アントニーとクレオパトラ
- 作者: ウィリアムシェイクスピア,William Shakespeare,福田恒存
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1972/03/07
- メディア: 文庫
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新潮文庫シェイクスピア作品コンプリート計画もいよいよ大詰め。こちらも古代ローマを材にとった史劇ですが、執筆された時期は四大悲劇より後とのことで。読んでいる間はそんなに気にならなかったのですが、読み終えて頭の中で咀嚼してみると、なるほどと思える感じでした。
巻末の解説によれば、この作品を四大悲劇以上に評価する人もいるのだとか。個人的にその気持ち、ちょっと分かるような気がします。
このブログを以前からお読みの方はご存知の通り、私はどちらかというと人間のダメさに共鳴してしまうタイプで、ガンダムで言えばシャアよりクワトロが好きという人です(笑)。そういう視点で見た時に、アントニーの人間的なダメさが、すごく良いのですよw 周囲の人間誰もが認める勇敢な英雄だけど、エジプトの女王クレオパトラにメロメロになってもいるという。
何より、アントニーの転落・失脚・末路って、「運命に翻弄された」とかじゃないんですよね。『ロミオとジュリエット』なら不幸な行き違いとか、『リチャード三世』とか『マクベス』なら亡霊が物語の裏で行く末を暗示したりしますし、『オセロー』では悪意によって事態の進行を差配するイアーゴーがいました。けれど、この『アントニーとクレオパトラ』において、アントニーが失脚した直接の原因は、海戦における自身の判断ミスです。しかも、クレオパトラの動揺に引きずられて、自らの誇りに背いてしまうという、歴戦の英雄にあるまじき大ポカ。自業自得です。
しかし自業自得であるが故に、アントニーの凋落は他のどのシェイクスピア悲劇の主人公が辿った「運命」よりイタいしツラいし、やりきれないわけですよ。そして、この『アントニーとクレオパトラ』はそこを味わう作品だと思うの(笑)。
実際、よし死のうって言って自分に刃を突き立てて、死にきれなくて女の元に担ぎ込まれる、なんていう英雄がいるか? って話ですw そんな感じで、アントニーもクレオパトラもどうにもカッコがつかないのだけれど、だからこそ出てくる、「運命に翻弄」されていては出ない悲劇の味があるんじゃないかと。
またカッコがつかないと言いつつ、時々すごく器の大きいところを見せたりもして、一貫性がないという読み方も出来ますが、むしろその描き方の振れ幅が、人間観の厚みなんじゃないかなと。
これはだから、『ジュリアス・シーザー』では出なかった味で、個人的にはそこが面白かった、という感じでした。
実は当初、シェイクスピアも四大悲劇と、他有名なの二つくらい読めば良いかと思っていて、『ジュリアス・シーザー』や『アントニーとクレオパトラ』は読まないという日程も考えていたのですが。本作は、そこで留まらずに読んできて良かったと思わせてくれた作品で、非常にありがたく、また楽しい作品でした。読んでみるもんですねぇ。
さて、いよいよ、新潮文庫のシェイクスピア作品も、残り一冊。その感想は、読了後にまた。