鳶魚江戸文庫6 江戸の白浪



 去年の神田古本まつりにて、思い切ってまとめ買いをした鳶魚江戸文庫。
 その中でも、真っ先に泥棒に関するところから読み始める辺りが私のひねくれ振りなわけですが。


 まぁ、とりあえず楽しい、というのが最初の感想です。このひとつ前に読んでいたのが、江戸の歴史家・思想家の歴史意識やイデオロギーに関する本だったのですが、そういう形而上っぽいものよりも、やはり具体的な事件や市井の動向みたいな形而下な話の方が、どうも私の性に合っている(笑)。
 鳶魚翁の筆致は、膨大な知見を気ままに開陳する体のもので、体系だった記述を期待すると少し肩すかしですが、次に何の話が飛びだすか分からない楽しさがあります。
 まぁ、個人的に後で自分用の知識としてまとめる時のために、出典とかをもっと逐一示してほしいという希望はありましたが……。


 ちょっと想像してた内容と違ったのですが、結果的に江戸時代全体に対する関心をすごく高めてくれる本でした。取締りの法令や、取り締まる側の事情なども逐一書かれていて時代ごとの背景もつかみやすく。ただ、享保以降の事に至る前に鳶魚翁が筆をおいてしまったのが、ちょっと残念でした。


 ラッパ・スッパなどの戦国時代の諜報員たちの末路とか、やっぱり何とも言えない面白みを感じます。
 一方、この本の3〜4割は実は江戸時代の被差別民たちについての記述なのですけど……非常に面白く興味深いのですが、いろいろと記述に配慮しようとすると、難しい話でもあって。現代の人権配慮の水準を守りつつだと、こういう話をどこまで出来るのかなという感想も持ちました。かといって無かった事にできるはずもないし。特に、あえてこの場にその単語を書きますが、江戸時代の「非人」に関する政策は、当時の社会福祉、貧困対策にも直結していたという事なのですから、やっぱり重要だったのだなぁ、と。
 この辺り、近年の本はどのように配慮して取り扱ってるんですかね……。


 ともあれ。
 全体的に非常に楽しみました。
 まだまだ、まとめ買いした鳶魚江戸文庫がたんまりあるので、引き続き楽しみに読んでいこうと思います。