独裁者


独裁者 (2枚組) [DVD]

独裁者 (2枚組) [DVD]


 ようやくチャップリンの『独裁者』が借りられていない機会を捉えられたので、大急ぎで借りてみた。


 とりあえず素朴な感想として、チャップリンヒトラーのマネ、上手いなぁと(笑)。まぁ私はドキュメンタリーあたりでちらっと見た事くらいしか無いわけですが、さすがに特徴はよく掴んでるよなぁと。で、似ているところからいきなり『モダン・タイムス』のティティナみたいな仕草に切り替わったりするので、やっぱり笑ってしまう。
 そういう意味で、単にコメディとしては十分すぎるくらい面白かったわけでした。


 一方で、もちろんこの作品を見るにあたっては、第二次大戦との関係や距離感に注視して見ざるをえないわけですけれども、その点については、微妙に距離感を測り兼ねたまま見終えたという面がありまして。劇中のユダヤ人たちの扱われ方もチャップリン映画としてはかなり重い描かれ方になってはいるのですが、しかし私の知っている第二次大戦の情景と重ねると、微妙に軽い。
 それで視聴後にWikipedia見て、ようやく合点がいったのでした。この作品を制作していた時点でアメリカはドイツに宣戦布告しておらず、またチャップリン自身もホロコーストを知らなかったと。ヒトラーについてもこの時点では評価は様々だったということで、そこまで把握してようやく腑に落ちたという感じです。なるほど、「それくらいの緊張感」だなと。
 あの最後の演説で、事態が全部丸く収まったと見えるラストというのは、正直言って軽いというか、少し不誠実だという印象が残っていたのですが、制作時点での状況がそういう状態だったなら、距離感としては「まぁ分かる」という感じ。


 とはいえ、視聴している私はやはり今日的な目で見ざるを得ない面もあるので、総体としては先日見た『殺人狂時代』の方がメッセージ性の強度としては高いと思ったわけでした。


 そしてまた、単純にヒトラー批判としても、この作品がどれほど効果的なのか、有効なのかという事について、実は半信半疑で見ていたという部分があります。私は二次大戦時のドイツにも詳しくないし、『我が闘争』とかも読んでないから明確に比較できるわけではないけれど……。
 根本的に、風刺というものに対して、私が不信感を持ってるという事なのかなと思うのですが。対象を戯画化する形で批判するというのは、その対象の倫理的・論理的な問題点の指摘をするというよりも、やはり印象としてネガティブなものを付与して貶める事であって、たとえチャップリンほどの腕をもってしても、「風刺」というのは問題点の核心を取りこぼしたり、矮小化したりしてしまうのではないか、という疑問が拭えないのでした。
 もちろんこれは、平和で言論の自由が確保されている現代日本でのうのうと意見表明ができているから言えるのであって、風刺という形が最も有効な局面もあるのでしょうけれども……。


 そんなこんなで、少し距離をとった見方をしてしまいましたが、十分に楽しく見られたことも確かでした。どうあれこれでまた一つエポックを消化したという事で、どんどん行きたいと思います。