めまい


めまい [DVD]

めまい [DVD]


 ヒッチコック視聴もこれで6作目かな? のんびり見ております。
 毎回、手を変え品を変え趣向を変えてくるヒッチコックの引き出しの多さに翻弄されているわけですが、この『めまい』は特にそういう実感を強く感じました。
 とりあえず、以降激しくネタバレ注意のため、折りたたみます。




 何がびっくりしたって、前半のストーリーが怪談仕立てだったことでした。
 私が今まで見て来た狭い映画知見では、アメリカ映画で「怖い」と言えばモンスターがアギャーと出て来て暴れるとか、血ぃドバドバ出るとかいう類いが中心だと思っていたので、よもやこんなしっとりしたじわじわ怖い怪談が来ると思っていなかったのですよ。
 これがまた、小道具、芝居、セリフ回しまでいかにも神経が行き届いていて、存分に怖い。ヒッチコック監督こんなのもイケるのかと、もう感心しっぱなしでした。


 そうであればこそ、なんかこう、後半の展開に一抹の惜しさが感じられてしまったりも。
 これは不備とかまずい所があったとか言う事ではなくて、後半の急展開も物語としての出来は素晴らしいものだと思うのですが……いや、前半の空気があまりにも味わい深すぎて。
 以前、とある海外の有名ミステリ作品を読んだ時に感じたのと同じ感興でした。ミステリには前半に提示される謎と、後半の解決編があるんですけど、その作品は提示された謎があまりにも巧妙で、それ自体が一つの完結された幻想文学のように美しくて、そこに合理的な解決がついてしまう事がなんだかかえって勿体ないような気分にさせられたのでした。


 この『めまい』も同じで、後半の種明かしによって合理的な事件の全貌が視聴者の前に示されて、それによって最終的に「あぁヒッチコック映画だ」っていうところに落ちてくるのですが、しかし一方で前半の雰囲気があまりに見事すぎて……あのまま合理的な解決をつけずに、不条理怪奇映画みたいな結末がつく映画も見てみたかったな、と思ってしまったのでした(笑)。


 ともあれ、ストーリーの二転三転も楽しく見られましたが、一方で撮影技術にも。主人公の高所恐怖症を表現する、ファンから「めまいショット」と呼ばれてるシーンがあるんですけれど、あれは確かに見事でした。画面が急激に広角になる事で、言葉を使わずに視覚的に「高所恐怖症」の感覚を表現してしまうという。あの映像の一工夫が、積み重なって作品の説得力を生むわけで、見てる時は一瞬で過ぎてしまいますけど、見終わって反芻してみると確かにすげぇなぁと。


 そんな感じで、相変わらずヒッチコック監督の手の中で転がされているうちに見終えるという、ある意味視聴者として大変幸福な状態で最後まで見終えたわけでした。
 細かい所言えば、結局この事態全体を画策した夫は逃げちゃったんだよね、とか、主人公の恋人未満なメガネ女子の人かわいそうだよなとか色々ありましたが(笑)、そういうシナリオ的な些事に決着をつけるよりも、映像的な綺麗な完結を優先してるのだろうなというところまで含めて、個人的には納得できた感じです。
 いやぁ、ヒッチコック作品面白いなあ。
 あと『裏窓』見るくらいでヒッチコックは切り上げにしようかとも思ったのですが、ツイッターでもう少し勧めてくれた人がいたので、あと何本か、引き続き見てみようかと思います。
 まぁ、焦らずボチボチと。