夏の夜の夢・あらし
- 作者: シェイクスピア,William Shakespeare,福田恒存
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1971/08/03
- メディア: 文庫
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新潮文庫のシェイクスピア作品もついにラスト。そしてこの『あらし』も、シェイクスピアの最後の作品であったろうと言われているものだそうです。
『夏の夜の夢』は、事前に予想していた通り、非常に楽しい雰囲気の作品でした。出てくる妖精たちがみんなかわいくて(笑)。特段にシリアスな事もなく、ドタバタ騒ぎと取り違えの混乱の中で大いに笑わせられた次第。
実際、戯曲読んでこんなに笑わされたの初めてだったかもなぁ。職人たちがやる演劇の内容もメチャクチャで、ついつい噴き出しながら読んでおりました。またそれを、王様たちがツッコミ入れながら見てるのが良いw
イギリスの妖精のイメージ、良いですねぇ。今まで東洋の妖怪には目くばせしてきたんですけど、妖精はなかなか手を出す機会がなく……しかし、良いイメージを提供してもらえたので、今後は追ってみるという手もあるかも知れません。
しかし、より感銘を受けたのは、『あらし』の方なのですよ。
巻末の解題でも触れられていましたけど、やはりこの『あらし』に関しては、作品単体というよりも、シェイクスピア最後の作品として読みたくなる欲求から逃れられませんでした。
何より、四大悲劇を中心に、あれほど復讐や陰謀のもとで血を流しまくったシェイクスピアが、最後、陰謀によって放逐されたプロスペローにそうした復讐を思いとどまらせ、「許す」という事をさせたという辺りに、なんともいえない味があるという読み方をせざるを得ませんでした。最後にきて、こうか、という。
しかもそのプロスペローが、最後に妖精を放逐して魔法の力を捨ててしまう。かつて『リア王』を襲わせたような、嵐を起こす能力も。あるいは悲劇の中で多くの亡霊を登場させた、超自然の存在を使役する能力も――そうした作家としての能力をすべて脱ぎ捨てて、「さぁ拍手で送ってくれ」って観客に語りかけていると。そう読みたくなるわけですよ。
これはもう、圧巻というか、参りましたと言うしかないですよねぇ。一人の作家の最後のけじめのつけ方として、無類にカッコいい。こんなの、ここまでシェイクスピア作品をそれなりに読んできた身としては拍手せざるを得ませんよ。ここで拍手しなかったら観客の名が廃るというもの(笑)。
とにかく、そのような印象があまりにも強くて、この『あらし』という作品単体でどう読むべきかという事には、とんと意識が回りませんでした。テキストと作者は別、という見解にわりと近い私としては珍しい事ですが……うん、こればっかりは。
いずれにせよ、新潮文庫シェイクスピアコンプリート計画の最後に、この作品を持ってきたのは大正解でありました。最後の最後にグランドフィナーレを見せられた気分で、快く本をおくことができたのでした。
これにて、シェイクスピアゾーンを離脱します。なんだかんだで7月からここまで、けっこうかかりましたが、これでしばらくはシェイクスピアに戻ってくる必要はなくなったでしょう。
さて、次はどこに行こうかしらん。