楽園追放



 古典映画を中心に見ている中ですが、現在公開中の作品を見て来たのでこちらの感想も。


 虚淵玄脚本のオリジナル長編映画で、ツイッター上、私のTLでの評判も良さそうだったので、見て来た次第です。
 で、以下ネタバレ注意。




 総体としては大変楽しみました、という感想。丁寧で端正で、しかし気骨があって、そして実に虚淵氏らしい趣向とテーマの作品でございました。
 まぁキャラデザがあざとい、という点で拒否感を感じてしまう、比較的アニメ歴の浅い人にはつらいところもあるかも知らんですが、私はその辺はもう慣れてしまったのでなw
 あれくらいで心惑っていては、昨今のクールなジャパンを渡り歩くことはできんのだよ(キリッ


 何はともあれ、もろもろのアクションシーンをはじめとして気持ちよく作品を見られる脚本になっていて、エンタメ作品としてはそれが何より重畳です。最初から最後まで、ストレスなく見終えました。なのでまぁ、とりあえず頭カラッポにして見ても十分、値段分は楽しめるかと思われます。
 その上で、やはり私は小理屈をつけながら見るわけですけれど、まぁ『Fate/zero』『魔法少女まどか☆マギカ』という、私が見た範囲の虚淵氏の関心の方向とつなげて、必然的にこういう話になるよなぁという感想は持ちました。
 このブログにおいては再説になりますが、『Fate/zero』の聖杯にせよ『魔法少女まどか☆マギカ』のキュゥべぇに代表される魔法少女が消費されるシステムにせよ、共通するのは「特定のルールでプレイヤー同士が競い合うゲームが行われるが、もしもそのルールを執行するシステム自体が破綻していて、プレイヤーがどんなに頑張っても報われない仕組みになっていたら、その時プレイヤーはどうするのか?」という関心です。
 で、当然この『楽園追放』における仮想世界ディーヴァの、楽園である事とは裏腹の管理社会ぶりというのも、この系譜に連なるわけでした。
 ……という風に見てくると、ほとんどこれ以上、私の解釈を書き並べても野暮にしかならないくらいメッセージとしては明確でありまして。ディーヴァで住民に支給される「メモリの量」を、同じMから始まる天下の回りものに読み替えるだけで、そのまま現在の日本の社会状況の話になりますから、まぁ、そういうことです。
 そういう意味では、かなりメッセージ性のはっきりした作品であり、私のような偏屈としては、読解の楽しみが若干薄いかなという感じはなくも無かったですが、まぁしかし今の時代に創作に携わる者がメッセージを発するとすれば、やっぱこういうところだよな、という納得感もあり。
 劇中、ディーヴァ内では無価値とされる情報は失われてしまい、そこに生じた隙がディーヴァにとって予想外の事態が起こった原因だったという辺りも、虚淵氏がまどマギでメディア芸術祭のアニメ大賞をとった際に、表現規制について露悪的なくらいに反骨精神旺盛なスピーチをしていた辺りと合わせて考えると、非常に首尾一貫しています。


 個人的には、人工知能関係に関心がずっとあるもので、フロンティアセッター周辺の描き方が大変面白く、また魅力的でした。
 つい数か月前見たばかりの事で偉そうに書くのもはばかられますが(笑)、これ『2001年宇宙の旅』へのオマージュもあるんだろうなと、最後にフロンティアセッターが歌う場面を見ながら思ったりもしたわけです。
『2001年〜』では人工知能は最後に人間への叛逆のため消滅させられてしまうのですが、一方『楽園追放』では最終的に主人公が人工知能の味方に立つ事になり。また人工知能を能動的に「人間」と認めるところまで至っていて、なかなか興味深く。特に、過去のアーティストのロック音楽をアレンジする、というある種の創作行為、さらに人間とのリアルタイムのセッションまで行えると、そこまで想像できるくらいに人工知能の性能が上がっているという事が、また面白かったのでした。
 ツイッターでとある人と会話していたのですが、『2001年〜』では人間と人工知能がチェスをするシーンがあるのですよね。ところが、1997年にディープブルーがチェスのチャンピオンに勝利して以降、生半な実力ではもうコンピューターにチェスで勝つ事は出来なくなってしまっています。それに代わる、人間と人工知能とのコミュニケーションとして、音楽のセッションという要素が出て来たのが面白い、と。



 実際、人工知能が創作を行える可能性は世間で思われているより高いと思いますし、現在様々な試みもされています。なんだかんだ、人工知能周りは技術の進歩によって想像力が不断に更新され続けている、面白い領域で、この作品でも様々な視点から見る事が可能だと思います。


 ともあれ、様々な視点から楽しめる、内容の豊富な作品だと思います。これ、上映館が少なすぎるのもったいないなあと思わざるを得なかった。まさか東京で2か所しか上映してないと思わなかったのでびっくりした次第ですが……とりあえず、見る機会のある方には是非、とオススメしておきます。