復興文化論


復興文化論 日本的創造の系譜

復興文化論 日本的創造の系譜


 ツイッターでの発言の切れ味が抜群で、動向を気にしている福嶋氏の久しぶりの単著。発売を知って大急ぎで購入しました。


『神話が考える』もなかなか面白かったのですけれども、個人的な感想としては、今回の『復興文化論』は別格でした。すごかった。ど真ん中剛速球ストレートの人文学。大変な読み応えでした。タイトルに復興とついていますが、先の震災前後しか見ないような射程の短い本じゃなく、万葉集の時代からの「戦後・災後の文化」を長大な射程で論じた骨太な一冊でした。
 今日日、若手評論家が柿本人麻呂から空海平家物語太平記上田秋成曲亭馬琴中上健次三島由紀夫なんて辺りを改めて論じること自体が稀になりつつある中、まして論述のレベルも精度も抜群というわけなのですから、これはタマランですよ。


 また、著者の方が中国文学に造詣が深く、中国から日本文学を照射する形になっているのも非常に良いスタンスになっていました。どうしても西洋文学と日本近代文学との連関性を主軸に明治以降の日本文化を語るのが普通な所、そこに中国文学・文化という第三の視点を設ける事で、新鮮な切り口を見せる事に成功しているように読めます。
 著者が引用する国内作品への批評も、おそらくこの手の評論集の平均と比較して圧倒的に海外研究者の文献からのものが多い。福嶋氏の射程は最初からインターナショナルなレベルに広がっていて、それだけの広い視野の中での日本を論じている事も説得力に貢献していると思います。


 個々のトピックでも面白かったところが山ほどあるのですが、やはり何よりも総体としてのこの本の完成度を褒めたい。いや本当、若手の批評家がこれだけのど真ん中ストレートの剛速球を投じて、もし何の反響も無かったら、もう日本の人文学は死んでるんだろうとしか私には思えませぬ。そんなオーバーな言い方をしたくなるくらい、良かった。



 それにしてもこの方、私と同い年なんだよなぁ……さすがに翻って、自分の不甲斐なさに多少落ち込まざるを得ませんでした。まぁ、私は私なりに、地道に精進するしかありませんなぁ……。