饗宴


饗宴 (岩波文庫)

饗宴 (岩波文庫)


 引き続きプラトン
 ほぼマンツーマンの対話形式が多いプラトンの著作の中で、本書は戯曲仕立てっぽく。若干の物語性があるお蔭で、哲学書を読んでるというような感じは全然しませんでした。もちろん、プラトン哲学の重要な概念について触れたりしているんですけれども、むしろそういうのより、物語としてのディティールを楽しんでしまった感じです(笑)。
 そもそも、飲み会の余興として、順番に演説していこうぜ、という趣向自体がいかにもギリシャだなぁという感じで。日本でそんな余興を実行したら、5分で帰りたくなること請け合いですw やっぱギリシャ哲学を生んだお国柄は違ぇぜ、と思わされました。
 そんなわけで愛の神エロスを賛美する演説をするという中からプラトン哲学の代名詞とも言うべきイデア概念の提示にまで至るわけですけれども、とはいえそこは酒の席のこと、話者もそれを聞く人たちもリラックスしているし、けっこう気楽なムードなので堅苦しくなくて良い。演説の順番が来たけど、しゃっくり止まらなくなったからお前先に演説してくれよ、とかなったり(笑)。またそれを受けて、医師のエリュキシマコスがしゃっくりの止め方を伝授するのですけれど、息を止めておけ、それから水でうがいをせよ、それでも止まらなかったら鼻をくすぐってクシャミをしてみるんだな、という内容で、ああこういうのは現代と全然変わらんのだな、などと微笑ましく思ったり。
 かと思えば、ソクラテスが話し終えて皆が感心しかけたところで、へべれけに酔っぱらった別な友人が乱入して来て場を荒らしたり(笑)。そしてその酔っぱらいがソクラテスの髪の毛にリボン結び付けはじめたり……w
 それぞれの宴会参加者の演説内容も、各々の職業や考えに基づいて自由に話している雰囲気ですし、とても哲学書を読んでいるような気分でなく、楽しんで読んでおりました。


 そんな具合だったので、むしろこの岩波文庫版『饗宴』の冒頭にある序文にむしろ納得できない感じが強かったです。なんかこう、みんな酒席の余興として楽しみながら自分の主張をしているわけで、それをたまさか後世の哲学史の観点から見て重要度が低いからといって、「浅薄」とか「貧弱」とか言われる筋合いねぇだろ、と思ってしまう(笑)。なんかこう、無粋に思えてしまいます。


 そもそも、ソクラテスと相手との会話から一部分を抜き出して、それを「イデアがどうのこうの」という固定化された「知識」にして、それを権威的に語るという方法自体、ソクラテスの「無知の知」に反するんじゃねぇかという気もしますし。彼らの会話の文脈から切り離して、「プラトンイデア論はこのようである」と自明なことのように語る事が、本当にプラトンソクラテスの意図に適っているのかどうか。少なくとも、そのような記述にならないように配慮されたからこそ、わざわざこの著作は酒席での会話劇に仕立て上げられているはずですし、またソクラテス自身も自分の主張を、別な尊敬できる女性から教わった際の会話という形式でわざわざ語っているはずなんじゃないかと。


 ……というのは穿ちすぎなのかも知れませんが。どうにも、その辺はあまり納得できないままでした。
 むしろ後世の哲学史に照らした観点から難しい解説を付したのを読むよりは、単なる戯曲として読んだ方が、この作品に関しては適しているような気がします。


 そんな感じで。