ニーベルンゲンの歌


ニーベルンゲンの歌〈前編〉 (岩波文庫)

ニーベルンゲンの歌〈前編〉 (岩波文庫)

ニーベルンゲンの歌〈後編〉 (岩波文庫)

ニーベルンゲンの歌〈後編〉 (岩波文庫)


 なんとなく中世の騎士物語。これも名前ばかり耳にしていて、物語の中身は今回初めて知ったような感じ。
 色々、想像してたのと違うなぁという感じは多々ありました。物語の半分くらいは、中世の騎士や王様たちのVIP歓迎・贈答お付き合い作法の絢爛絵巻という感じで、この時代の文化風俗の面で興味深いと思いつつも、個人的に年賀状書くのすら面倒というお付き合い無精人間として、いささか居心地悪い読み心地でありました(笑)。
 ジーフリト(ジークフリートという呼び名の方が親しみ深いですが、本書ではこの表記)の竜退治とそれによる不死身設定など、ファンタジーっぽいところもありつつ、基本的にはリアリズム寄りの宮廷物語でありました。プリュンヒルトとの力比べの際に用いられた隠れ蓑くらいですかね、スーパーナチュラルな要素。


 むしろ、リアリズム寄りの物語だからこそ、色々と展開が身に迫って実感されたという部分もありまして。特に、最初はグリム童話なんかにも出てくるような、典型的な大人しいお姫様に見えたクリエムヒルトが、ちょっとした食い違いときっかけでプリュンヒルトとの「女のプライド対決」に突入してしまい、圧倒的1ターンキルでプリュンヒルトのプライドを葬り去る劇的展開に、心底恐怖して震えました(笑)。いや、ここ一年ほど読んだ中で、もっとも戦慄したかもしれないw
 プリュンヒルトは劇中、恐るべき膂力を示して、並み居る勇者を寄せ付けない圧倒的強さを示し、ジーフリトによって辛うじて勝てるくらいの人物なのですが、それがお箸より重いもの持ったことなさそうな箱入りお姫様に、言葉一つで粉砕されて泣き崩れているという、すごい場面だったのでした。ペンは剣より強いって言うけど、これは……。
 いやはや人間って怖いッスw


 そして後半は、怒涛のバッドエンドへ向けて着々と進んでいくわけですが。
 なんかこう、この作品、もう最序盤の冒頭からずっと、「これが後に大いなる悲劇をもたらすのである」みたいな、とにかく最後は悲劇になりますよって事をくどいくらいに、もう数ページに一回くらいのペースで語り続けるんですけど(笑)、そんな「バッドエンド予告」が終盤になるほどにペースを上げて行って、もうなんだこれ、っていう感じに。
 全体的に、かなり特異な構成の話になっているようで、現代日本の物語のパターン、いわゆる「お約束」を念頭においてると、容赦なくそこが外れていくんで、そういう展開の意外さがまた面白かったりもしました。あ、この人物、この流れでこんなセリフ言ったら絶対討ち死にするな、と思って見てたら生き残ったりとか(笑)。
 ジーフリト暗殺をはじめとする陰謀を主導したトロゲネのハゲネとか、そういう人物なら普通は真っ向勝負には弱そうというイメージでいたら、これがとんでもない豪傑でめっぽう強かったり(笑)。


 最後の方の連戦は、さすがに読みごたえがありました。戦いそのものも、またそこで交わされる人間関係とかも、物語として大変魅力的で。
 またね、一部すごいキャラが立ってるわけです。ハゲネと共闘するフォルケールとか、ヴァイオリン弾きなのに、そこらの一般兵が束になってかかっても敵わない豪傑で、言動も荒くれ者だという、すごいキャラ立ちしてるわけですよ。これがまたカッコ良かったりして。
 そんな感じで、全体のストーリーから細部に至るまで、見どころの多い楽しい読書でありました。
 さて、次。