで当事者の発言とかデッチ上げてるし(笑)、「杉田玄白蘭学の師について学んだことが無い」という一事をもって『解体新書』の翻訳は前野良沢が大半をやっただろうと断定してたり。
 解体新書の内容の紹介とか、現代医学との比較とかもするつもりの章立てなのですが、これ著者さんは一応医学関係の人らしいのに、原文とか『ターヘルアナトミア』脚注を列挙して「興味深い内容である」としかコメントしてないところが多々あったり。明らかに現代医学の観点からは誤謬に当たるだろう記述まで「興味深い内容である」でスルーしてあったりもするし(笑)。
 しまいには、西洋の骨相学(この著者さんは間違って人相学って書いてるけど、頭蓋骨の形とその人物の知能や性格を対応付ける論は骨相学が正解)を紹介し、現代医学では否定されていると一応するものの、「頭蓋骨の大きさによって理解力などが多少判断されなくもないが」とか思いっきりダウトな事を書いてあったりして(笑)。単に脳の大きさが知能の高さと比例するなら、イルカの脳は人間と同じかそれ以上あります。ええ、はい。


 まぁ要するに、ダメダメなのでした。あまりにもダメすぎて、後半は流し読み。
 これなら、ネット上の個人ブログでも書籍化した方がまだマシだ。


 とはいえそれでも、私の場合個別の情報に使えそうなのがあれば、そこだけ取ってくるという事が出来るので、まだしも有用な部分もありました。『解体新書』の挿絵を担当した小田野直武(平賀源内が秋田藩で見出した人物)が、その後どうなったかというのは初めて知ったので、その辺りだけ自分用に抜き出してみたり。



 それにしても。良い本もたくさんあるのだけど、総じて日本の人文系学問の論述レベルが低いと思わされてしまうのは、一定確率でこういう、どうしようもないのを引いてしまうからだったりして。人文科学も「科学」なんだから、著者個人の思い入れや好き嫌いと、事実を分けるくらいの事は最低限してもらわないとねぇ……。