ハムレット


ハムレット (新潮文庫)

ハムレット (新潮文庫)


 さらに続いてシェイクスピア。ガンガン行きます。


 上で感想を書いた二作が比較的シンプルな筋立て、展開だったのに対して、このハムレットは非常に難解というか、込み入っていると感じました。
 具体的に何がといって、主人公ハムレットの心情が。彼が父親の復讐に対して、どれくらい積極的で、どれくらい消極的なのか。どれくらい正気で、どれくらい狂気なのか。どれくらい真面目で、どれくらいふざけているのか。そこが、終始分からないままです。
 巻末の解題によれば、ゲーテハムレットの消極性に近代的な心性を見て取ったとかいう話で、逆に解題を書いている方はハムレットの積極性の方を強調するのだけど、これって結局どちらか片方だけが正解というわけではなく、多分どちらもある、という風に見えました。確かにハムレットの終盤のセリフからは積極性が見えるけど、しかし最終的にその復讐がなったのは、王の側が仕掛けた罠から発した成り行きだったわけだし。
 正気と狂気の描写もそうで、ハムレットのセリフは時々極めて理性的で自分自身を客観的に分析してたりもするので狂気は見せかけのようにも見えますが、しかし彼は序盤の方ではオフィーリアの元へ服装を乱したまま現れたりもしているし。
 先王の亡霊の言葉を聞いても、それが悪魔の甘言かも知れぬと疑って、演劇を仕立てて真偽を探る慎重さを持っているのに、剣術勝負には何の疑いもなく応じてしまったり。


 要するに、ハムレットの言動はすべてちぐはぐで、どちらともとれるし、多分どちらでもある。彼自身が状況に翻弄されて分裂しているのかな、と読めました。
 そして、そんな風にどうにも一貫性を失った分裂具合を見せているがゆえに、個人的にこのハムレットと言う人物には親近感というか、好意をもって読んでいたのでした。ここまで読んできたシェイクスピア作品の登場人物の中で、一番好きかも知れない。


 大体、ただ一貫してるだけの人物なんて、薄っぺらで魅力を感じないって人間なのですよ私は。『機動戦士ガンダム0083』の中ではシーマ様が一番好きだっていう人なのでw
 そういう意味で、非常に読み応えのあった作品でした。


 まだまだ、シェイクスピアを読むターンが続く予定ですが、感想はとりあえず一旦ここまで。