黄金狂時代


黄金狂時代 (2枚組) [DVD]

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 満を持してチャップリン見始めました。まずはこの辺から。
 正直なところ、大昔の喜劇映画ってどれくらい笑って見られるのかなという気もしていたのですが、いざ見てみたらけらけら笑って見るはめになりました。元がサイレントなせいもあって、言葉の壁とか文化的な断絶とかもなく、すんなり入ってすんなり楽しめた。なるほどねぇ、って感じです。
 主役が自分からバカバカしい事をやって笑いを取りに行くケースと、状況そのものが動いてその中で主役が意図せずキリキリ舞いさせられるのが滑稽でおかしい場合と、喜劇にもいろいろあると思うんですが、私が好きなのは後者なんで。そういう意味でもチャップリンの喜劇は肌に合うのかも。


 しかし、単に面白いってだけでなく、映像の表現力に素朴に驚いたところもありました。有名なシーンらしいんですが、チャップリンたちが雪の山小屋で食べ物が無くて、飢えた末に靴を煮込んで食べてしまう場面。これが何とも、今まで見たことないような新鮮な驚きとともに見ることができて、もうこの1シーンだけですっかりこの映画のファンになってしまったのでした。
 なんかもう、チャップリンが靴底を食べる様子の、なんと美味しそうなこと。大体私、映画見るときは夜0時前後の夜中なので、「革靴を食べるシーン」見て小腹がすいてくるという、異次元の体験をすることに(笑)。よもやこんな飯テロがあり得ると思わなかったですw
 単なる写実でもないし、最近だと映像の特殊効果ってCGばかりですけど、そういうCGともまた違って、なんだかすごく新鮮な映像体験だったのでした。「実写映像でこんなこともできるんだ」と、久しぶりにこんなに強く思わされた。


 映画の後半については、なんかだいぶ痛々しい展開でした。華やかな酒場で一人だけなじめずに浮いてしまうチャップリンの様子に、どうしようもないシンパシー感じてしまって苦笑いしたり(笑)。ヒロインに関わってもらって気を良くして白馬の騎士っぽく振る舞ってしまうところとかもこう、「やめとけって……」とか思いつつ、どうにも他人事のような気がしないわけですよ。ええもう。
 特に、ヒロインが大晦日に来るというのを真に受けて真剣に準備するチャップリンと、そんなこと忘れて、軽薄な言動をあれだけ嫌っていた酒場の男と仲良く年越しで盛り上がっちゃうヒロインっていう、いかにもありそうな、非モテ男にとっては信じたくない「現実」が無慈悲に描かれてですね、うわーうわーってなるの(笑)。
 これ、映画だから最後にチャップリンにもハッピーエンドが来ますけど、あの大晦日の場面のままエンディングになるのが現実なんですよ、ぼくはしっているんだ(何


 でも、見ててつらくはない。なんでかって、色恋方面でさっぱりダメなチャップリンが演じてる男の方に視点が寄り添ってて、しかもそれが喜劇調に、笑いとばせるように描かれてるからなんでしょうね。
 なんか、そういうところに、何とも言い難い嬉しさみたいなものを感じた気がします。


 誰だったかなぁ、落語家の人が言ってたっていう話をどこかで見たことがあって。
 忠臣蔵赤穂浪士は主君への忠義のために見事に散ったけど、そこで華々しく散る決心がつかずに、逃げちゃった家臣たちもいた。で、落語で主人公になるのは、そこで逃げちゃったようなダメな奴らなんだよ、っていう話だったかと思います。
 落語とか喜劇とかって、普通の物語なら主役になれないようなダメなやつ、みっともない奴、しょうもない奴を主役にして、そういうダメな奴の視点に寄り添ってくれるからか、私みたいなダメな奴にとって時にすごく優しい。慰められてるような気分になることがあって。
 この映画もだから、事前に予想してるのとは全然違う、予想外な展開ではありましたが、そういう慰めがもらえたような気がしてちょっと嬉しかったのでした。


 なるほどねぇ、チャップリンってこういう感じなのか、と頷きつつ。またちょっとずつ、暇を見つけて他のも見ていこうかと思ったことでした。