パイドン


パイドン―魂の不死について (岩波文庫)

パイドン―魂の不死について (岩波文庫)


 7月後半以降、新潮文庫岩波文庫しか買わない生活が続いております。意外にも楽しめてる。
 というわけで引き続きプラトン。こちらは、ソクラテス最後の日に弟子たちと交わされた議論という体裁で、ここまで読んできたプラトン作品とはまた違った趣きでした。
 実際のところ、こうして実際に読むまでは、プラトンの著作ってどれも似たような感じだろうと思っていたわけですが、実際には毎回シチュエーションも会話相手も違って、毎回違う気持ちで読めるので飽きなくて良いです。


 テーマになるのは、魂の不死性の証明という事で。なかなかアクロバティックな議論がされていて、純粋に会話内容が面白いというのが第一印象でした。だってねぇ、輪廻転生を論理的に証明する、とかすげぇ議論してるんだよ?w スピリチュアル方面で断言する人たちはそりゃいるけど、大真面目にロジカルな証明を試みるというのを読む機会はなかなか無いわけで。さすがソクラテスの手並みだけあって、それなりに説得力あるような気もしてくるから余計に面白いという(笑)。


 また、この作品は特に、いわゆるプラトンの「イデア」についての議論や記述が多い作品だと思うのですが、その内実が意外に豊かというか多様で、そこも面白く感じました。高校倫理の教科書で読んだのとは、かなり印象が違う。もちろん、西洋哲学の淵源を為す形而上学の萌芽でもあるのでしょうが、同時にギリシャ神話的世界観の中で語られる神話の一部でもあるし、フィジカルな肉体とそれが喚起する欲望から離れて美や善のイデアに親しむ哲学をする事は、ソクラテスにとって一種の精神修養でもある。さらに言えばより良い死後のための修養という意味で、一種の宗教ですらある。
 永久不変のイデア、という考え方自体が、ギリシャ神話の神々が不老不死な存在である事ともやはり密接に関わってると読むべきなのだろうな、という感想も持ちました。日本のように神々が老いて死ぬ事がありえるという神話的世界観を持っている地域では、このような観念は生じなかっただろうな、というような。


 物語としても、何とも言えない味があって、なかなか堪能させられました。
 魂は不滅であり、死後の世界の方が肉体に煩わされずに良く暮らせると主張するソクラテスに、弟子たちが疑問を呈して議論をするという。正にこれから毒薬を飲んで死刑に処されるソクラテスを相手にしているのですから、もし「魂は不滅だ」という師の仮説が揺らいでしまったら、それはこれから死ぬソクラテスの精神的な安定をも揺るがす事になりかねないのですが……そこで弟子たちが議論の手を緩めないというのが、無思慮ではなく師への信頼なのだなぁ、という事が伝わる書き方になってるのが、なかなか味わい深いわけです。
 その辺も含めて、ここまで読んできたプラトンの著作の中でも、特に楽しく読めたかなと。
 岩波文庫で現在(新刊で)入手できるプラトンの著作はあと『国家』だけかな? せっかくなので一気に読み終えてしまう予定です。