マルタの鷹


マルタの鷹 [DVD]

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 先日見た『カサブランカ』から、ハンフリー・ボガートつながりで。
 まぁ、ハードボイルド方面にはあまり今まで触れてきませんでしたが、「サム・スペード」の名前くらいは聞いたことあったわけで。正直、その名前にピンとくる事が出来なかったら、この作品も手に取れなかったでしょう。


 で、見終えての率直な感想として……もうストレートに、「カッコいい」、でした。やっぱこういう映画で、期待通りにそう思えるっていうのは幸せだぁね。
 特にこう、『カサブランカ』ではハンフリー・ボガートの良さというか、魅力がいまいちしっくり腑に落ちなかった部分があるのですが、このサム・スペードはストレートにストンと胃の腑に落ちました。こりゃカッコいい。


 頭のキレるヒーローがたまに見せる茶目っ気、というのが無類に好きなのですよ。それはもちろん、茶目っ気を見せられる余裕も含めてって事なんだけど。アメリカで作られた作品に登場するヒーローたちは、土壇場でもジョークを飛ばせるくらいの茶目っ気がわりと備わっていて、そういうのにはずっと憧れてきた気がする。
 もちろんただ軽いだけじゃなくて、内心の奥底には、底堅い意志も持っているというような……。
 そういう意味では、サム・スペードは私の中でパーフェクトなアメリカン・ヒーローだったのでした。


 作品としても、展開がとんとん拍子に進んで、退屈する事のない緊密な脚本でした。エンタメとしてよく出来てる。


 話の鍵を握る「マルタの鷹」については、かなり大仰なバックグラウンドが語られて、その辺がサム・スペードたちのリアリズムと相容れない要素に見えたのでいささか戸惑いましたが、まぁしかし、だからこそ彼は「くだらない」って切って捨てられるわけで、大仰な歴史の謎を巡る空騒ぎから、見事に実利だけ取り出して見せたサム・スペードの手際に感心すべきなんでしょう。


 そんなわけで、ほぼ突発的な思い付きで手に取った作品でしたが、非常に実り多い視聴体験でした。