惑星ソラリス


惑星ソラリス HDマスター [DVD]

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 引き続いてSFのターン。こちらはロシアで制作されたそうです。


 この映画は前から気になっていまして。以前、東京散歩に合わせて首都高速について関心を持って調べたりした事があり、その時にこの『惑星ソラリス』が東京の、首都高速道路を未来都市のイメージで使っているという話を小耳に挟んだのでした。
 いつか見ようと思ったまま放置していたんですが……今回、定番映画視聴の流れにのって、見てしまった次第。


 で、まずその問題の首都高速シーンですが……うわぁ(笑)。
 何が凄いって、本当に無加工の、首都高を車で移動しているシーンをベタで流してるだけという予想の斜め上をいく映像で、かなり面食らいました。よく見ると、「クラウン コロナ カリーナ」とかいう看板が普通に映っているという(笑)。なので我々日本人が見ると、どう見ても東京をただ走っているだけなので、かなり面食らうかと。
 とはいえ、もし「まったく特殊映像・映像加工をせずに、未来の車移動のシーンを撮影しなさい」と言われたら、少なくともこの当時としては、日本の東京・首都高速はベストなチョイスだったんだろうなとも、確かに思えるのです。複雑な高架、入り組んだトンネル、ビルの合間を強引に潜り抜ける道。時々目に入る、明らかに日本語な看板に目をつぶれば、確かに未来の街に見えない事もないのですよ。
 考えてみれば私も子供の頃、父親や祖父の車で首都高を移動する時、奇妙に高揚した覚えがあったのでした。まるで『スターウォーズ』のデススター攻略シーンみたいに、障害物の間をかすめて飛んでるように見えたりして。
 また現在でも、たとえば臨海地区のゆりかもめなんかに夜に乗ったりすると、やっぱり未来都市を見るような気分にさせてくれたりします。
 その辺が非常に、興味深い映像でした。そうか海外の人にはそう見えたのか、という。


 で、本編のストーリーについてですが、まず何より、『2001年宇宙の旅』と対極な、SFXや特殊効果をほとんど使っていない映像作りが印象に残りました。特殊メイクすら数えるほどしか出てこない。それでいて、見終わった時「これはがっつりSF作品を見た」と思わせてくれて、そういうところに圧倒された感じです。
 またそれに関連して、映像内の圧倒的な生活感が……(笑)。『2001年宇宙の旅』では、宇宙ステーションもまっさらで清潔な白い内装で、いかにも未来っていう人工的なイメージが強調されてましたが、『惑星ソラリス』の宇宙ステーションは、なんかロケットの発着場が白いタイルなんだけど煤とかで汚れまくってるし、ステーション内部の廊下も配電盤とかパネルとか色々剥き出しでゴチャゴチャだし散らかってるし。そういう雑然とした感じ、また長年使われてるっていう使用感、生活感がすごくて、これはこれでリアルだなぁと。ロマンは無いけど(笑)。
 そしてそこで展開される、SF的想像力が引き起こすアンビバレンツと、人間的葛藤。


 いや正直なところ、作中に明確な倫理的葛藤をドカンと提示して、それを巡って「考えさせられる」という作品を見たのが実に久しぶりだったため、非常に見てて疲れてしまった、というのが感想だったりします(笑)。体力ねぇなぁ私。
 しかし、やっぱり『2001年宇宙の旅』で得た感興とはまた別な感じで、「これはド真ん中SFだなぁ」という感触でもあり。
 何度か書くように私はSFについては門外漢の素人なんで、その認識がどれくらい一般的なのかは分からないのですが、個人的にはSFというのはやっぱり「未知なるものと遭遇して、その結果生じた問題や状況にどのように対処していくのか」というのが主要な主題になる作品なのだと思っているのです。そういう意味じゃ、この『惑星ソラリス』は文句なしだったわけで。


 こう、SF的な想像力を通じて、既存の常識とか倫理観では割り切れない状況が現出して、既成概念がプチプチプツプツと分断されていくわけです。そういう感覚を快感と感じられるかどうかが、やっぱり大きな分水嶺な気がするんですけれども、SFを楽しめるかどうかの。
 で、散々、見ているこちらの頭を掻きまわしてくれた上に、オチがあれだもんなぁ……(笑)。


 いやいや、実に楽しみました。白黒とカラーが入り混じったり、「これ本編と関係あるの?」って映像が長めに流れたりと色々見てて重いところもありますが、これはやはり見てよかった作品だなと思った次第。
 現状、名作映画を見るキャンペーンですが、当たりばかりで推移しており、良い兆候です。