2001年宇宙の旅


2001年宇宙の旅 [DVD]

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 というわけで、実はこれも見ていなかったぜ、キューブリックの言わずと知れた定番作品。
 SFとしてはもちろん、人工知能関係も調べたり小説のネタに使ったりしてるってのに、今さらであります。はい。


 それにしても何というか、このレベルの有名作品ですと、感想がね、ほぼ毎回「面白かった」になる辺り、なんかいろいろ面映ゆいところも無いでもなく。
 名作だから誉める、って権威主義になると良くないですが、いや何だかんだで、名作は名作と呼ばれるだけの内実があるのだなと、逆に敬遠していた自分が思い知らされている感の方が大きいです。やっぱすげぇや。


 この作品は1968年公開ということで。
 私は映画史もそんなに詳しくないから予測で話をしますが、この頃はまだSFXで宇宙船が移動するって映像自体がそれなりに目新しくて、だからそういうシーン自体を見せ場に出来たのかな、という感触がありました。そのお蔭で、序盤の宇宙ステーションから月面への移動シーンとかが、すごくゆったりしていて気持ちが良かった。宇宙旅行気分をたっぷり味あわせてもらえたのがまず楽しかったな、と。最近の映画だと多分、宇宙を移動する事自体は映像的な目新しさに乏しくて、それ以外のスペクタクルに見せ場が移行してしまいがちな気がするので。
 とにもかくにも、ファーストクラスで宇宙旅行している気分を思う存分満喫できて、なかなかに満足でした。


 HALについては、むしろ今まで間接情報で色々知り過ぎていたので、ようやく大元を見て「こういう話だったのか」という確認が上回ってしまいました。思ったよりサツバツとした話なのね。
 どちらかというと、この手のSF映画を見慣れていないせいで、どうも出て来るものがいちいちガンダム用語に変換されてしまうので困った、という感じでした。木星まで行く宇宙船と聞いて「ジュピトリスかな?」みたいな(笑)。その連想があったので、当初ディスカバリー号は全長数百メートルか数キロのデカい船だと思ってました。むしろあんなに小さいとは、とビックリ。
 ディスカバリー号の船外作業用ポッドもボールに似ていましたが、あれは多分ボールの方がオマージュしたんだろうな、と。それはそれで、元ネタに出会えて感無量です。
 他にも、ガンダム作品がこの偉大な閃光作品から数多くの示唆や影響を受けているらしいことはあちこちに感じられて、単純に一介のガンダムファンとしても嬉しかったというのもあったりします。


 そうそう、HALとディスカバリー号クルーがチェスで対戦しているシーンがあって、それも感慨深く見ました。そうか、ディープブルーがチェスチャンピオンを降すよりも前の作品なんだな、と改めて実感させられたり。もし今リメイクしたら、こういうシーンにはならないのだろうなぁと。
 時代という話で言えば、劇中にちらっとパンチカードが出て来て、それもなかなか個人的に面白いところでした。紙に穴があいてて、その穴の位置で情報を記憶するっていうアレです。私はもっぱら『ウルトラマン』の科学特捜隊基地で見かけたばかりでしたが。こういうレトロなアイテムを見ると、「過去から見た未来像」という屈折した世界観が感じられて、これはこれで味わい深いよなぁ、と。今と言う時代に見るなら、そこも楽しい所で。この映画が作られた当時、まさかタバコ一本分ほどの大きさに数十GBの情報が入るなんて想像もされてなかったし、一方で「2001年」を大幅に過ぎた現在においても、こんな快適な宇宙旅行はまだ実現しておらず。イマジネーションと現実の一進一退まで見えて来て、何とも言えない気分になります。


 そしてラスト。いきなりフルスロットルにぶっ飛ばした抽象的な映像が流れて、頭クラクラしました。
 分かったか分からないかで言えば、そりゃ分からなかったわけですけれど。しかし同時に、こういう方法もあるかぁ、と感嘆もさせられました。
 つまり、言語で綴る限りでは、「想像すら及ばないもの」、文字通り言語を絶するものって表現の仕様が無いのだけれど、映像ならばどうにかそこにアプローチできるんだな、という事です。
 小説だったら、言葉だったら、「言語を絶する」ものはそれ以上書きようがない。そして人類が人類に進化するより以前から存在していた地球外の何かなんて、言語を絶するような、我々の既成概念の範囲に収まらない何かであるに決まっていて。
 言葉でアプローチするなら、あとはその周辺をぐるぐる回って、「言語を絶する何か」の輪郭線を浮き彫りにするくらいしか手が無いのだけど、映像なら説明がつかないなりに、その言語を絶する何かの「感じ」を掴みあげて表現するって手も、無いではない。
 いわばそういう力技を見せられたわけで、これはもう圧倒されるしかないわけです。一応、小説書きの端くれとして、こりゃやられたなぁ、と。こんなもん、脱帽するしかない。


 そんなわけで。正直、あの終盤の映像乱舞を言語化して説明しようとするのは、無謀というか無粋なんだろうなというのが感想でした。多分、言語化すればしただけ陳腐になっていく何か、なんでしょう。
 やれやれここ一か月ほどの口癖になっていますが……もっと早く見とけばよかったw